2023年5月 2日目(4)
仕事が無くなってから俺の1日の始まりは遅くなった。
今日は目が覚めると、いつもより1時間以上遅い。
目覚めたばかりの脳に耳から楽しそうに話す2人の女の声が聞こえてきた。誰だろう、楽しそうな声と、時折聞こえる笑い声は、今、起きたばかりの脳に心地よく響く。
一人は隣のおばさんだが、もう一人の若い声を聞きながらもう一度眠りに落ちかかった。あんな声の若い女居たかなって考えながら聞いていると、二人が笑い声になった途端、若い女の笑い声が頭の中で記憶とシンクロして、昨日見た顔が浮かんだ。
昨日の女の声だ、二人の顔が同時に頭に浮かんで話をしている。女の声の記憶が蘇ると、何故ここに居るのかという理由が頭の中でフラッシュしている。
マズイ。
事の次第を理解するのは一瞬だった。飛び起きて、隣を見ると女が居ない。やっぱり、外から聞こえた声はそうなんだ。
急いで服を着て外に出てみたが、間に合わず隣の奥さんはもう遠くの後ろ姿だった。声の聞こえた場所に行くと、膝上までの黒いスカートに黒い透けて見える生地が重なったスカートに、青か緑の薄い色で体にフィットする小さなVネックのニットを着た女がたっていた。ニットの縦のリブ模様が女らしい体の線を描き、薄い色に胸元の影が落ちている。
一目では女が誰か判らなかったが、近くまで走って行ってみると、髪だけは昨日のままの女だった。
順光の光はスカートの中の女の足の白さを透かし出している。
一瞬、頭が混乱した、目の前に立っている女の変わりように驚いて声がかけられない。昨日は今風な作業服だったから、ときめかされることも無かったが、なんだ、この女は、声が出ない。普段なら、自分と話をするような種類の女に見えなかったのだ。
女は俺を見て「遅いじゃない、どうしたの、走ってきたりして、しかもボサボサ頭で」って勝ち誇ったような顔で言いながら笑ってる。女の顔が輝いていて目を奪われた。声が出ずに、半歩下がって、女の姿を、下から上へ瞬きもせずに眺めてみた。
「隣の奥さんと何か話したのか?」と、聞いてみた。情けなく声が震えている。
「ちょっと挨拶しただけよ。でも、なに、その格好、どこかから逃げてきた感じじゃない」と、笑いながら答える。見てみると確かにベルトは留めずにダランとして、シャツは裏返しだった。
「それだけか?」と聞く、少し落ち着いたがまだ声が震えている。
「駄目じゃ無い、ほら手を上げて」、と言いながら、俺の後ろに回りシャツを脱がしにかかる。
「どうするんだ?」
「裏返しじゃ無いの。脱ぎ捨てたのをそのまま着たんでしょ」
言いながら、シャツの裏表を直して俺によこした。
「ちゃんと着て」
「何を話してたんだ?」女は聞かれたことを無視して。
「もしかしたら、パンツも裏返し」
パンツと言われて気が付いた。パンツは履いた記憶が無い。シャツをきちんと着直し、ベルトを締めてから聞いた。
「いや、パンツは良い。何話してた?」
「いろいろとお話ししてたの。でも、どうしたの、そんなに慌てて、パンツはちゃんと履いてるの?」
「パンツは良いって、そっちこそ、朝からそんな格好で、どうしたんあ」
「どうしたの、舌かんじゃったの、どうあたし?」
「痛っ」
「やだ、可愛くないの?」
「そんな格好の女がこんな所に朝早くに居たら、デリヘルか何かと間違われるだろ」
「やだ、デリヘルなんて、ちゃんとお話ししたから、大丈夫」
「話をした、何を。どう見ても、デリヘルの女と俺が朝までしてたって風にしか見られないぞ」
「やだ、もしかしたら、いつも呼んでた。、デリヘルってここまで来るの?」
「呼んでないよ、それになんで勘違いしないって解るんだ」
「だって、ちゃんと説明したもの。泊まったのかって聞かれたから、昨日、引っ越しして来たんですって言って、1時間くらいお話ししてたの」
「1時間、それに引っ越し」
「1時間なんてあっという間よ」
頭の中で1時間の会話の情報量を考えたら寒気がした。
「なんで引っ越しなんだ、他に何を話した?」
「いろいろと、だからおばさんはそういう女とは思ってないって。でも、出てこなくて良かったね。さっきの格好で出てきたら、あなた、デリヘルじゃないこと説明するの大変よ」
「そうかも知れない」
「だけど、どういう関係だと言ったんだ」
「あたし言わなかった気がするけど、でもおばさんの感覚だと恋人かな、奥さんかな」
「恋人」
「それとも、関係のないひとだったらデリヘル、どれかな」
「なんて言ったんだ?」
「覚えてない、聞いてくれば」
「田舎だからもうすぐ結婚するか、結婚してるか、どっちかじゃない、あたしは泊まったって言っただけよ」
「それ以外は、言ってないのか?」
「言ってないわよ、案外ガードが堅いから、あたし」
「聞いてきた方が早くない?」
「いやっ、それは」
「あら、いやなの」
「出来ないだろ」
「だいたいデリヘルなんておばさんは知らないでしょ」
「言われてみれば、そうだ」
「でも、働いてるのは女だから、知ってても不思議はないかも」
「取りあえず、デリヘルは関係ない」
「自分で言ったんじゃない、でも、どうしたの、ちょっと落ち着いたら」
「デリヘルは納得したの」
「ああ」
返事をしながら女の顔を見ると明らかに笑っている、その顔が可愛い。
「昨日引っ越ししてきたって、言ったのか?」
「だって、ほら、こうして住んでるんだもん、間違いじゃないでしょ。住んでなかったらこんな時間に居ないでしょ」
「まあ、そうだな」と、納得し掛かったが、重ねて、
「さっさと起きてくれば良いのに、今日からの予定を相談しようと思って、ずっと外で待ってたのに、来ないから先に言っちゃったの」
「言っちゃったって、住んでるってか」
「だって、言わないとそれこそデリヘルよ、良いじゃない住むって決めたんだから」
「住むって決めたって、いつの間に」
「やだ、覚えてないの昨日のこと、『住みたい』って言ったら返事しながらキスしたでしょ。外で誰かに会ったら、聞いたら隣の奥さんだったから、じゃあ、先に言っても大丈夫かなって言っちゃったの」
「俺が返事したって」
「駄目だったの?」
「言っちゃったんだろ」
「駄目なら、行って取り消してくるから、何て言えば良いの、デリヘル」
「いや、ちょっと待って、奥さんだと思ってたら話がますますおかしくなるだろ」
「じゃあ、恋人」
「どっちでもいい」
「取り消してくる」
「行かなくて良い」
「そんな事したら、余計いろんな事聞かれるだろ」
「その時は、昨日のこと全部言って、デリヘルって言っちゃうからね」
「ちょっと待てって」
「これから、やっと楽しく暮らせるかなって思ったのに、悲しくなる」
「ちょっと待てって。いきなり引っ越ししてきたって言ったって、俺が昨日聞いたのは、名前と生年月日くらいだぞ」
「やだ、警察みたいじゃない、他は覚えてないの」
「あとは、仕事と家の事を少し」
「他には?」
「どうせ、今日帰っちゃうんだろと思ったから」
「やだ、今日帰っちゃう人に、あんな事したの」
「あんな事って」
「やだ、とぼけちゃって、覚えてないの」
「覚えてるさ」
「覚えてますよね、自分でしたんだもんね、あんな事とか、こんな事」
女は人差し指を俺の顔の前でぐるぐる回して、言い終わると、横を向いた。
横から見ると髪は昨日のままだが、顔の輝きと上半身のラインに目を奪われた。
「解ってるよ、怒ってるのか?」
「だって、あたしが住みたいって言ったら、あなた断らないでキスしたでしょ」
「住みたいって、いつ?」
「キスする前」
そういえば何か言ってたが聞き取れなかった。
「あなたが了解したと思ったから、止めなかったのに」
少し間が有って、泣いたような声で、
「朝になったら捨てられて『ポイ』なんて、悲しい」
「そんな事言ってないって」
気まずくなったので、言ってみた。
「ちょっと、そこでグルッと回って見ろよ」
「何よ、全身が見たいの、こう」
「そうそう」
「どうしたの、こんな事させて」
「へえ、こんなだったんだ」
「やだ、値踏みしてるの」
「ねね、デリヘルってこんな女が来るの。デリヘルっていくらなの。あたしでも出来る?」
「知らない、呼んだ事ないし、あんたが行くような所じゃない」
「どうしてよ、追い出すんだったら、紹介してね」
「やだよ、絶対に行って欲しくない」
女が俺の隣に来て腕を取った。
「良かったそう言ってくれて」
「全身見たんだから、早く感想を言いなさいよ」
「可愛いけど、だけど、俺はこんな格好の女と話した事が無いから」
「あらあ、こんな話が出来ないような女に、昨日、何しちゃったのよ」
「解ってるよ」
「昨日の夜よ、その話をしたの本当に忘れちゃったの?」
「その話って」
「住みたいって」
「聞いたっけ」
「返事したよ」
「なんて」
「場所は空いてるからって」
そういえば、場所があると答えた記憶は有る。
質問が判らない。
「その後よ、アタシをどうしたの?」
「解ってるよ、怒ってるのか」
「怒ってるのか気になるの?」
「気になる」
「知りたいの?」
「知りたい」
女が正面に来た。
「だったら、もっと近付いて」
「このくらい」
「もっと」
「これ以上近付いたら、触っちゃうじゃないか」
「触っちゃえば、昨日触ったんでしょ」
「セクハラだろ」
「何言ってるの、気にするのはセクハラじゃなくて昨日の事でしょ、あんな事したのに。ほら、ここに手を置いて」
「ここに」
「大丈夫、震えてない、ほら、まっすぐあたしの顔を見て」
「見てる」
「ほら」
「近い」
「どんな顔してる、怒ってる様に見えるかしら?」
昨日も感じた通り、韓国の女優に似ている。多分、キム・テリだったか。昨日は暗めで疲れた感じだったが、今日はそんなに寝てないはずなのに、明るく、輝いている。
「いや、怒ってない、可愛い、でも昨日の顔と違って透き通ってる感じがする」
「わかるのね、この透明感が、感心ね」
朝の光が目にキャッチライトを落とし、さっきの泣きそうな声とは違う弾んだ声だった。
「今日はちゃんと作ったんだから、昨日の顔があたしと思われたくないの」
「見違える、綺麗だよ」
「でしょ、時間掛かったんだから、どうしてなのか解る?」
「えっ」
「もう鈍感なのね」
「鈍感」
「見せたかったの」
「誰に?」
「あなたの他に誰がいるのよ。でも、良かった綺麗って言ってくれて」
「何で?」
「解らないの、ほら良く見て」
「えっ」
「住んで良いのよね」
「良いよ」、つい圧倒されてそう答えてしまうと、
「そう、怒ってる顔に見える」
「御免、まっすぐ見れない」
「やましい事が有るからでしょ」
「感じないの、この優しさにあふれた20代の女の顔を」
「そうだね、優しいかな」
「感じないかな、あたしの心を」
「また、したいなんて考えてるでしょ?」
「からかうなよ」
「あら、したくないの?」
「えっ」
「昨日言ったでしょ、仕事は無くなっちゃったから、今日はずっと大丈夫よ。朝からする?」
「え、大丈夫なのかよ」
「やっぱり、したいの」
「いや、今は」
「そうね、今はショックが大きいわね」
おれは女の肩から手を離した。
「そうだ、何でこうなったかが、まだ理解できてない」
「そうなの」
「したいならしたいって言って、今日はいつでも大丈夫よ」
「そっちじゃない」
「あら、何かしら?」
「何で、住むことになったんだ」
「気に入ったから」
「家がか?」
「そんな訳ないでしょ、あなたが気に入ったの」
「でも、怒ってたんじゃないのか」
「まだ言ってるの、怒ってたら」
「もっと、近くに、来て」
「このくらい」
「怒ってたらあなたと住むなんて言わないでしょう」
「まあ、そうだな」
「解ったでしょ、あなたと住むから」
「俺はどうするんだ」
「一緒に住むに決まってるでしょ、あなたと住みたいの」
「さっきから、一緒に、住むって言ってるのよ、頭は起きてる」
「そうだよな、大丈夫か俺」
「本当よ、大丈夫」
「大丈夫だと思うけど」
「頼りないなあ、しっかりして」
「あ、それと、ちょっと見せて。女が俺の手を取った。どの指かな爪が痛かったの」
「え、これかな」
「昨夜、痛かったわ」
「ごめん、ひっかいた」
女がスカートの裾をとってまくり上げる。
「ここ、ほら跡が残ってるでしょ」
「待て待て、スカートなんか上げるな」
「だって、爪の跡を見せたいの」
「解った、家の中で見るから」
「ここで良いじゃない、別にキスしてなんて言わないから、これくらい何よ、もっと近くで見てよ」
「だってスカートなんか上げるから」
「ドキッとしたでしょ」
「ちゃんと見たよ、もういい、気をつけるよ」
「そうだね」、そう言った後で優しく睨みながら、
「でも、昨日キスしたいって言ったよね」
「確か、昨日、足にキスした」
「したでしょ、足だけ」
「他にもした」
「良かった覚えてるわね」
「悪かった」
「何謝っちゃうの、あたしが良いって言ったんだから良いの、これからもするんでしょ」
言われて、昨夜の女の白い足を思い出した。
「だって、夕べ触ったでしょわたしの肌に?」
「多分」
「多分じゃ無いでしょ」
「別に良いのよ、あんな事したんだからそれは仕方がないでしょ」
「あっちもこっちも、触ったわよね?」
「白くて、柔らかくて、良い匂いだったから」
「匂いまで、解ったの、でも触っただけじゃないよね?」
「解ってるよ。触っただけじゃない」
「楽しかった?」
「楽しかったよ」
「良かった、楽しんでくれたのね」
「でも、なんであんな事しちゃったの?」
「え、どうせ、今日帰っちゃうんだろと思ってたから」
「あら、今日帰る女だったら抱いちゃうわけなの」
「駄目なら、途中で止めるだろうと思って。止められないから、そのままキスしたら頭の中で Tonight’s The Night が聞こえてきて、よし今夜決めてやるって」
「なにそれ」
「知らないか、でも聞こえてきたら止まらなかった」
「あら、その曲が掛かるとやっちゃうの?」
「そんな事言ってないけど」
「今聞いたら襲っちゃう」
「そんな気分じゃ無い」
「誰が相手でも?」
「そんな事無い、目の前に良い女が居たらそうなるだろ、相手次第だ」
「最高の夜に、最高の相手、我慢出来なかった」
「良かった、あたしが最高の女だったって事ね」
「まあ、そうだね」と、そう言うといきなり腕を組まれた。
「教えてあげる、あたしも同じだったの。だから、住みたいの」
「なんだよ、散々引っ張っておいて、どう言う事だよ」
「でも、安心したでしょ」
「まあね」
「それと、次はだめよ、ちゃんと爪の手入れしといて」
「後で、さっき言ってた良い匂いも嗅がせてあげる」
「解ったよ、他は大丈夫か?」
「調べるの」
「調べたのか?」
「朝から身体検査なんてするの」
「いや、申し訳ないと思ってさ」
「まさか、もしかしてわざと嫌われてバイバイとか考えてる」
「何言ってる、居て欲しいから、言ってるのに」
「あら、いきなりそんな事言って、それ本心なの」
「本心だよ」
「だから、居なくなると思って心配したの?」
「成り行きで、触ったら気持ちよくて」
「20代の女の肌よ、当然でしょ」
「触ったら止められなくて」
「それで朝まで」
「朝まではオーバーだろ」
「何時までだったか、覚えてるの」
「覚えてない、そのまま寝ちゃったから」
「そうよね、今朝起きた時、どんな格好だったの?」
「見たんだろ?」
「はい、バッチリ、すごいわね」
「何がすごいんだ?」
「大きい声じゃ言えない、聞きたいでしょ?」
「まあ」
「聞きたいなら、もっと近くに来て」
「このくらい」
「そう、教えてあげる、元気に『朝立ち』してた」
「見たのか?」
「はい、だってパンツ履いて無いし、触っても気が付かなかったでしょ」
「触ったのか?」
「はい、あんまり愛しくって。裸の男と朝を迎えると楽しいわ」
「おもちゃにしてるのかよ」
「裸で寝ちゃってパンツも履かなかったあなたが悪いんじゃない」
そう言われて、今も履いていない気がして手で探ってみた。
「その元気なモノ、昨夜何に使ったの?」
やはり、今も履いていない様だ。
「覚えてるよ」
「昨日初めて会った女を家に連れ込んでしちゃったんでしょ」
「そうだよ。でも、泊めてくれって」
「あら、泊めただけじゃないでしょ」
「まあ、そうだけど」
「泊める以外に何したのよ、泊めたらいつもあんな事するの?」
「女を泊めた事なんて無いよ」
「間違いないわよね?」
「間違いない、けど」
「けど、何」
「良い女だったから、つい気持ちを押さえられなかった」
「素直ね、良かった、ちゃんと見てくれて」
「覚えてるなら、もっと言っても良い」
「まだ有るのか」
「大きな声で言えない事」
「何だよ」
「もっと、近付いて」と、囁供養な距離に近付いた。
「こう、耳を貸して」
「こうか?」
「もっと」
「いいか、これで」
「誰も聞いてないよね」
「何だよ」
「言っちゃっうわよ」
「だから、何だよ」
「ずいぶん、溜まってたの?」
「えっ」
「何回したのか覚えてる?」
「えっ」
「しかも」と、言って声のトーンを落として、
「もっと近くに来て」
さらに小さな声で、
「何も付けてなかった。出来ちゃったらどうするつもり?」と、囁いた。
「どうしたの、黙っちゃって」
「それは」
「なあに」
「相手が良かったから、つい」
「また、相手が良かったから、同じ理由で着けなかったの、おかしくない」
「止めてくれると思ったから」
「男に襲われて止められる女なんて居ると思うの」
「難しいかな」
「そうよ、あたしも出来ないわよ」
「あたしが断ったらやめてた」
「もちろん」
「あたしがオッケーしたと思ったの」
「思った」
「それに、成り行きはないでしょ。興味が無い女でも成り行きなの」
「いやな女なんかに近寄る訳ないだろ、毛虫以下だ。良い女だなと思ってたら、目を閉じたから、つい」
「あんな時間よ、眠かったとか他の理由は考えなかったの?」
「考えなかった、今までで一番良い女が目の前に居て、仲良くなりたいって」
「良かった、成り行きって言ったから心配しちゃったじゃない」
「昨日言っただろ、泊めてやるけど襲われても知らないって」
「でも、言うのと、実際に襲うのは違うんじゃない」
「そうだけど、責任はとる」
「どうとるの」
「任せるよ」
「本当、良かったあなたなら大丈夫よね。話をしてから、住むことを言いたかったのに、なんで起きてこなかったの」
「起きられなかった」
「さっさと、起きてこないのが悪いのよ」
「気持ちよく寝ちゃって」
「気持ちよかったの?」
「疲れたかな」
「嘘でしょ、覚えてる?」
「何を」
「夜こんな事したでしょ、ピンって」
「やめろ、あれは、ちょっとふざけただけだ、あれは特別だ」
「3回目の特別サービスなの?」
「3回?」
「3回したでしょ、3回目の時よ」
「そうかな、でもあれは特別だ」
「あら、私は特別なの」
「あんな事を人に見せたの初めてだ、やるんじゃなかった」
「元気なところを見せたかったのかなあ」
「つい」
「ねね。あんな事練習するの」
「別に練習じゃない、老化防止だ」
「老化防止?」
「そろそろ、危ない年なんで」
「でも、あれなら大丈夫じゃない」
「解るか、あれは突然来るから」
「じゃあ、毎日訓練しないと駄目ね、良いこと聞いちゃった」
「何だよ?」
「これから、毎日訓練よ、覚悟してね」
「何だよ、突然」
「あら、元気で居たくないの」
「勃たなくなるのは悲しいけど」
「でしょ、あたしが手伝ってあげるから、訓練しようね。元気で居たいでしょ」
「もちろん、そうだけど」
「良かったわね、あたしに逢えて、あっちの健康のための良き理解者は必要ね」
「必要は認めるけど」
「良いじゃない、これからも元気で頑張ろう」
「まあ、それは」
「あんなに元気なモノが有るんだもの襲っちゃうわよね」と言う、なんて事を言うんだ。
「安心して、誰にも言わないから。でも」
「なんだ」
「また、見せてね。見たこと無かったから、興奮しちゃった、想像以上ね」
「脱線しちゃった、なんだっけ、そうそう」
「だから、朝起きてから、相談したかったのに、起きないから」
「悪かった」
「でも、幸せだったわ。あなたの寝顔といびき、そして朝立ち。
昨日あんなに頑張ったからこんなに寝てるのかなって、男って可愛い。そして、女の幸せを感じたの。
本当よ、起きたらちゃんと言おうと思ったのよ」
「何をだよ」
「こういう事よ」
いきなり、腕を組まれた。
「これって」
「見て解らないの、決めたの」
「どういう根拠だよ、まさか、あれの回数とか朝立ちで決めるのか?」
「何、頓珍漢な事言ってるの、違いますよ」
「腕を放した」
「じゃあ、何だよ?」
「あたしの気持ち」
「何だ、それ」
「こっち来て」腕を引き込まれて柔らかい胸が当たる。
「また」
「あなたと一緒に住みたいの、それにね、聞いて、これが大事な事だから」
「まだ有るのか?」
「本当に大事なの」
「だから、何なの?」
「昨日みたいな時でも」
「昼間の」
「他にも」
「食事に行った時とか」
「他にも」
「夜の事か」
「それも有る」
「他にも有るのか」
「今こんなに追い詰められてるでしょう」
「やっぱり追い込んでるのか」
「そうよ、それでも」
「何だよ」
「女を馬鹿にして話も聞かないで怒ったり、大きな声を出して手を上げたりしないから」
「当たり前だろ」
「いつも、そうなの?」
「女に手を上げるなんてしない、それだけはしたくない」
「これからも」
「当たり前だろ」
「女は話をすると判るの、女を馬鹿にしてるとか、ただの獲物と見てるか」
「あなたは大丈夫でしょ、馬鹿にしてたの、それとも獲物?」
「馬鹿になんかしてないけど、獲物かって言われると」
「判んないなあ、食い逃げなの、付き合うの?」
「付き合うさ、当然だろ」
「それが大事なの、女が一番警戒するのが野蛮な暴力男と、ヤリ逃げ男なんだから」
「そんなみっともない事出来るか」
「良かった、安心して話せる人で嬉しい、これで全部解決」
「なんか、ずいぶん回りくどくないか」
「だって、こうすると本性が見えるでしょ、尋問されてた様な気がしなかった」
「じゃあ、何だ、合格か」
「そう、うれしい」
「起きたらいきなりこんな事なんであまり理解できてない」
「駄目よ、理解して、それとこれはご褒美」と言って、腕を放した。
「何だよ」
「暴力男じゃなくて、安心したから、ほら両手を伸ばしなさい」と言いながら、俺の前に立った。
「何だよ、こうか?」
「そう、それで、前へ進む」
「えっ」
「ほら、ちゃんと抱きなさいよ」
「えっ」
「ビクビクしないで、朝の挨拶は」
「なんだよ」
「こうするの」と、言ってキスしてきた。
「いきなりか」
「だって、朝、顔を合わせてどれだけ時間が経ってるのよ」
「待ってたのか?」
「そうよ」
「でも、こんな場所で」
「見られたら、誰か来るの?」
「来ないけど」
「じゃあ、良いじゃない」
「強引だな」
「だって、あなたがもたもたしてるからよ」
「でも、怒ってるとか暴力男がどうとかって言ってたから」と言いながら、女の体から離れた。
「それはクリアしたんだから、明日からはあなたからするのよ」
「えっ」
「待ってるのにしないのも暴力よ、寂しがらせないで」
「違うんじゃない?」
「傷つくのは一緒」
「そうかなあ」
「しなかったら、怒るからね」
こっちを見る目に力がこもっている気がした。
「解ったでしょ、毎日するのよ」
「解ったよ」
「じゃあ、今日の分は?」
「え、終わったんじゃないのか」
「あれは、リハーサル」
「本番は、これから、自分でするのよ」
「こうか?」と、女の背中に腕を回した。
「何してるのよ、胸が当たってないでしょ、抱いてるつもりなの」と、指摘されると、
「ちゃんと抱いて」そう言われて、女の体を抱き込んでキスをした。
「ほら、出来たじゃない、これを毎朝するのよ」
「毎朝か?」
「それと、ちゃんと匂いも嗅いだ、さっき言ったでしょ、嗅がせてあげるって、しなかったの?」
「えっ」
「こう、女の胸元から上がってくる匂いが有るでしょう、解らなかった」
「そっちまで夢中で気がつかなかった」
「駄目ねえ、匂うよう胸元が開いてるのに、無駄な努力になっちゃったの」
「だめじゃない、もう」
「もう1回するのか?」
「したいの、熱心なのは良いことよね、良いわよ」
そして、もう一度抱きしめてキスをした。
「どう、今度は?」
「大丈夫」
「余韻に浸ってない?」
「良い匂いだ」
「どうしたの」
「なんだか、心が穏やかになった気がする」
「じゃあ、もっとつらい時は直接胸でも良いわよ」
「えっ」
「どうしたの?」
「そう言われたら、なんか急につらくなってきた」
「やだやだ、可愛すぎ、したくなった」
「なんで朝からこうなんだろって」
「今度はあたしからしちゃう」
「何を、4回目のモーニング・キス」と言って女の方から抱きしめてキスしてきた。
「ほら」キスしている位置から、頭が下げられて、女の胸に顔が当てられた。
「あたし達馬鹿ね」
「どうしたの、大丈夫?」
「ちょっと、クラクラした、女の匂いに」
「やっぱり、男を胸に抱くと女は母性を刺激されるのね」
「そうか」
「楽しい、あなたといるとどうしてこんなに楽しいの。あなたは、どう?」
「まだ、クラクラする」
「そう、良かった、暴力男じゃなくて。
それと、さっき言ってた匂いした。若い女の匂い」
「うん」
「どうなの」
「ちょっと興奮した」
「もしかして、怒りたい?」
「別に怒りはしないけど」
「手は上げないけど」
「いつかお仕置してやる」
「あ~っ」
「何だよ?」
「なんで引っかかるのかな」
「何が?」
「可哀想なくらい引っかかっちゃって」
「えっ」
「そうそう、朝の挨拶もすんだんだから、これからはあたしは麻衣って呼んで」
「昨日聞いたのって、麻衣だったっけ?」
「覚えてないの、もしかして目の前に居たのはヤリ逃げの獲物だった」
「なんの事だよ?」
「あたしの事よ判った、これからは麻衣よ、大丈夫でしょ」
「判ったよ」
「あたしはあなたをこう呼ぶの、御主人様」
「なんで、御主人様なんだよ」
「それはね」
「またか、何なの」
「今朝、起きてから隣の部屋に行ったの」
「隣の部屋」
「見られたら困るの」
「大丈夫」
「そう、本が一杯だった」
「そうだけど」
「どのくらい有るの?」
「3000冊越えてる」
「そんなに読んでるの、すごいじゃない」
「途中までしか呼んで無いのも結構有るから、捨てないから有るようなモノだけど」
「どんな本が好きなの、御主人様?」
「戦史、政治と歴史かな」
「へえ」
「関係あるのか?」
「すごい、インテリなんだ」
「読んでるだけだよ」
「それでね」
「何だよ?」
「女の写真が載ってる本とかも有る」
「探したのか?」
「見えなさそうな所に有ったわよ写真集が、何冊有るの」
「何だよ、見たのか?」
「見たわよ、あんな所に置いてあるから、すぐ解った、あれで隠してた積もりだったの」
「別に隠した積もりじゃ無いけど、写真集だろ」
「そう、中を見たの」
「見たのか?」
「女の人がね大変な状態になってる写真」
「そうだよ」
「今、お仕置きって言ったから、思い出しちゃったの」
「全部見たのか?」
「少しだけよ、あんな趣味なんだ」
「何だよ?」
「あたしもあんな風にされるちゃうのかなって」
「あんな風って?」
「あんな事されたらあたしどうなっちゃうのかなって」
「興味有るのか?」
「有るわよ、御主人様の趣味に」
「こんな事に付き合わされたらどうしようって」
「その気が有るのか?」
「どんな写真か解ってるんでしょ、言いなさいよ」
「何を言うんだ」
「どんな趣味なの」
「言えば趣味にお付き合いしても良いのになあ」
「本当にか」
「あら、のってきちゃったの」
「付き合うって言うから」
「だから、ガードが緩いって」
「釣りだったのか」
「ガードが緩い御主人様が悪いの、でも」
「でも、なんだよ」
「したいんなら良いよ、付き合って上げても」
「えっ」
「だから言いなさい」
「見たんだったら、解ってるんだろ」
「言わなきゃ解らないでしょ」
「解ってるんだったら良いだろ」
「言わないと、付き合わないわよ」
「解ったよ、言うよ」
「言って」
「女を縛ってる写真だよ」
「なに聞こえない、大きな声は要らないけど、小さすぎて聞こえないの」
「女を縛ってる写真だよ」
「そういう、趣味なの」
「趣味は自由だろ」
「大丈夫よ、止めろなんて言わないから」
「じゃあ、そのうち趣味に付き合って上げちゃおっかなって」
「本気か」
「ちょっと、考えちゃった、内心良かったって思ってるでしょ」
「なんか魂胆が有るのか」
「そんな事ないわよ、聞きたかったのは、これが最後だから」
「じゃあ、何だよ」
「御主人様への興味と信頼そして趣味への理解を深めたいの」
「難しいことを言う」
「この人は駄目だってなったら、そんな趣味に付き合わない、写真集も捨てちゃう」
「出て行くんだったら捨てる必要ないだろ」
「やだ、出て行くなんて言ってないでしょ、あたしが住む所にそんなの置いておきたくないからよ、勘違いしないで」
「住むのか」
「さっきから何回も言ってるでしょ、あたしは御主人様と住みたいの」
「それとも追い出したいの?」
「いや」
「居て欲しいの?」
「せっかくこんな関係になったんだ、居てくれたら嬉しい」
「それなら、ちゃんと言って」
「なんて?」
「解るでしょう、これだけ言ってるんだから」
「居て欲しいんでしょう?」
「ずっと居て欲しい」
「お願いしますは」
「お願いします、ずっと居てください」
「良かった、これで居座ったなんて言われないわよね。ここに居られるなら、御主人様の趣味の相手になっても良いかな」
「どうするんだよ」
「信頼できない男に縛られるなんて出来ないでしょ」
「まあね、言われるとおりだ」
「だから、あたしが信頼出来る男か証明しなさい、それが一番よ」
「解ったよ」
「証明するのよ、変態だけど紳士だって」
「変態だけど紳士」
「パンツを脱いでも紳士で居られるの」
「パンツを」今履いて無い。
「でも、昨日少し確かめちゃったしね」
「じゃあ、解ったんだろ」
「昨日は元気なのは解ったから」
「から、なんだよ」
「誠実な紳士かどうか」
「誠実で変態だけど紳士だって」
「野蛮人じゃ無いって事は少し解ったから」
「野蛮人って」
「暴力男のこと」
「さっき言っただろ、そんな事しないって」
「そう、それを聞いて嬉しかったわ」
「男って言うより、人間として最低だろ」
「わ、すごいこんな状況でも冷静ね」
「当然だろ」
「そうなの、野蛮人は駄目よ」
「解ったよ」
「でも、これから1ヶ月は駄目」
「何で?」
「あら、すぐにしたいの」
「駄目なのか?」
「まだよ、あたしに心の準備させて」
「準備が必要なのか?」
「まだ、縛られた事なんて無いのよ、後で見ながら説明して」
「何を?」
「今、自分で言ったでしょ」
「何を?」
「しらばっくれないの。」
「さっき、御主人様が言った女が縛られている写真」
「エロ本をか、そういう趣味か」
「駄目よエロ本なんて言っちゃ」
「写真集か」
「だって、女を美しく撮してるんでしょ」
「あたしも美しくなりたいの」
「そうなのか」
「どうしてか解る」
「何でだよ」
「どうして、こんなに鈍感なの」
「鈍感て」
「美しくなりたいの、御主人様の趣味のために」
「さっきからずっと御主人様の趣味のために言ってるのよ」
「昨日のことも許して、住んであげて、趣味にも付き合って」
「まあ、ありがとう。いや、まだ全部約束だけじゃ無いか」
「だって、言ったでしょ、あたしはまだ20代よ、御主人様には良いことばかりじゃない」
「まあそうだけど、でもあと4ヶ月で」
「それは言わなくて良いの」
「どうしたの黙ってて」
「一緒に写真を見る必要があるのか」
「必要でしょう、同居人の性的趣向の確認なんだから」
「人を丸裸にして、面白いのか」
「面白い、物凄く楽しくて、今ワクワクしてるの」
「サディストだな」
「御主人様は、どうなの、変態で紳士でサディストなの」
「もう良いよ、家に入ろう」
「だめよ、まだ」
「だって、こんな外で抱き合ってる時間じゃないだろ」
「良いじゃない」
「そこの道って、結構車が通るんだから、今も通っただろ」
「通ったわね」
「目立つだろ」
「見られちゃマズイの」
「見せたいのか」
「見られたいの、幸せだから」
「そっちの趣味か」
「どんな趣味よ」
「露出だろ」
「違うでしょ」
「違うのか、解んないなあ」
「大丈夫、これからじっくり教育してあげるから」
「教育じゃなくて、調教だろ」
「さすがね、そういう単語がすぐ出てくるのは」
「そうとしか言えないだろ、この状況は」
「大丈夫、あたしね、意外に優しいから」
「意外なのか」
「そうよ、優しくて尽くしたいの」
「確かに最初は優しそうだったけど」
「あら、それは、反撃の積もり」
「違うよ、率直な評価だ」
「じゃあ、あたしも言ってあげる」
「何を」
「御主人様って紳士よね」
「そうありたいけど」
「これで、紳士と変態は解ったから、あとは誠実かどうかだけね」
「ふう、そんな」
「幸せな時って見られたくない」
「思わない」
「やだ、可哀想」
「見て見て、幸せな女は輝いて見えるでしょ」
「ちょっと近すぎる、離れるから」
「そうやって、全身をなめるように見るんだから」
「幸せなんだろ」
「そう、最高」
「いつから考えてたんだ、ここに住むって」
「まだ解らないの、ここに住むんじゃないの、御主人様と住むの」
「いつからなんだよ」
「ここへ来てから」
「ええ」
「昨日、ご飯を一緒に食べてた時から考えてて、ここに帰ってきたでしょ」
「それで、夜、御主人様が隣に来た時、あたしが目をつむったの見てたでしょ」
「見た、あれが引っかかるきっかけだろ」
「言葉が良くないわよ」
「違うでしょ、御主人様とあたしの運命を神様に祈ったのよ、お祈りの時に目を開けてる」
「じゃあ、俺は勘違いしたって事か」
「勘違いだなんて、あたしの祈りが届いたのよ、きっと」
「そうかな」
「そう思いなさいよ、運命は受け入れる時も必要よ」
「あんまりそういうのは信じないけど」
「愛を求める女の祈りを反故にするの、そんな人には見えないけど」
「つい、手を出しちゃったけど、それはお祈りのせいってことなのかよ」
「また、言葉が良くないわよ」
「手を出したんじゃないの、目の前に居る女へ愛の手を差し伸べたの」
「あまり、おじさんの発想にならないで」
「でも、メイドさんみたいな発想にはならないよ」
「そういうの好きなの。」
「だって、何で、コーヒーを運んできてお祈りが必要なんだ、まあ、結果に不満は無いけど」
「満足できたんでしょ、孤独な愛されたい女をあなたが救ったのよ、満足してよ」
「でも、以外ねメイドさんに詳しいなんて、改札口でお帰りなさいませ御主人様なんて言われてたの」
「あんなの、禿げたおっさんが好きな事だろ」
「そうなの」
「俺がたまたま見たのは、禿げたおっさんばかりだったけど」
「あたしもやって良い」
「メイドをか」
「愛されて嬉しかったです御主人様」
「そんな嬉しそうに」
「もう、御主人様は判ってない」
「またかよ」
「御主人様が泊めてくれなかったら、あたしは今頃何処に居たと思うの」
「どこって、家に帰るんじゃなかったのか」
「昨日言ったでしょ、帰りたくないって」
「本当に帰りたくなかったのか」
「だから昨日言ったでしょ、本気にしてなかったの」
「しないだろ、普通、本当は、どこかの良いところの娘なんだろ」
「そう見えるの、まだ、信じてないのね」
「ついて来れたから良かったけど、来れなかったら車で寝てたかも」
「でも、ここに来れたから、ここなら二人で暮らせるって」
「二人って何だよ」
「二人ってこの二人しか居ないでしょ、他に居るの」
「こんな田舎だぞ」
「いいわよ、御主人様が居れば、近所なんて少ない方が良いから」
「夜、御主人様との時間が嬉しくて、決めたから、明るくなってから話そうと待ってたのよ」
「でも、夜の間に考えてたって事は、夜ってあの時か、どういう瞬間に考えてるんだよ」
「一番大事な事じゃない、あなたを確かめてたの」
「それでね、この人と付き合おうって思っちゃったの、良いでしょ」
「良いでしょって、じゃあ俺は夜の間に裸で採点されて、今朝からこんな事になってるのか」
「そうかな、でも20代の女よ、自慢しちゃえば」
「そんな事になってたとわ」
「起きないから、隣の部屋に行ったら本が一杯で、机の上の本を見たの」
「写真集を見たのか」
「違う、写真集は机の上にはなかったわよ、有ったのは『論語』って言うの」
「ああ、置いてあった。」
「開いてある頁を見たら、いつまでも考えててるのは良くない」
「2回くらいにしろ、だっけか」
「ちゃんと読んでるわね」
「有るんだから読むさ」
「どうしよう、どうしようって4回くらい考えちゃったから、もう充分だ決めようって、起きるの待ってたのよ」
「『論語』で決めたって」
「延々と考えててもしようがないでしょ、変なの」
「いや、決定に合理性は有る」
「どうして、難しい言い方するの、だから、女が近付いて来なかったんじゃないの?」
「大きなお世話だ」
「でも、これからは言っても良いわよ、あたしが居るから」
「そうですか」
「そう、あたしに取っては住むなんて小さな事じゃないの、あたしはここで幸せになるの」
「話が大きくなってないか」
「判らないの、ここって言うのは世界に一つだけなの」
「何処のことだよ?」
「あなたの隣でしょ、御主人様」
「俺に言わないでか」
「だって、まだ寝てたし」
「起こそうとして、ここをつまんだのに起きなかったから」
「鼻なんかつまんで起きるか」
「だって、こっちは触っても起きなかったでしょ、握れば良かった」
「見られる、止めろ」
「起きるんじゃないかなって思ったけど、全然起きないし」
「でも、見てて幸せだった」
「何が」
「だって、昨日あたしを抱いた男が、隣で朝立ちさせて、幸せそうに寝てるのよ。これが、何時間か前まであたしのために頑張ってたと思うと愛しくって、キスしたくなっちゃった」
「何処にだよ?」
「もちろん朝立ちに」
「だって、昨日、」
「あれはあれでいいの、あたしは目の前の可愛い朝立ちにキスしたかったの」
「したのか?」
「しなかった、起こしちゃったら可哀想と思って」
「俺が寝てる間に」
「そして外に出て、周りを見ながら待ってたの」
「俺が起きるのをか?」
「そうよ。御主人様が起きて来て、抱きしめて、朝のキス」
「俺とか?」
「そうよ、あたしね、男は中身だって思ってるから」
「見た目は悪いって事か?」
「どうして、そうなの」
「真実は裏側に隠れているから」
「そうなの、でも、いつまでも起きてこなかったら、中に入ろうと思ってた」
「なんで?」
「もしかしたらね」
「なんだよ?」
「あたしを見たら、昨日あんなに元気だったから、もしかして朝もするんじゃないかなって思って、あなたの朝食になろうかなって、やだあたしって、そんな事考えてたら、おばさんが畑の方から野菜を持ってきたから、挨拶してお話してたの」
「あんたは誰だって聞かれただろう?」
「聞かれた、だから、昨日から一緒に住むことになりましたので、よろしくって言ったわよ」
「そしたら、良くこんな所へきたねえって」
「俺の家なのに」
「そうね」
「住むことになったって、他に何か言ったのか?」
「ずいぶん家を直してたから、こういう事だったんだねって」
「確かにずいぶん直してたから」
「言ってくれれば良いのに、人が悪いねって」
「こうなるなんて予想してないだろ」
「きっと、あたしが若いから照れてたんですよって言っちゃったから、おばさんはそう思っちゃったよ」
「なんて事を」
「御主人様 の事も言っておいたわよ」
「何て?」
「疲れてるみたいで、まだグーグー寝てますって言っといたから」
「疲れてるって」
「お疲れなんだねって、笑ってた」
「お疲れって、そんなこと言ってたのか」
「そう、あたしも会ったのは久ぶりだったのでって言っといたから」
「あんたは若いから元気だねって」
「じゃあ、俺は久しぶりに逢った女とやり過ぎて疲れて寝てるって事か」
「だって、いっぱいしたでしょ?」
「したけど」
「起きられなかったでしょ?」
「起きられなかった」
「何時まで覚えてるの?」
「昨日は悪かった」
「別に謝る事じゃないでしょ、あたしもオッケーしたんだし、楽しんだんだから」
「ちゃんと起きられたのか?」
「爽快な朝でした、でも良いね」
「何が?」
「朝起きてさ、隣に誰か寝てるって」
「俺は、起きたら誰も居なかった」
「居た方が良かった、あたしももうちょっと寝てようかなって思ったの」
「体は大丈夫だったのか?」
「どういう事」
「いや、そういう事とか、あの後の体の調子とか」
「へえ、やっぱり、結構デリカシーが有るんだ、良かった」
「当然だろ、もっと早く聞けば良かったけど」
「さっきの爪痕だけよ」
「他には無いのか?」
「大丈夫よ、どうして」
「それより、すごい頑張ってたもんね、良かったよ」
「このタイミングで言うか、心配してるのに」
「家の中で話そう」