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極東の魔王~魔法使い、現代日本に転生す~  作者: 山形くじら2号
第一章 ~ 祈りは魔法となりて
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#05 ~ 腐れ縁のはじまり

「あんた、私とショーブしなさい!!」


 祐真がフィノスを召喚して、少しした頃。幼稚園で、一人の少女が祐真に指を突きつけていた。


 彼女の名前を、祐真は知っていた。

 綾辻(あやつじ)琴羽(ことは)。同じ五歳。親の遺伝なのか、髪の色がやや茶色がかっていて、同年代の中でも背が高い少女だ。

 恐らく外国人の血が入っているのだろう。顔立ちも少しだけ周りと違う。それゆえにか、彼女は孤立しがちでもあった。

 なぜ名前を憶えていたかというと――千堂木葉、つまり祐真の母親と名前の響きが似ていたからだ。もちろん、ただの偶然だが。


 そんな少女に唐突に喧嘩を売られた祐真は……そのまま真横を通り過ぎた。


「ちょっとォ!? なんでムシするのよ!」


「?」


 祐真は思わず首を傾げる。こいつは何を言ってるんだろうと。


「とにかく! 私とショーブするの!」


「いや、俺がその勝負を受ける理由がまったく分からない」


「りゆう??」


 少女が首を傾げる。言葉の意味が分からないのかもしれないと、祐真は「なんでお前と勝負しなきゃならないんだ」と言い直した。

 すると彼女は、「だって……」と言ったきり俯いた。

 いや何でやねん。


「にーさま……」


 妹の雪が袖を引くのを見て、祐真の脳が警鐘を鳴らす。

 ――いかん。女の子を泣かせたら、天使の中で自分の株が大暴落……! ストップ安……ッ! そんなことを断じて認めるわけには……!


「うむ分かった。その勝負、受けて立とうじゃないか……!」


 腕を組んで宣言した祐真に。

 周囲から――特に幼稚園の先生方から「また何かはじまった」という奇異の視線が注がれた。


 かくして、その日から祐真と少女の大乱闘の日々が始まる。



「はい俺の勝ち」


「ちょっと、アンタ早すぎじゃない……!?」


 アスレチックの頂上で、少女を見下ろしながら告げる祐真に、少女は悔しそうに叫ぶ。

 マイエンジェル雪は、アスレチックのてっぺんに立つ俺にぱちぱちと拍手を捧げていた。



「よっ、ほっ、そらっと」


「むきーーーっ! なんで当たらないのよーー!」


 ドッヂボール。十人ぐらいで囲んでいるにも関わらず、祐真には一向に球が当たらない。

 飛んできたボールをキャッチし、投げ返したそれが、琴羽の足に当たってそのまま転がった。

 がくりと、琴羽は膝をつく。



 ――その後も、祐真は琴羽に完勝し続けた。

 鬼ごっこやかけっこ、中には砂遊びに至るまで。


 そもそもだが、祐真の肉体は魔力によって強化されている。これは魔法を使っているというより、鍛錬の結果、自然とそうなっているに過ぎない。

 ただの幼稚園生が、祐真に勝てるわけがないのだ。


 その一方で。


「がんばれー! コトハちゃーん!」


「いけー! 次はかてるぞー!」


「そこっ、あっ、おしいっ!」


 二人の勝負は、なぜか幼稚園生の間で名物となっていった。

 琴羽への応援がほとんどなのは、何度負けても這い上がり、そのたびに挑戦する彼女の姿が、幼い彼らの心に訴えかけるものがあったのだろう。


 一方、彼らを見守る先生たちは……正直、困っていた。


 子供たちに、危ないことはさせたくない。

 かといって、二人は危ない真似をするわけでもなかった。というか、その点に関しては祐真がブレーキ役を担っていた。


 千堂祐真は幼稚園の中で、色んな意味で有名な子供である。

 彼は孤高だ。友達と呼べる相手はほとんどいない。子供たちが声をかけても、先生に心配されても、彼は子供たちの輪に入ろうとはしなかった。

 しかし今や、彼は子供たちの中心にいる。――中心というか、まあラスボスみたいな立ち位置なのだが。

 それでも輪の中にいることは確かで、ゆえに、先生たちもまた彼らの『勝負』を無理に止めるようなことはしなかった。


 そして、月日は流れ。

 琴羽はいつしか、人の輪に囲まれるようになっていた。友達と遊ぶことも増えて、彼女は孤高ではなくなった。


 ……祐真は最初から、彼女が自分に『勝負』を仕掛けた理由に気づいていた。

 きっと、彼女はただ友達が欲しかったのだ。だが不器用すぎて、あんな方法でしか出来なかったに違いないと。


 イイコトシタナー、と祐真がうんうん頷いていると。


「さっ、今日も勝負よ!」


「なんでだよ」


「あんたは、わたしのライバルなんだからっ!」


「はぁ?」


「はぁじゃないの! ライバルなの! ライバルって言いなさい!」


「馬鹿言え。誰がライバルだ。こっちはめいわ――」


 妹が見ていた。


「うんライバル。俺たちはライバルだな。強敵と書いてトモと呼ぼう」


「えっ……と、ともだち」


「ともだちじゃない、トモだ」


 なんか面倒くせぇやつに絡まれてしまったが。

 ……なぜか妹が嬉しそうなので、まあ良しとしよう。


 それが祐真と彼女の出会い。

 意外にも長く続くことになる――腐れ縁というもの始まりだった。


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