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極東の魔王~魔法使い、現代日本に転生す~  作者: 山形くじら2号
第二章 ~ セカイノオワリ
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#03 ~ 進化をもたらすもの

「う、うぅ、ううううぅ……」


 地べたに正座した小さな妖精――ダンジョンピクシーは、涙を流していた。己の境遇に。


「あたし死ぬんだ……このまま鍋に入れられて、あの変態にボリボリ食われるんだ……。なんて不憫なアタシ……。せっかくダンジョンマスターとして生まれたのに……うううう」


「うるせぇ誰が変態だ。ぶっ飛ばすぞ」


「すいやっせぇん! 何卒ご慈悲をぉぉぉ!!」


 はあ、と祐真はため息を吐く。

 当然、祐真にこのピクシーを食う気などはじめからない。というかピクシーなど食ったこともない。あれはただの脅しだ。


「別に取って食うわけじゃない。というか、お前に死なれたら困る。このダンジョンが暴走(スタンピード)するだろうが」


「ほっ、ほんと!?」


「本当だ」


 まあその場合はダンジョンごと跡形もなく消し飛ばすけど――という内心を隠しつつも答える祐真に、ピクシーはぱぁっと顔を明るくした。


「なーんだ! あんたいい奴じゃない! 心配して損したわ!」


 そう言ってひらひらと飛び回るピクシーに、再び祐真はため息を吐いた。


 ダンジョンマスターとは、名の通りダンジョンの支配者である。ただしあくまで支配者であり、ダンジョンを生み出した者ではない。

 ダンジョンコアによって選ばれ、契約を結んだ者がマスターとなる……という仕組みだ。

 ただこのピクシー、恐らくダンジョンの中で生まれたのだろう。自ら生み出した魔物をマスターとするという、珍しいが、無いパターンというわけでもない。


「おいピクシー。このダンジョンが出来てどのぐらいだ?」


「うん? 出来たのは昨日よ」


 やはりそうか、と祐真は頷く。

 どこからどう見ても、このダンジョンはまだ若い。感じ取れる魔力は薄く、ろくな魔物もいないだろう。

 ということはやはり、数か月前に使った魔法は関係ないのでは?


 無言でそんな自己弁護をしつつ、祐真は目の前の石碑に目を向けた。


「それで、この石碑は何だ?」


「何って、見ての通りよ。初回特典ってやつ! 激レア!」


「いやだから、出来たばかりのダンジョンのリソースを、何でこんなもんに割いてるんだって聞いてるんだ」


 ダンジョンは魔力(リソース)によって成長する。ただし無尽蔵ではない。ダンジョンは人間や動物を招き、魔力を奪うことによって成長するのだ。

 限られた魔力の中で、何をどう成長させるのかはダンジョンマスターに委ねられる。

 ダンジョンマスターというのは、そのために居るといっても過言ではないのだ。


「いやだってほら、まずは人に来てもらわないとさ……」


「この初回特典とやらでコアごとぶっ殺されるという可能性は考えなかったのか?」


「そこはホラ、私の華麗な話術と美貌で」


 祐真は確信した。コイツ馬鹿だと。 


「とにかく、今すぐ戻せ。そして魔物でも作れ。でないと死ぬぞ?」


「うぐっ……。でもこれ、元に戻せなくてさぁ……」


 ちょっとした冗談のつもりだったのに、という小声(丸聞こえ)に、祐真は頭痛を抑えるように頭を振った。


「分かった。じゃあ俺をコアのところに案内しろ」


「えっ? いやそれはさすがに」


 ピクシーがそう否定した瞬間、祐真の隣で、ゴウッと蒼い炎が灯った。


「小娘……さっきから聞いていれば、我が主に非礼と言い訳ばかり……今すぐ焼き殺してやろうか?」


「ぴぃっ!?」


「……落ち着け、フィノス」


 予想通りに爆発したフィノスを宥め、またも恐怖に震えるピクシーを落ち着かせ……今日一日でなんだか妙に疲れた気がして、祐真は再びため息をついた。


 ◆ ◇ ◆


 迷宮の最奥。本来なら、ダンジョンマスターかダンジョンの完全踏破者のどちらかしか入れない部屋だ。

 黒光りする多面結晶体が、その中央に浮いていた。

 その奥でまるで稲妻のような赤い線が走り、奇妙な靄のようなものが渦巻いて見える、そんな奇妙な物体だ。


「随分変わったコアだな……」


「そーなんだよね。地球の伝説? 伝承? とにかくそういうのに合わせたみたい」


 ふーん、と相槌を打ちながら、軽く拳でコアを叩く。


「ちょっと! 乱暴はやめてよね!」


「強度を確かめただけだ。問題ないようだな」


「そりゃね!」


 コアの強化は、多岐に渡る選択肢の中でも最優先すべきことだ。

 さすがにそれぐらいはやっているらしい。少なくとも今の地球――魔法の存在しない世界で、これを破壊するのは至難の技だろう。


「それでっ? アンタがダンジョンマスターをやってくれるの!? やってくれるんでしょ!?」


「なんだ、やって欲しいのか?」


「そりゃーそうよ! 私は本来、ダンジョンマスターの案内人、ただの代理なんだから!」


 なるほど。つまりこの迷宮の最初の踏破者にマスターになってもらおう、という魂胆なわけだ。

 そこでようやく、祐真はあの石碑の意味を悟った。つまるところ、さっさと攻略してもらってマスターに任命するのが目的だったわけか。


「お前、それで踏破者がとんでもない人でなしだったらどうするんだ」


「えっ?」


 その可能性は考えてなかった、というかのように唖然とするピクシーに、祐真は深く息を吐いた。


「ま、まあそれはさておいて……どうなのよ? ダンジョンマスター」


「やるわけないだろ馬鹿が」


「えーっ!?」


 ピクシーが驚愕の声を上げて、眦を釣り上げる。


「ちょっとどういうことよ! もしかして騙した!?」


「はぁ?」


 何でそうなる、と首を傾げる祐真に、「だって」とピクシーは指を突きつけた。


「あんたさっき、石碑のことを何とかしてやるって――」


「ああ、分かってるよ」


「言っておくけどね! マスターにならないとコアは弄られないわよ!」


「分かってるって」


 実際、祐真であっても、ダンジョンコアを外からどうこうすることは出来ない。

 だがダンジョンマスターになるということは、このダンジョンに存在を縛られるということでもある。そんなのは御免だ。


 ただ、かといって捨て置く気もない。

 ダンジョンというのは非常に貴重な存在だ。生み出そうとして出来るものではない。

 とにかく、色々な意味で使える代物なのだ。

 だから――。


「専門家を呼んでやる」


 祐真はパチリと指を鳴らす。

 唐突に地面に魔法陣が描き出され――そして、まるで雫が水面に落ちるように波紋が広がっていった。


 ――気がつけば、それはそこにいた。

 燕尾服を纏った老齢の男……一言で表すならば執事そのものという風体の男が、手を胸に当てて優雅に一礼する。


「我が主。お久しぶりでございます」


「ああ。……紹介する。コイツはオウルだ。色々役に立つ奴だから、よろしくしてくれ」


「よろしくお願い致します」


 ポカンと口を開くダンジョンピクシーに老執事を紹介したユキトは、再び彼へと目線を向ける。


「オウル、分かるな?」


「はっ」


 恭しく頷いた老執事――オウルは、ダンジョンコアへと触れる。


「ちょ、ちょっと、何を――」


「終わりました。これで元に戻ったはずですよ。ご確認を」


「えっ!?」


 わずか一秒。

 ピクシーが思わずコアに飛びつくように触れると、その顔を驚愕に固まらせた。


「な、なんでぇ!? 管理権限も変わってないのに……」


「だから言ったろう、専門家って」


 ――魂の調律者、オウル・セプティウス。

 彼の手に掛かれば、ダンジョンコアの改竄など朝飯前だ。といっても、あくまでもコアが目の前にあって初めて出来る芸当なのだが。


「我が主。このダンジョンは、今後如何にされるおつもりで?」


「んー」


 オウルの言葉に、祐真は顎に手を当てながら考える。

 ダンジョンの使い道は山ほどある。だがその最大の使い道と言えば、人の進化を促す点にあると言える。ダンジョンとは、そのための舞台装置と呼ぶべき代物なのだ。


(魔法なき世界か……)


 祐真はじっとコアを見つめる。


 これは天啓なのだろうか。

 あるいは、世界の意思なのか。


「――決めた」


 祐真は、にっと笑みを作った。

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