いつかのプレゼントを、彼女は。
学園祭が終わり、雄輔は運営控室の小部屋に戻って来た。拡声器や台本の置かれた棚がスペースの四分の一を占めており、まともに人が休めるスペースを見つけられない。
『なんだ、四分の三も余っているんだから、文句を言うんじゃない』とクレームを付ける迷惑客にも分かるように説明すると、このくそ狭い部屋に縦長のベンチが我が物顔で居座っているのだ。
それだけならまだいい。そのベンチの上に、さも家のソファかのように仮眠をとっている女子生徒がいるのだ。
「……由佳里ー、片付けするぞー」
「……むにゃ……」
このように、起きる気がまるでない。
事情は、雄輔にも理解できる。一般生徒が夢の中でワクワクに満ちている時間帯から学校に駆けつけ、会場の設置をする。学園祭中は、誘導や管理。一日中ハードワークで、自身の持ち番が全て終わった途端、控室に真っすぐ向かって仮眠モードに入ったのだ。
実行委員長としての役割を全うし、疲労を解消しようと転がっている由佳里。その固まっていない姿を見ているだけで、気が緩む。
雄輔と由佳里は、昔からの縁で結ばれている。小学校時代から数えると、今年で十一年目になる。
……よっぽど頑張ってたんだろうな……。
後片付けのために由佳里を置いてそっと廊下へ出ようとした雄輔。だが、彼女が羽織っている赤い布の所在を思い出し、立ち止まる。
……由佳里が布団みたいに被ってるやつ、中学校の時に俺があげたマントか……?
ごめん、と謝りつつ、赤いマントの端をひらりとめくりあげる。タグの部分に、『大好き』とマジックペンの崩れた字で書かれていた。
……このマントだ。
何年か前の由佳里の誕生日に、なにをプレゼントにすればいいのか迷った挙句渡したものが、このマントであった。見つからないように、タグに『大好き』とメッセージを残していたのだ。
……まだ、使ってくれてたんだ。用法は間違ってるけど。
この部屋には学校備え付けの毛布も準備されている。それを差し置いて雄輔がプレゼントした赤いマントを使ってくれているのだ。
『お邪魔しました』と、めくりあげたマントを元に戻そうとした。
……あれ?
雄輔の書いたメッセージがあるタグの裏側に、まだ何かが続いている。
『わたしも』
平仮名四文字で、そう綴られていた。間違いなく、由佳里だろう。
……気付いてたのか……。
今の今まで、雄輔からも由佳里からも『好き』と面に向かって言ったことは一度も無い。
それでも、両想いだったということだ。
「雄輔くん、なーにやってる……の……」
……寝てたんじゃなかったのかよ。
熟睡していたはずの由佳里が、ベンチから起き上がっていた。例のタグに釘付けになっている。
「……見た?」
「見た」
たった動詞一つでも、膨大なデータ量の感情のやり取りが入っている。
「……雄輔くん、ほら、片付けしにいくんじゃなかった?」
「……そ、そうだな。早く行かないと、怒られちゃう」
由佳里が丁寧に、そして大事そうにマントをたたんでいたのが、目に焼き付いていた。
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