例えば転生ヒロインが俺で、悪役令嬢が彼女だった場合。
「やだやだやだやだ!!絶対に学園なんていかない!俺の事殺したいの?!」
ひっくり返って手足をバタバタ振り回すのって、結構体力使うから一回やってみてほしい。たぶん30秒も持たないから。実際俺の体力は20秒も持たずに、肩でぜぃぜぃと息をしつつ、手足はぐったりと投げ出されている。
「でも、わかっている物語をコントロールしたほうが、不確定要素が少なくて安心でしてよ?」
全くもう、と眉間に皺を寄せて俺を見る顔も、見惚れる程美人。紫の髪にラベンダー色の瞳という、まさにお花の妖精のようなお嬢様は、俺の恋人。彼女との出会いは必然で、そればっかりは、ぶちのめしたい神様に感謝した。
俺が『俺』を思い出したのは、10歳の時。両親と花祭りに出かけていて、周りに気を取られまくった俺はものの見事に迷子になっていた。薄暗がり、路地裏、不逞の輩。人身売買待ったなしの状況に、恐怖で立ちすくんだ俺の目の前に、颯爽と現れたのは、お花の妖精さんだった。
ふわふわの紫の髪、不逞の輩を睨みつけるラベンダー色の瞳。小さく震える身体で俺を庇い、彼女が声を上げた時には、不逞の輩共は黒髪の少年に縛り上げられていた。
「…お怪我はないかしら?」
優しく眦を下げて、俺に差し出された白くて小さい手。その柔らかい手を取った瞬間、バチバチと雷に打たれたように目の前が真っ白になって…気が付いた時には家のベットの上で横になっていた。
もう、大混乱だよね。女の子として生きてきた10年間と拮抗する俺の17年の生涯。まぁ、魂が俺だったからか、だいぶ男勝りでお転婆な女の子だったのが幸いして、言動で不審がられたりはしなかったけれど。
神って奴がいるなら、ぶん殴ってやりたいくらい呪った。未だにトイレとかの時にドキッとする。あ、性的な意味じゃなくてね…長年の相棒が又間から消失してるんだから、俺にお悔やみ申し上げてほしい。
色々考えたり、悩んだりもした。でも俺はあんまり賢い方じゃないから、すぐに知恵熱が出るしその癖いい案が出る訳でもなくて…まぁ、吹っ切れた。考えたって仕方がない事ってあるよね。うん。でも、その間もずっと、お花の妖精さんを忘れたことはなかった。…だって、寝る前とかふとした瞬間に思い出しちゃって、なんか、胸の奥から込み上げてきて、うわああああ!!って叫びだしたくなるんだもん。なんなら三回くらい、煩いって母さんに張り倒された。
それが初恋ってわかったのは、お花の妖精さんが俺に会いに来てくれたとき。つまり、二度目ましての瞬間。
「この間は、ご挨拶もできずにごめんなさい。」
「ひぇっ」
きらきらと光を背負って微笑む彼女に、俺の心臓は爆発寸前だった。お礼を言わなくちゃとか、名乗らなきゃとかグルグル頭の中を高速回転するのに、滑車を回しているのがハムスターな俺の所為で、
「好きです!俺のお嫁さんになってください!!」
吐き出されたのは、愛の言葉だった。…今思い出しても悶えて死にそう。一緒に思い出される妖精さんのきょとん顔が可愛すぎて、生き返るけれどね!
俺の言動がおかしすぎたのと、すこぶる頭の良い妖精さんの誘導尋問によって、俺達の関係性は確立された。なんと、彼女も転生者だったのだ。あ、前世も女の子だったよ。ちょっとほっとした。まぁそれは置いておいて、妖精さんが言うにはこの世界は乙女ゲームの中で、妖精さんは主人公のライバルなんだって。で、破滅ルート回避のために、最初から主人公とお友達になってしまおう!と考えたらしい。
「まさか、ヒロインの前世が男の子だったとは思いませんでしたわ…。」
「…んぇっ?!もしかして、ヒロインって俺!!?」
驚愕の事実な上に、死刑宣告である。乙女ゲームなんてやったことないけど、男でいうところのハーレムゲームでしょ?!…てことは、
「俺に待ち受けるのは、死、のみ…。」
青褪めてがくがく震える俺を、かわいそうな物を見る眼で黒髪の少年が見つめてくる。おいやめろ。今の俺は傷心中をかさにきて、すぐに手が出るぞ。グッと握り拳を作る。でもそんな握りしめた拳を優しく包んでくれたのは、妖精さんで。
「いっしょに、幸せになる方法を考えましょう?」
慈悲の目で微笑む妖精さんに見ほれて、瞬間、ぼっと自分の顔に熱が集まったのがわかった。妖精さんの可愛さとか、良い匂いがするとか、手を握られてるとか頭の中がパンクして、口から心臓がまろび出そう。
「そそそ、それって、一生一緒に居てくれるってことですか!!」
一緒に幸せになってくれるんですか!?包んでくれていた手を強く握りしめて叫んだ俺に、驚いた後、妖精さんはふふふ、なんて上品に笑って。
「お友達から、よろしくお願いいたしますわ。」
「っよろこんで!!」
勝手に期待させちゃう小悪魔なところも好きです!でれでれな俺に笑いながら、妖精さんは俺に名前を教えてくれた。