融合する魔物
泣き出した私を落ち着かせようとしてか、ラディアンが背中をさすってくれている。
「俺には気配は感じられない。だが、レジェの様子がおかしかった。セイラムの名前を聞いただけで、露骨な嫌悪感を示すし、貧血を起こして倒れるほどだ。それで、今朝から、魔物とレジェについて、学院の書庫で調べていたんだ」
私のことって?
「もったいぶらずに、早く話さんかい」
サリデスさんが急かす。
私も顔を上げて、ラディアンを見ていた。
「セイラムは魔物と融合している」
ラディアンは大切なことに限って、必要最低限の事しか話さない。融合していると言われても、何のことだか……。
「化けているのと何が違うんじゃ?」
サリデスさんが怪訝な顔をする。
「化けるって言うのは、姿だけを変える。人間の姿をした魔物だと考えればいい。融合とは、二つを一つにする事だ」
「もっとわかりやすく説明して」
「魔物が人間に化けている場合、魔力が働くから、ある程度以上の魔道士ならすぐに正体を見破れる。が、人と融合している魔物は、人の姿と魔物の姿、どちらを取っていても、魔力は働いていない。だからどう調べても普通の人間にしか見えない。人の姿のときは、魔物としての気配も感じないしな。この街に残っていた魔物の気配は、セイラムが魔物の姿で動いているときの物だ。それをたどって居場所を突き止めようとしても、魔物から人の姿に変われば、気配はそこで途切れてしまう」
「じゃあ、たとえばラディアンが魔物だったとしても、誰にも分からないって事?」
「嫌なたとえをするなよ。だがレジェの言うとおり、融合した魔物が人の姿をとっている場合、見分ける手段は殆どない」
ラディアンは冷静に話しているが……。
「それって大変な事じゃない! どうしてそんなに落ち着いていられるの!」
言いかけたところで、ラディアンが私の頬を思いっきり引っ張った。見た感じは軽く摘んでいるようだが、実際はペンチか何かでねじられているように痛い。
「少し黙っていろ。おとなしくしないんだったら離してやらないぜ」
彼がにこやかな笑顔で私を脅迫する。仕方なくうなずいた。
「わしは初耳じゃな」
やっぱり落ち着いた口調でサリデスさん。
「俺だって初耳だ。まあ、滅多に呼び出せる魔物じゃないらしいんだが……」
ラディアンは、学院の幹部にしか知らせていない話なんだが、と前置きして話し始めた。
魔道士たちは、魔物の中でも、低級な魔物を呼び出して使役する。高位の魔物を呼び出す事も出来るが、よほど実力のある立派な魔道士にしか、教えられないそうだ。もっとも、魔物を呼び出す魔法を覚える魔道士は、あまりいない。魔物を使役する事に嫌悪感を覚える者も多いし、なにより、世間の目が気になる。
この街には、ラディアンを含めて四人の魔道士が、高位の魔物を呼び出せる。
サリデスさんは知らなかったが、魔物を呼び出した男は、そのうちの一人だった。
ラディアンは、高位の魔物なら気配を隠す事が出来るのではないかと考えて、栄光の学院の書庫で魔物について調べていた。
ところが、何代か前の魔導士が書いた本の中から、驚愕する事実が現れた。
最高位の魔物の中には、人間の悪意に引かれて、その人間と融合してしまう種類がいる。
その本にはそう書かれていた。
ラディアンは、その本を学長のターラに渡し真偽の確認を頼むと、セイラムと魔物の接点を探しに、巡察隊の詰め所に向かった。
セイラムは魔物を呼び出した魔道士が殺された最初に事件の時に、現場に駆けつけた一人だった。
おそらくその魔道士は、高位の魔物の呼び出しに失敗して、魔物に殺されたのだろう。
そして、その魔物とセイラムが融合した。




