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あきらめていた未来  作者: 竹野華
18/19

魔物の右腕は私がやったの?

私が起きる時、ラディアンは近くにいる。

死の縁をさまよって目覚めた時も、やっぱり目を開けると、真っ先に彼の顔が飛び込んできた。

がばっと起き上がって、私の顔を覗き込んでいたラディアンに抱きついた。

そうして始めて、助かったのだと、生きているのだと実感できた。

「どうして、もっと早く来てくれなかったの! どうして! ……恐かった。もうだめかと思って。死ぬかと思った。守ってやるっていったじゃない。嘘つき!」

泣きじゃくりながら、何度も嘘つきだとラディアンを罵った。助けてくれた彼に、やりきれない想いをぶつけてしまった。

死に直面した恐怖。

目の前で殺された二人を、救えなかった無力感。

そんな私を叱るでもなく、優しく髪を撫でながら、ラディアンは「すまない」と繰り返している。

しばらくそうしていたが、横からサリデスさんに邪魔された。

「そういう事は、二人っきりの時にしてもらうとして……。なにがあったのか説明してくれんかな、レジェ。今は一刻を争う事態なんじゃ」

驚いてラディアンの胸から顔を上げると、部屋の中には、彼とサリデスさんの他にも、数人の男と、私と一緒に魔物に襲われた女官がいた。

「あなたも助かったのね!」

見られていたのかと思うと、うろたえたが、今は恥ずかしがっている場合じゃない。照れくささを誤魔化すために、わざと大きな声を出した。

幾分青ざめたままの彼女は、椅子に座ったまま頭を下げた。

「おまえがかばってやったそうだな。よくやったと言ってやりたいが、何でそう考え無しなんだ! 自分を犠牲にするなんて言うのは、ただの自己満足なんだ! どうして二人とも助かる方法を考えなかった! 後少し治療するのが遅かったら、二人とも死んでたんだぞ!レジェは助かったのが奇跡だ!」

「ごめんなさい」

ラディアンの言葉が胸に突きささり、申し訳なくてうなだれた。

「そのくらいで止めとけ。心配してたのはわかるが、そんなに言ったらレジェが気の毒じゃ。とにかく、文句も説教も後回しじゃ。大体の事はアリエスから聞いたが、おぬしからも聞きたいんじゃ」

サリデスさんの口調は、のんびりしていたが、事態が深刻なのは間違いない。

椅子に座っていた女官・・アリエスさんが、口を開いた。

「セイラム様が、二人を殺した事は間違いありません。あの時レイジェラーン様がかばって下さらなかったら、私も殺されていたでしょう」

「そうか。もう下がって休んでくれ、アリエス」

部屋にいた男に抱き抱えられて、アリエスさんは出ていった。部屋に残ったのは私たち三人だけ。

「アリエスは、命は助かったが片足を無くしてしまった。休んでいろと言ったがレジェを心配して、意識が戻るまでは、と付き添っていたんじゃ」

説明するサリデスさんも辛そう。

やっぱり。

素人目に見ても、足がぼろぼろになっていた。

「アリエスが生きててよかったな。目撃者がいなければ、お前が犯人にされてた。そうだな、ジジイ」

私の枕元に座って、サリデスさんを睨みつけるラディアンの目には、怒りがめらめらと燃えている。

「わしがレジェを信じても、ほかの連中は、疑うだろうと言っただけじゃ」

確かに疑わしい。立場が違えば、私だってそう思う。

「それはともかく、どうして魔物がいきなり正体をあらわしたんじゃ?それに、光というのは?」

「それは……。私にもよく分からないんです。セイラムに腕をつかまれたら、急に辺りが眩しくなって……光が収まった時、セイラムは魔物になっていたんです」

「じゃあ、あいつの腕が溶けてたのも、おまえがやったのか?」

「意識して、したわけじゃない。でも、あの光を浴びて溶けたとしか思えないの。ねえ、ラディアンはどうして入ってこれたの?魔物は、結界を張っているから誰も入ってこれないって言ってたけど」

「セイラムは、正式な魔道士にもなれなかった男だ。魔物の力を借りても、そいつの作った結界なんて、俺にとっては無いのも同然。簡単に移動出来たぜ」

ラディアンの顔は、紙のように白い。疲れているんだろうか?

「俺はジジイに話を聞いた時から、ひょっとすると、魔物がセイラムに化けてるんじゃないかと思っていた。実際は違ったが、怪しいと思っていた」

「何じゃと! どうして黙っていた!」

「ありえない事だからだ。どんなに隠しても、魔物の気配は、すぐにわかる。魔法で化けていればなおさらだ」

「じゃったら、やはりセイラムは、魔物じゃないのか? 魔法だったら、二人を殺す事も出来るじゃろう」

サリデスさんの疑問を、私は力いっぱい否定した。

「あれは、魔物よ! あれだけの悪意と敵意を、人間が持てるものじゃない。あの部屋に漂っていた腐臭に、どうして気づかないの? あんなに憎悪を、むき出しにしているのに……何故、誰も気づかない!」

うっかり大声で叫んでしまい、激しく咳き込んだ。信じてもらえないもどかしさに、涙が頬を伝う。見られたくなくて両手で顔を覆った。


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