きっと設定は適当です!
数十分後。
「落ち着いた?」
「は、はい。おかげさまで……」
恥ずかしかったのか、いっぱい泣いたからなのか、少し顔が赤くなっている。
「じゃあそろそろ行こうか。またモンスターが出てきても面倒だし」
「はい……あ、あの、えっと……‥‥」
何か言いたいことがあるのか、マリーちゃんは両手の指を合わせておどおどと尋ねてきた。
「どうしたの?」
「手を、繋いでもらえませんか?その、まだ少し不安で……」
彼女は、涙で潤んだ眼差しをこちらに向ける。
「!?」としか言いようがなかった。
いや、「!?」は言葉じゃないけど。
「うん、いいよ。じゃあ、はい」
「あ、ありがとうございます」
女の子らしい小さな手が、そっと僕の手を取る。
デジャヴを感じるが、なんというか、その……照れるな。
さっきの握手は平気だったが、今はなぜだか意識してしまう。
手汗とか大丈夫だろうか……
「ところで、マリーちゃんはこの後どうするの?」
「それが、まだ何も決まっていないんです。一ヶ月分のお金は持ってるんですけど、特に宛も無くて……」
「それなら僕と一緒だね。何ならお金すら持ってないけど」
異世界人と没落貴族の令嬢が知らない土地でふたりきりってわけか。
……あれ?結構ヤバくない?
もらった能力も戦闘以外役立たないし……あの女神どこいったんだ。
「リョウさんはお強いですから、冒険者として働くのはどうでしょうか」
「冒険者というと、やっぱりギルドとかあるの?」
「ありますよ。リョウさんはあんなに大きいモンスターを倒したのですから、きっと凄腕の冒険者になれると思いま…………あっ」
「?」
「あのモンスター、置いてきちゃいましたね」
「あっ確かに」
今までずっと存在を忘れていた。
流石に死体そのまんまは良くなかったかな……?
「とは言っても、取りに行くの面倒だね……まあ、どうせあんな大きいの持ってこれないだろうから別にいいかな」
「それもそうですね」
きっと大自然が浄化しといてくれるだろう。
と、言っているうちに森から抜け、車一台半ぐらいが通れそうな道に出た。
「あっ、町が見えましたよ!」
「おー」
目の前に現れたのは、ザ・異世界といった感じの、中世の外国っぽい町だ。
都会っ子だった僕にとって、レンガや木でできた建物を見るのはこれが初めてかもしれない。
僕達が今いるこの通りの先にはこの町の入り口であろう、運動会の入場門のような木のゲートがある。
「検問とかあるのかな?」
「中央都市とかならあるかもしれませんが、たぶん無いと思います。たぶん」
「僕ら見るからに怪しいから困るよね……」
一人はTシャツにパーカー、長ズボン(異界の服)を着た一般異世界人。
一人は明らかに庶民ではない貴族令嬢(没落済み)の女の子。
改めて聞いてもよくわからない組み合わせである。
そう思いつつ近づいてみると、人はおらず、門だけがでーんと立っている。
どうやら自由に出入りできるようだ。
ゲートには……「トータスタウン」と書いてあった。カタカナで。
なんかもう、逆にツッコめなかった。
「……マリーちゃん、あの文字読める?」
「えっ?読めますけど…………?なんでですか?」
読めちゃったかー。
日本出身の勇者が書いた、とかじゃなかったか……。
「その、僕の居た世界と文字が同じだったから」
「同じなんですか!?」
うん……でも、まあラッキー…………かな?
「そういえば忘れてたけど、こうやって会話できてるもんね」
「確かにそうですよね……」
なんだか腑に落ちないが、とりあえず門をくぐった。