プロローグはフィクションです!
僕は──白タイルの空間にいた。
床には四角い白タイルが隙間なくびっしりと敷き詰められている。
周りを見渡しても何もなく、見上げても天井らしきものは見えない。
代わりに、アニメのタペストリーが宙に浮かんでいた。
……なんで?と思いました?僕も今同じ気持ちです。
この部屋、というか空間にはそれ以外何もなく、奥の方は霞んでいて見えない。
たぶん東京ドーム100個分くらいはある。
東京ドーム行ったことないけど。
目の前の(色んな意味で)不思議な光景に呆然としていたら、背後から声をかけられた。
「こんにちは。この光景を見たあなたは成功で0、失敗で1のSANチェックです」
「あれ?僕TRPGやってたんだっけ?……」
声のした方に振り返ると、そこにはGM……ではなく、『女神』がいた。
髪は明るめの緑のショートカットで、着ている白ワンピースによく映えている。
手にはよくわからない光る棒。
頭部には、天使の輪っかの様な黄色い布が数センチ浮いていた。
童顔で背丈も小さめだが、大人びているというか、見た目以上の神々しさが感じ取れる。
まさに絵画から飛び出てきたようなオーラで、APPは18を軽く突き抜けているだろう。
『女神』は比喩ではなかった、という予感が段々と確信へ変わっていく。
「さて、ナルエリョウさん。あなたはつい先程、16年という短い人生に幕を下ろしました」
「やっぱり、そうですか」
薄々気づいてはいたが、状況は理解できていない。
自分の死因を思い出すべく、回想を始めた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
ごく普通の平日。爽やかな風が吹き、春の匂いが存分に感じられる頃。
高校一年生である僕、 愛徳良はいつもの道を通り、家に帰る途中だった。
入学してから一ヶ月が経って学校にも馴染み、この日々が新たな日常になり始めていた。
しかし、少し大きめの交差点で信号待ちをしているとき、事件は起こる。
この交差点の角には少し大きめな公園があり、夕方には子どもたちの遊ぶ声がよく聞こえてくる。
僕の背後にあるこの公園から、赤信号の横断歩道へとボールが転がっていったかと思うと、幼稚園生ほどの女の子はボールを追いかけて飛び出していってしまった。
「危ない!」
まるで最初からスタンバイしていたかのように、大型トラックが女の子に迫る。
僕は、気づいた時には体が動き出していて、女の子を捕まえるや否や歩道に放り投げていた。
PTAから苦情が来そうだが、そんなことは言ってられない。
ぶん投げた彼女(というか幼女)の無事を見届ける暇もなく、トラックは僕のすぐそばまで近づいていた。
死んだな、これ。
目の前の光景に、僕は意外と落ち着いていた。
落ち着いていたところでもう何もすることはないが。
スローに迫ってくるトラックと共に、16年の思い出が最初で最後の走馬灯となり、浮かんでは消えてゆく。
できることなら、もっと生きていたかった。
普通でいいから、もっと家族や友達と過ごし、遊び、恋愛もしたかった。
もうできないと思うと、かえって思いが溢れてくる。
やはり『死』とは、こんなに寂しいものだったのか。
そんな思いを背に、終わりが近づいてくる。
父さん母さん、先逝ってます。
そして────
「「ファーwwwwww」」
トラックの悲鳴と芸人の様な叫び声が重なり、周囲に響き合ったあたりで僕の記憶は途切れていた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
自分の人生の最期は、我ながら腑に落ちない終わり方でした。
遺言がファーwwwってなんだよ。
一生に一度の、世界への別れの言葉が台無しだよ。
「幼い命を守ったのだから、そんな悲しい顔をしなくてもいいでしょうに」
「まあ、そうですね。ところであの女の子は無事でしたか?」
必死だったので加減せずにぶん投げてしまったが、怪我はしていないだろうか。
あの子になにかあったら、死んでも死にきれない。
どうか擦り傷程度で済んでいたらいいけど……
「大丈夫でしたよ。空中できりもみ3回転して着地してましたね。将来はきっといい体操選手になります」
それはよかった。これで体操の未来も…………はい?
聞き間違えかな?きりもみ3回転?
「というわけで改めまして……私はリーン=カーネル。見ての通り女神です」
「女神……?!」
どういうわけかはわからないが、続け様に爆弾が放り込まれる。
既に大体理解していたが、実際に言われてみてもやっぱり実感がわかない。
ここ数分で正気度もバンバン減っていっている気がする。
「もう想像ついてるとは思いますが……あなたを異世界に招待してあげましょう」
ぱちぱちと拍手をし、微笑む彼女はそう告げる。
福引の温泉旅行のノリですね。
いや、テンション的にはポケットティッシュレベルだ。
「その、異世界ってあれですよね?ドラゴンとか魔法とか……」
「そうですね。それです」
「あれですか……」
「あれです」
きっとこのやり取りは何回も行ってきたんだろうな。
それにしても、異世界かぁ…………。
それは、嫌いな人などいないであろう夢のファンタジーワールド。
フィクションであるその世界には、昔から数多くの人間が思いを馳せている。
アニメや小説を見ている僕も、憧れを抱いていた。
「異世界って存在してたんですね……」
「あります、というか私が作りました。実は最初に異世界を考えたのはあなたの世界の人間なんです。フィクションを元に私が再現しました」
さすが神様、としか言えない。
きっとマ○クラのワールド作成するノリなんだろうな。
「私はあなたの世界、特に日本の文化に心を奪われまして……同僚のギャルっぽい神からヲタク神と親しまれています。そんなつもりないんですけどね」
「そうなんですか……ん?」
今気づいた。さっきから感じていた違和感の正体。
お洒落なレストランの調味料ラックに餃子のタレが置いてあるような……そんな違和感があった。
その違和感の正体は、頭上のあの布と手元の光る棒。
あの棒は見覚えがある。ペンライトだ。
何故か世界観にマッチしていて気づかなかった。
じゃああの布はなんだ?
目を凝らしてよく見てみると、模様が描かれてあった。
バンダナじゃねーか。
「そのペンライトとバンダナは……?」
「え、これですか?私の正装です(ドヤ)」
ドヤ顔されても……反応に困ります。
だからさっきSANチェックとか言ってたのか。
この人、心の中では気づいてもらって嬉しい厄介オタク女神だな。
「……そういえば、僕はなぜここに居られるんですか?やっぱりあのトラック?」
「ほぼ正解ですねー。『人助けしてトラックにはねられる』が条件です。もしくは、確率です」
条件があったのか。
思ってた以上にゲームっぽかった。
きっと○○○○の森の住民入れ替えするノリなんだろうな。
「一応聞きますけど、元の世界には生き返れないんですか?」
「残念ながらできないです。大人しく異世界行ってください」
ひどいセリフだ。
感謝の気持ちが一瞬で消え去ったよ!
「じゃあ、そろそろ行きましょうか。あまり長いと皆さんブラウザバックしちゃうので」
「こんな雑な導入他にないですね」
「プロローグなんてこんなもんでしょう。あと個性です」
「聞こえ良くしても無駄です」
ついに異世界に行くのか。
描写していないので感動も何もないと思うが、僕としては16年過ごした故郷を離れるのだ。
通常ならこのまま終わりのところ、もう一度新たな生活ができるのだから文句は言えないが。
正直、楽しみではある。
「はい、じゃあ送りますね。これに乗って、シートベルト閉めてください」
目の前に、ゲーセンにあるレーシングゲームを彷彿とさせる大きな虹色に光る椅子が出現する。
つまりゲーミングチェア。
これもこだわりなんだろう、と思いつつ指示通り椅子に座ってベルトを締める。
「送りますねー。ごまだれ〜〜↑」
ツッコミどころ満載の掛け声とともに椅子が震えだした。
女神様がペンライトを左右に振ると、そこから光が発せられる。
辺りがより一層強い光に包まれ、次第に視界が真っ白に染まってゆく。
段々と世界が薄れ、僕は光に飲まれた。
ご覧いただきありがとうございました。
わからないことばかりなので、気になった部分などご指摘頂けたら嬉しいです。
今の所思いついた時に書いているだけなので、あまり期待せずお楽しみ頂けたらと思います。