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【7/29コミカライズ先行配信開始!】こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記  作者: 陰陽


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第35話 連れ去られて王宮へ

「それは駄目だジョージ、まだまだコボルトは魔物だという意識が強い。

 特に貴族はそうだ。

 田舎ならば亜人と交流している地域も多いが、町を歩けば分かると思うが、亜人はまったく歩いていない。反発が強いと思う。」


「やはりそうなのですね……。

 俺はそれを変えたくて、コボルトの伝統を伝える店をやりたいのです。

 コボルトの集落に泥棒が入っても、役人が泥棒の味方をすると聞きました。

 彼らは魔物ではありません。

 前回勇者が現れた際に、同行した仲間の1人にコボルトがいたにも関わらず、です。」


「それを知っているんだな。

 確かに、今の国が救われた経緯は、勇者様と聖女様だけでなく、コボルトの冒険者の存在がある。

 だから王族はコボルトに好意的だ。

 だが大半の人間はそれを知らない。」


「王族は好意的なんですか!?」

 それは知らなかった。

「ああ、だが……。」

「──でしたら、絡め手はどうでしょう?

 王族がコボルトに好意的なのであれば、協力していただけるかも知れません。」


「というと?」

「まずは王族の皆様に、コボルトの製品を使っていただくのです。

 ──王室御用達。

 これはとても力があります。

 それを看板に掲げられるのであれば、貴族もおいそれと毛嫌いは出来ないかと。」


「まあ、王室御用達は、品物をつくるすべての職人の夢ではある。」

「エドモンドさんは、王室に伝手は?」

「ないと思うか?

 俺たちはこの国一番の商団、ルピラス商会だぜ?」

 エドモンドさんがニヤリとする。


「事情を話したうえで、王族の方々に、コボルトの製品を使っていただくことは、可能だと思いますか?」

「話してみんことには、なんとも言えん。

 だが、可能性がないこともない。」

「試してみていただけませんか?俺には直接の伝手はありませんので……。」


「ジョージのキッチンペーパーは、既に王宮からも引き合いが来ている。

 王宮に取引で向かう予定が既にあるから、その時に提案してみよう。

 取り扱いを決めるのは侍従長だが、口にするものは毒味を済ませたあとで、直接王族にふるまってから決めることになっているからな、そこでお会いできる可能性はある。」


「……お願いします。」

「ジョージのキッチンペーパーは、既に予約だけでかなりの売上を見込んでいるんだ、早めに商品をおろしてくれるか?

 それも大量にだ。」

「問題ありません。あと、これも今回登録したので、登録が済んだら売りにだそうと思っています。」


 俺は出汁こし布をエドモンドさんに手渡した。

「これはなんだ?」

「出汁こし布といいます。

 料理の過程で、肉や骨だけを取り出したい時なんかに使います。

 あとから材料を刻んで加え直したい時なんかにも、取り出しやすくて便利ですよ。」


「いいな!こいつも見本で持って行っても構わないか?」

「もちろんです。」

「そうと決まれば店の場所を見に行こう。

 ……ちょっと心当たりのある場所があるのさ。」

 立ち上がったエドモンドさんについて、俺はカフェを出た。


「──ここだ。どうだ?」

 そこは貴族街の中心で、既に建物が立っていた。おまけに厨房まである。

「流行っていた店だったんだがな、家賃を上げられすぎて撤退しちまってな。

 隣の店もあいてるんだ。料理と品物両方を売るなら、ここが一番だろうぜ。

 おまけに近くに食べ物屋がないときた。」


「ここから王宮が見えるんですね?」

「ああ、かなりの一等地さ。

 王宮の職員も食べにくる程の人気店だったんだがなあ……。」

「そんな場所じゃあ、また家賃を上げられたら、とんでもないことになるんじゃ……。」


「だから買っちまうのさ。

 最近この土地を持っている男爵は、家賃が入らなくなって資金繰りに困ってて、売りに出しているんだが、高すぎて誰も買わないんだ。どんどん値下がりしてってる。

 だが貴族はこんなところに土地を買わないからな。かといって商人も、ここまでの一等地を買える人間は少ない。」


「貴族か王族の保証さえあれば、土地が手に入ると……。」

「そういうことだ。」

 確かに魅力的だ。王室御用達の看板をかかげ、王室職員も食べにくる店。もしそうなったら、コボルトに対するイメージは変わる。


「例えばなんですが、取引のあるお店を通じて、勇者に同行したコボルトの話も、世間に広めることは出来ますか?

 この店の店長をお願いする予定のコボルトは、その勇者の末裔なんです。」

 俺はアシュリーさんを思い浮かべながら言った。


「──伝説の勇者の仲間の末裔の店か!

 それは箔がつくな!

 いいな、面白そうだ。失敗したところで俺たちの懐が傷まなきゃ、なんだってやってみようってのが俺たちのやり方さ。」

 エドモンドさんは面白そうに笑った。


「男爵との交渉は俺たちに任せな。

 一番いい条件で土地を引っ張ってきてやるよ。キッチンペーパーの売上だけで、買えるくらいにな。

 その代わり、売れそうな珍しい商品を作ったら、すぐに俺たちに報告してくれよ?」

「もちろんです。」


 俺はそう言ったが、王宮近くの一等地を、キッチンペーパーの売上だけで買えるくらいに値下げさせるとは、一体いくらでキッチンペーパーを売るつもりなのか知らないが、どうやって買い叩くつもりなんだろうなと首をかしげた。


 そこに荷物を乗せた馬車に乗ったロンメルが通りかかる。

「ジョージじゃないか!」

「ロンメル!奇遇だな!」

「あれ、エドモンドさん?」

「知り合いなのか?」

 俺の後ろのエドモンドさんに気付いたロンメルが驚いた顔をする。


「いつもうちの商会で、品物をおろしてるからな。」

 エドモンドさんが馬車に乗ったままのロンメルと挨拶をしている。

「王宮勤めの知り合いってのは、ロンメルさんのことだったのか。」

「ええ、まあ。」


「ああ、ジョージ、ちょうど良かった。

 例の件だけどな。店を買う保証、してくれることになったぜ。

 ──お前の土産がきいたよ。」

「ええ!?それを頼みに行くのに作らせたのか!?だったらあんな簡単なもんじゃなく、もっといいものを作ったのに。」


「店が出来たら、そこに食べに行くのを楽しみにしてると言ってたから、そこでまた腕を振るってくれればいいさ。

 俺はまだ買い出しの途中なんだ、急に予定外のものを食べたいと姫様が言い出してな。

 詳しいことはまた後日ゆっくりとな!」

 そう言ってロンメルは去って行った。


「……随分とワガママ姫なんですか?」

「多少、お転婆だとは聞いている。」

 とエドモンドさんが言った。

 本来作るものに合わせて食材を仕入れている筈なのに、突然買い出しなんてしたら、いい食材が仕入れられるかも分からないだろうに。ましてや王族に振る舞うレベルなど。


「店の中を見てみるかい?」

「お願いしたいです。」

 エドモンドさんが鍵を借りに行ってくれることになった。男爵は近くに住んでいないので、男爵宅まで寄る必要があるらしい。

 収入が少ないから、一等地に家を立てるより、家賃で稼いだ方がお得なのだそうだ。


 エドモンドさんの帰りを待っていると、慌てた様子のロンメルが、再び馬車に乗って戻ってくる。

「どうしたんだ、そんなに慌てて。」

「良かった、ジョージ、まだここにいてくれたか。」


「店の中を見るのに、エドモンドさんが鍵を取りに行ってくれていてな、それを待っているんだ。」

「済まない、助けてくれないか。」

「なんだ、どうしたっていうんだ。」

「俺とお前が出会った、料理対決があっただろう?」


「ああ。」

「あの時来ていた審査委員長が、今回土地を買う保証人になってくれることになったんだが、うちのお姫様に、お前の料理を自慢しちまったんだ。

 どうしても今すぐ食べてみたいと癇癪をおこして、手がつけられなくなっちまった。」


「なんだって!?」

「さあ、早く馬車に乗ってくれ。」

「……いや、俺はエドモンドさんを待っているし、それにカイアを人に預けているから、迎えに行かなくちゃならないんだ。」

「カイア?」

「俺の子だ。」


「お前子どもなんていたか?

 この間家に行った時は、子どもなんていなかったじゃないか。」

「あの後出来た。」

「なんてこった……。

 じゃあ、使いをやって説明して貰うよ。

 お姫様が機嫌を直さないと、保証人の話もなくなる可能性がある。」


「そいつはまずいな。」

「だろう?だから早く馬車に乗ってくれ!」

「分かったよ……。」

 俺は仕方無しにロンメルの馬車に乗った。 

 ロンメルが鞭をふるい、全速力で走り出して、ガタガタと揺れるので馬車に捕まる。


 今から王宮で料理なんてしていたら、最悪帰る馬車がなくなってしまう。

 マイヤーさんは、頼めば泊まりでも預かってくれるとは思うが、カイアはよそでお泊りなんて大丈夫だろうか……。

 俺は心配しながら馬車に揺られた。


「勤め人はここから入るんだ。」

 王宮の豪華な正門とは違い、裏門と思わしき日の当たらない方へと馬車が走る。

 裏門にも兵士が立っていた。

「ロンメルだ。」

 ロンメルが通行証のようなものを兵士に見せる。


 門が開かれ、馬車が中へと進んでいく。

 馬車を止めると、馬と馬車を分けて、馬と馬車を別々の人が引っ張っていく。

 馬車の管理をする人と、馬の世話をする人がいるのか。奥の方に馬房が見えた。

「こっちだ。」


 ロンメルが案内した木の扉を開くと、そこはいきなり厨房に繋がっていた。

「料理長、ジョージを連れてきました!」

 きちんと白い服を着た料理人たちが、一斉にこちらを向く。

「おい、ロンメル、厨房にそのまま入っていいのか?俺は着替えてすらないんだぞ?」


「そうだ、ロンメル。いくら慌てていたとはいえ、着替えてもない人間を厨房に入れるわけにはいかん。

 ジョージさんと言ったね、あちらのドアに着替えを用意してあるから、着替えて戻ってきて貰えないだろうか。」


 料理長と呼ばれた白髪の男性が、穏やかながら厳しい視線をこちらに向けている。

「は、はい、申し訳ありませんでした。」

 ロンメルが謝罪し、俺を更衣室へと案内した。

「こいつを着てくれ、大きさは問題ないと思うが。」


「──ああ、大丈夫そうだ。」

 俺は服に袖を通して着替えを済ませた。

「髪の毛はどうしてるんだ?」

「こいつだ。」

 コック帽のような白い帽子を渡される。

「お前も一度外に出たんだ、着替えた方がいいぞ?」


「ああ、そうだな。」

 ロンメルも予備に着替えて、2人で厨房へと戻る。

「急に王女様が、君の料理を食べてみたいと言い出してね。

 どうにも収まらないんだ。

 ……申し訳ないが、簡単なもので構わないから、何か作ってやって欲しい。」


「俺なんかが……。

 皆さんの料理にかなうとはとても……。」

 俺は恐縮して眉を下げる。

「本当だよな、なんでこんな奴連れて来たんだか。セレス様はいつも大げさなんだよ。」

 露骨に舌打ちしながら、顔にソバカスのある、1人の金髪の料理人が俺を睨む。


「……ハイマーだ。気にするな。

 一度も姫様に自分の料理を褒められたことがないから、面白くないのさ。」

「だが、少なくとも、お前と同じ宮廷料理人なんだろう?

 そんな選ばれた職業についている人たちよりも、俺の料理がすぐれているとは、とても思えんよ。満足させられる自信がない。」


「だが姫様が食べたいのは、ジョージの料理なんだ。

 珍しいものを作ってやればいいと思う。

 宮廷料理には飽き飽きしているみたいだからな。」

 なるほどな。そういうことなら、なんとかなるかも知れないが……。


 俺はあたりを見回すが、俺の探しているものが見当たらない。仕方なく、爪の間を磨く爪ブラシと、薬用せっけんを出すと、爪の間を洗い、肘まで袖をまくって腕を洗った。

「──それはなんだ?」

「殺菌する為のものだ。王族に出す料理に、万が一があっては困るからな。」


 ロンメルが聞いてきたので答えると、他の料理人たちも興味津々で寄ってくる。

「殺菌だって!?」

「本当に効果があるのかい?

 たかが石鹸だろう?」

 集まって来た同僚たちに、ロンメルがドヤ顔で腰に手を当てる。


「ジョージの商品は凄いのさ、新しく入った自動で動いて止まる食器洗浄機も、今度入れることになった、油や水を吸収するキッチンペーパーだって、ぜんぶジョージが開発したんだぜ?

 殺菌出来る石鹸くらい、作れるのさ。」

 いや、俺は開発はしていない……。


「こいつも売ってくれ!

 殺菌出来る石鹸だなんて、アルコールで手が荒れることがなくなるぞ!」

 料理人たちが俺に頼んでくる。

 それを見たハイマーさんが、更に憎々しげに舌打ちしながらこちらを睨んでくる。

 まいったなあ……。正直やりにくさを感じながら、俺は何を作ろうかと思案した。

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