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【7/29コミカライズ先行配信開始!】こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記  作者: 陰陽


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第30話 再びコボルトの集落へ

 俺は朝食を食べた後、王立図書館に来ていた。冒険者登録証があれば、持ち出しは不可だが自由に閲覧出来ると、冒険者ギルドの受付嬢に教えて貰った為だ。

 コボルトの歴史について調べるつもりでいた。


 職員に教えて貰って、コボルトの歴史や、コボルトについて書かれている書籍を手に取った。

 コボルトが魔物から獣人と呼ばれるようになった歴史はまだまだ浅く、ほんの100年ほど前の出来事だった。


 それまでのコボルトは討伐対象であった。だが、獣人と呼ばれる以前にも集落を作り、割と文化的な暮らしを営んでいたようだ。

 これは他の人型の魔物も同様で、ゴブリンは必ず集落を作って集団で生活するものらしい。


 だが、女性が生まれにくく、人間の女性をさらって子どもを作ろうとする為、昔から討伐対象だったようだ。

 金品にも興味があり、たまに強盗の真似事をしたりもする。言葉が通じない蛮族のような印象で捉えられているようだった。


 言葉を話さないかというとそうでなく、彼ら独自の言語が存在する。

 オークは動物に近く、オーガはゴブリンよりも力があるが、ゴブリンよりも知性がない野蛮な魔物らしい。特に興味深いのはトロールの項目だった。


 トロールは知性も力もあり、悪戯好きで人のものを盗む傾向にある、変身能力と再生能力を持つ。知性の高いものとそうでないものの差が大きく、知性のあるものは魔法や薬草治療、金属工芸に秀でている。


 日の光に当たると石に変わる為、日中は姿を表さない。元は精霊で、気に入った人間には富を、気に入らない人間には不運と破壊をもたらすとされていた。

 ──トロールは元は精霊だったのだ。


 だが、今は魔物とされている。

 コボルトは元は魔物。だが今は獣人だ。

 金属工芸や薬草治療が出来るというのはかなりの知性の高さを示している。それにもかかわらず、トロールは魔物になり、コボルトは獣人になった。


 どちらもなった時期が同じなのだ。

 おそらく同時期に、影響を与える何かがあったと考えていいと思う。

 俺はこの時期になにか特徴的な出来事がないかを調べることにした。

 人間の世界の歴史書を開いて、当時の時代背景や出来事を探った。


「──勇者……?」

 この頃、瘴気が強くなり、神は勇者と聖女をこの世界に遣わした。

 その時、勇者の仲間の一人に、コボルトの冒険者がいたと記載されていた。このことはあまり一般には知られていないらしい。


「勇者に味方したことで、魔物から獣人に変わったのだろうか?」

 その時に、神か聖女か分からないが、なにがしかの力が働き、コボルトを瘴気から守った可能性は捨てきれない。

 同時にトロールが瘴気にやられてしまった可能性も。


「100年くらい前であれば、当時のことを知るコボルトが、まだ集落の中にいるかも知れないな。」

 コボルトが果たしてどの程度生きるか分からないが、俺はそれをあたってみることにした。


「カイア、お出かけするぞ。」

 俺は一度家に戻ると、カイアをアイテムバッグに入れて、乗合馬車に乗り、コボルトの集落へと出発した。

 カイアについて聞きたいのだから、当時を知るコボルトに、カイアを直接見て貰ったほうが、話が早いだろうと思ったのだ。


 コボルトの集落は前回と雰囲気が違っていた。アスターさんたちがいた時とは、俺を見る目線が違う。

 俺は冒険者ギルドに立ち寄った。

 前回と同じ微笑みをたずさえたララさんが出迎えてくれ、俺は思わずほっとした。


「もしご存知であれば、長く生きているコボルトを紹介して貰えないでしょうか?」

「長く生きているコボルトを……ですか?

 知りたい内容はどんなことでしょう?」

 ララさんが、少し眉根を寄せる。俺はそれに少し違和感を感じたが話を続けた。


「実は……、コボルトがある時から、瘴気の影響から逃れて獣人になったと、冒険者ギルドから伺いまして。

 王立図書館で調べたところ、100年ほど前に勇者が現れた際に、同行したコボルトがいたという記録があったのです。」

 冒険者ギルドの中が、少しピリついた気配がした。


「ひょっとしてその時、何らかの聖なる力が働いて、コボルトを瘴気から守ってくれるようになったのではと……。

 その当時のことを知る人がいれば、教えて欲しいと思っています。この子を、瘴気の影響から守りたいのです。」

 俺はアイテムバッグから、カイアを取り出して膝に乗せ、ララさんに見せた。


「人間が来ているだと!?」

「どいつだ!」

「また俺達の集落を荒らしに来たのか!」

 ドヤドヤという声と足音とともに、大勢のコボルトの老人たちが、冒険者ギルドの入り口から、中に入り込んで来て俺たちを睨む。


「うわっ!?なんだ!?」

 突如として眩しい光に視界を奪われ、コボルトの老人たちがそれに怯む。

 カイアが俺を守ろうとするかのように、なにかの光を放ち、俺の前に小さな枝を広げて泣きながら膝の上で立っている。

 その姿を見たコボルトの老人たちが、一斉に驚愕した眼差しをカイアに向けた。


「ド……ドライアド様!!」

 コボルトの老人たちはカイアに平服する。

「ドライアド?この子はトレントでは?」

「いえ、似て非なる存在です。

 トレントは魔物ですが、ドライアド様は樹木の中の精霊王です。」

「精霊王!?」


「このコボルトの集落は、ドライアド様に守られ、ここまで発展してまいりました。

 我らの神はドライアド様。

 その子株でいらっしゃいます。」

 俺が倒したトレントの子どもではなかったということか?


「そうか……。お前の両親を殺したわけじゃなかったんだな。良かった……。」

 俺はそっとカイアを抱きしめた。

 カイアは泣きながら、両枝をのばして俺の首っ玉にかじりつく。俺を守ろうと頑張ってくれたが、やはり怖かったのだろう。


「トレントは番いになり子をなしますが、ドライアド様は本体から別れた子株で数を増やします。見た目の違いは、眉間のイボの有無が分かりやすいでしょうか。

 ドライアド様には核がありませんので。」


「カイア、ちょっといいか?

 オデコを見せてくれ。」

 俺は俺の首っ玉にかじりついているカイアをそっとはがす。

 確かにトレントの眉間の間にあったようなイボがない。カイアがトレントじゃないという証拠だ。


「トレントはその姿形のまま大きくなりますが、ドライアド様は大きくなると人の姿をとられます。多くは美しい女性の姿ですが、実際には性別というものはありません。

 精霊に性別はありませんので。」

 大きくなったら人型になるのか。


「この子を見つけたのはこの近辺ではないのですが……。そんなに離れたところまで移動するものなのですか?」

「森を守る為に、ドライアド様は、子株をわかれさせ、色々な地域に向かわせておりますので。その中の一株かと。」


「じゃあ……連れて帰ってきたら、まずかったということですね。」

 カイアはあの森にそのままいさせるべきだったのだ。森の守護神として育つ為に送り込まれたのだから。

 カイアと別れなくてはならないのか……。

 俺は悲しくなってカイアを見つめた。


「いえ。この子株は貴方様を守護対象として選んだようです。我らの時のように、森以外の守護対象を選んだ場合は、そのものの近くにいることを好みます。

 別の子株をまた向かわせていることでしょうから、問題ありますまい。」


「そうなんですか!?」

 俺はカイアをじっと見つめる。

 カイアは涙を目にためたまま、ニコーッと俺を見て微笑む。

「カイア……!!」

 俺はカイアを抱きしめた。


「オンスリーさん、この方は冒険者のジョージさんと言います。

 私たちが瘴気から逃れる術を得たきっかけを聞きにいらっしゃいました。

 話していただけませんか?」

 ララさんが笑顔で言う。


 オンスリーさんと呼ばれた、ブルドックの見た目のコボルトの老人が立ち上がり、俺の近くにやってきた。

「オンスリーと申します。前回勇者様がいらした際に同行させていただきました。

 今は引退しておりますが、拳闘士をやっておりました。」


 そう言って俺たちに恭しく頭を下げた。

「私の家にいらして下さい。

 当時のことをお話しましょう。」

「ありがたい、助かります!」

 俺とカイアはオンスリーさんの家に行くことになった。


 オンスリーさんの家は、集落のはずれにあり、小さいながらも頑丈な作りの木の家だった。薪割りの途中だったのか、庭に木にささった斧が見える。

「どうぞ。熱いのでお気をつけて。」

「ありがとうございます。」

 オンスリーさんの差し出してくれたお茶をそっと受け取る。


〈オンバ茶〉

 オンの若葉を煮出してオンの蜜を垂らしたもの。若返りの効果がある。

 若返りか、元の世界にもアンチエイジングに効果のある食べ物とかあったけど、そんな感じなんだろうか。


「……!!うまい!」

 甘すぎない爽やかな蜜が、薫り高い葉にコクを増している。熱いのもうまいが、冷やして飲んだら夏にピッタリだな。

「お気に召して何よりです。」

 オンスリーさんが微笑む。


「お聞きになりたいのは、我々が瘴気から逃れた術について、でしたね?」

「はい、ご存知でしょうか?」

「ええ。その時に立会いましたので。

 あの時、瘴気がかなり強くなり、我らを守護するドライアド様の子株も、それにやられてしまったのです。」


「こちらにいるドライアドも、子株ということですか?」

「はい、子株というには、既にかなり大きいですが、本体は別のところにあります。

 我らのところに、ある日勇者一行が立ち寄りました。暴れる我らを抑える為です。」

 オンスリーさんは恥ずかしそうに言った。


「ドライアド様が日に日に瘴気にやられてしまい、我々も守護の力が弱まったことで、瘴気にやられてしまったのです。

 それはもう酷い有様でした……。まともな意識を保っているのはわずかで……。私も必死に皆を説得しましたが、皆、話が聞ける状態ではありませんでした。」

 オンスリーさんは目線を落とす。


「その時集落にいらした、勇者様に同行していらした聖女様が、ドライアド様の瘴気を払い、ドライアド様の力を強める神の守護を与えて下さいました。

 それにより、ドライアド様に守護されている我々は、それ以降、瘴気にやられなくなったのです。そのことに感謝をし、私は勇者様一行に同行することにしたのです。」


「なるほど……。魔物だけが瘴気にやられる理由というのは、何なのでしょうか?」

「魔力の強さの問題だと思います。

 人は魔力が弱いですから、影響を受けにくいのでしょう。

 ですが、人間がまったく影響を受けないかというと、そういうわけでもないのです。」


「というと?」

「病人や、悪しき心を持つ者、心の弱い人間なども影響を受けるようです。

 瘴気が強くなると、犯罪が多発したり、病気が悪化して死ぬことがあるようです。」

 なるほど……。そうなる前に勇者の出現が求められているんだな。


「それで……一番肝心なことなのですが、この子を……、カイアを瘴気の影響から守るには、どうしたらよいのでしょうか?

 以前こちらのドライアドの子株がそうであったように、精霊も瘴気の影響を受けるのですよね?」


 カイアは話の深刻さが分からず、俺の手にしたオンバ茶を飲みたがったので、熱いから少しずつ飲むんだぞ、と言って、息を吹きかけて少しさましてやってから、それを飲ませてやると、目を輝かせてちびちび飲んで、ニッコリと俺を見上げて微笑んだ。


「はい、その通りです。瘴気はすべてを飲み込みます。この小ささであれば、影響を受ける可能性は大きいかと。」

「やはりそうですか……。」

 心配そうにカイアを見下ろす俺に、カイアが心配げな目で見上げる。


「我らのドライアド様の時のように、聖なる加護を与えて貰うしかないのですが、今この世に聖女様はおりません。

 ……既に先日、お亡くなりになられてしまいましたので。」


 タイミングの悪いと言っては失礼かも知れないが、どうしてもそう感じずには居られなかった。

「つまり今、この子を守る術は……。」

「残念ながら、ないとしか……。」

 俺はがっかりした。ここまで来て、出来ないということを知るだけになるとは。


「ですが、有事の際、必ず神は勇者と聖女を遣わして下さいました。

 希望を忘れないようにしていれば、きっとまた神が救いの手を差し伸べて下さいますことでしょう。」

 その勇者の体を、現時点で俺が貰ってしまったことを考えると、果たしてそれがいつになるのだろうかと、めまいがしそうだった。

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