第14話 オーク(豚肉)のカツ丼と豚汁と角煮
大金貨1枚でも100万近い価値の筈だが、それで手付金とは、オリハルコン武器は1千万以上するということか?
相当強くて硬くて希少ということだ。これは期待が持てる。
某世界一の殺し屋漫画にはダイヤモンドの弾なんてのが出てくるが、弾の威力は初速と重量によって決まる。
比重の軽いダイヤモンドは、徹甲弾に使用されるタングステンの5分の1も軽い。
初速が同じなら、硬度の高いダイヤモンドよりも徹甲弾の方が威力がある。
恐らく硬い対象に被弾した瞬間、ダイヤモンドは粉々に砕け散るだろう。
ダイヤモンドの弾だなんて、夢はあるがな。
金属は一般的に硬ければ硬いほど、粘性が少なくなり脆くなる。命中しても同時に弾頭側が粉々に砕かれて貫通が難しくなる。
弾芯には重金属を使用し、軟鉄のキャップで弾頭をカバーするなど、ひと手間加える必要があるのだ。
だが、矢に利用されているということは、金属そのものの比重が重く、なおかつ硬くて柔軟性もあるということだ。おまけに矢は鋳型に流し込んで作るものだ。
加工技術さえ分かれば、鋳型に直接流し込んで弾を作ることが出来る。
「あんたかね、オリハルコンの武器を作りたいと言うのは。」
頑固そうな老人が奥から出て来た。
「何の武器を作りたいのかね。」
ここは正直に言うべきか。
「俺は銃を武器にしています。
銃の弾丸をオリハルコンで作りたいと思っているのです。」
俺は、俺を探るように見てるくる老人の目を、じっと覗き込むように見つめた。
「──銃だって!?」
若い男が呆れたように言う。
「銃で狩りをしてる冒険者なんていないぜ?それも希少なオリハルコンを、弾丸に使用するってのか?矢みたく回収出来るわけじゃねえんだぞ?」
「回収して再利用出来ますよ?」
俺は若い男にそう言った。
単価の高い弾なら、空薬莢を回収して自作する人は多い。まあ、ライフル弾は単価も安いし、数回再利用すれば壊れてしまうから、あまりやる人はいないが。
「……自分で作りたいのか。
それとも、作って欲しいのか。」
「自分で作れるようになりたいと思っています。鉛で弾頭は何度も自作しています。」
老人の問いに俺が答えた。
「──いいだろう、見せてやる。
ワシも普段作らないものを、作りたいと思っておった。
ついてこい。」
そう言って老人は踵を返した。
若い男は驚いたように老人を見ると、こっちだ、と俺を案内してくれた。
工房の中は凄い熱気だった。
鉄で出来たマスクのようなものを渡される。
「そいつをかぶれ。」
老人も若い男もマスクをかぶった。俺は見習うようにしてマスクをかぶった。
「ちょうどオリハルコンで矢を作るところで溶かしてたものがある。
オリハルコンを加工するには、この魔道具で溶かすしかない。」
老人が指差す先には、俺の腰くらいまでの高さのある魔道具が置かれていた。
この中にオリハルコン鉱石を入れて溶かすらしい。
近付いても熱をまったく感じないのが不思議だった。
「オリハルコンは純度の高い金属だから、混ざりものは基本殆どないと思っていい。
だから溶かすまでは簡単に出来る。
だが空気に触れた瞬間急速に固まり硬度を増して型に入れられなくなっちまう。」
「それでどうやって加工を?」
「この魔道具の中に直接鋳型を入れてオリハルコンを流し込んでやる。
その為にこんなにデカいのさ。
それで基本の形を作る。」
なるほど。この魔道具を出さなきゃ始まらないわけか。
「刃先を作る場合はそこから叩いて加工するが、あんたの作りたいものが弾なら、鋳型を作って流し込めばいいだけだ。」
言葉だけなら簡単そうだが、小さな窓から見える範囲は狭い。弾の鋳型は小さいから、鋳型を直接中に置いて流し込むとなると、ちょうどいい量をうまく流し込むのは難しそうだと感じた。
「鉛で弾を自作していると言ってたが、鋳型はあるのかね?」
「はい。」
「ならそいつをそのまま使えばいい。オリハルコンの融点は鉄よりも低いからな。」
俺はアイテムバッグに手を突っ込むと、その中から取り出したかのように、薬莢と雷管と弾頭の鋳型を出した。
「ふむ、いい出来だな、悪くない。」
老人は感心してくれたが、鋳型は業者が作ってくれたものだ。さすがに俺にそこまでの技術はないが、ここは黙っておいた。
空薬莢を再利用するだけなら、やっている人も多いが、鋳型まで作ってイチから自作する人間は少ないと思う。だが今回は存在しないものを作るわけだから、鋳型から製造する他ない。
俺の力には制限がある。ペットボトルの水は出せても、最初からポリタンクに入った水が出せない。つまり、売り物であったり、何かしらで、予め存在しているものしか出すことが出来ないのだ。
創造することが出来ないといえばいいだろうか。何でも出せるが、存在しないものは出すことが出来ない。恐らく1度でも作ってしまえば次からは出せるだろうが、最初の1回目は作成する必要があるのだ。
老人は鋳型を使って、オリハルコンを流し込み、余分なオリハルコンを魔道具の中で捨てて、外に取り出すと、鋳型の底を叩いて取り出し、薬莢と弾頭と雷管を作ってみせてくれた。
「どうかね。」
「いいと思います。」
完璧だ。いい腕だ。
やってみなさいと言われて俺も作ってみることにした。
最初は中が見えづらくて苦労したが、何度か繰り返すうちに感覚が掴めて、きれいに鋳型に流し込むことが出来るようになった。老人がニコニコしだす。
弾頭が装甲に包まれていないが、オリハルコン自体が重くて硬くて柔軟性のある金属だから、恐らく当たっても対象を破壊する前に変形したりしない。鉛の表面をオリハルコンで覆うだけでも、衝撃で変形することを防いで威力が増すと思う。
だが、徹甲弾のような硬すぎる弾の場合は、銃身にダメージを与える為に、逆に柔らかい金属で覆ってやる必要があるのだ。
俺の銃身では、そのままでは使えない。俺が弾頭を柔らかい金属で包みたいと言うと、老人は我が意を得たり、という表情をした。
「まあ、普通の銃身じゃあ、このままじゃ使えんわな。」
そう言って笑う。
「実はこんなものを作ってみたことがあってな。」
そう言って、老人は1度奥に引っ込むと、ライフル型のオリハルコン製の銃身を出してきた。
「今は弾しか手に入れられんだろうが、金がたまったらコイツを買いに来るといい。
弾頭を加工しなくても、そのままオリハルコンの弾を撃てるようになる。」
存在するなら能力で出してしまえるわけだが、俺はぜひともこの老人から直接銃を買いたいと思った。
「いつか必ず来ます。俺はジョージ・エイトといいます。」
「ヴァッシュ・バーグだ。」
「バーグさん、本当にありがとうございました。」
俺たちは握手をかわした。
バーグさんは俺の銃身でも撃てるように弾頭を加工し、俺の用意した火薬を詰めてライフル弾の形にしたものを渡してくれた。俺はオリハルコン弾の代金を支払ったのだが、たかだかライフル弾を作って貰っただけで中金貨を支払うことになったのだ。
ライフル弾に使う金属の量などたかが知れている。これが銃身ともなると、大金貨100枚以上取られることになるだろう。
それを使おうとしたら呆れられたわけだ。
再び山に登って、アイテムバッグに入れておいたオークを檻ごと出した。
オークは一瞬キョトンとしたが、俺の存在に気付くと再び吠えだした。
俺はライフルを構えると、オリハルコン弾を装填して頭を狙った。
一発で脳天を貫通すると、地面に弾がささって、オークがグラリと倒れた。
……こいつは凄いな。
俺は空薬莢と弾頭を回収した。その足で冒険者ギルドに向かうと、有料でオークの解体を頼むことにした。やはり手足が人間なのは気持ちが悪過ぎて俺には無理だった。
冒険者ギルドの職員が驚いて奥に引っ込むと、ギルド長だと名乗る中年男性が出て来て、驚いた表情で俺に言った。
「あの、これを本当にお1人で?」
「そうですが。」
「少々お待ち下さい。」
何やら奥に行って他の職員とヒソヒソやっている。……何かまずかっただろうか。
結果としてクエストも受けていないのに、俺の冒険者ランクが1つ上がることになった。俺はオークの肉を受け取ると、ホクホク顔で帰宅した。
オークはメスだったらしく牙がないので、肉を売らないと買い取り出来る素材がないと言われたが、俺の目的は肉なので、そんなことはどうだっていい。
ようやく楽しみにしていたオーク肉が手に入ったのだ。
アスターさんに角煮も作るとして、他の部分をどうしようかな、とワクワクしながら考える。
俺はトンカツと角煮を作りながら、薄切りにして貰ったオーク肉を出した。
冒険者ギルドでは薄切りにする技術がないので、紹介して貰った肉屋に持ち込んで加工して貰ったのだ。代わりに1部の肉を、肉屋におろすことになったが、まあ俺にとって必要がない部分だから問題はない。
俺は卵、泥付きのゴボウ、玉ねぎ、人参、大根、こんにゃく、木綿豆腐、油揚げ、にんにく、生姜、長ネギ、白ダシ、七味唐辛子、たまり醤油、厚切りの鰹節、鯖と煮干しの混合節、薄切りの鰹節、親子鍋を出し、醤油、酒、顆粒の鰹出汁、昨晩の内に540ミリリットルの水につけておいておいた利尻昆布3枚と日高昆布2枚入りの鍋、味噌、砂糖、みりん、ごま油、キッチンペーパー、ご飯を用意した。
最初に湯を沸かし、油揚げに両面かけてやって油抜きして、冷ましたら水を切って短冊切りにする。木綿豆腐は重しを乗せて少し水を切って大きめのサイコロ状に切り、ゴボウの皮を金属タワシで洗って剥がす。
丸めたアルミホイルでもいい。泥付きでもそのまま洗える。皮が残るがそのまま使うので問題ない。
ゴボウは細い部分を輪切りにし、太い部分は斜め切りにする。
大根半本をイチョウ切り、玉ねぎは1個を薄くスライス、人参は1本を半月切り、長ネギ1本を緑のところまで斜め切りにして、こんにゃくを手で千切ってぬるま湯で1度洗う。スプーンでえぐってもいい。豚コマは適当な食べやすい大きさにぶつ切りするか手で千切る。
先に輪切りのゴボウをごま油で揚げ焼きにし、カリカリになったら取り出して、斜め切りにしたゴボウを揚げ焼きにし、再度取り出す。豚コマを引っ付かないように、肉同士を離して入れて両面焼いてやる。
焼き色がついたら豚コマを取り出して、余分な油を捨て、大根、人参、玉ねぎを炒めて、更に取り出しておいたゴボウを両方加え、ここで顆粒の鰹出汁を大さじ1加えて再度炒める。
鍋に炒めた材料を移して、酒を150ミリリットル加えてさっと混ぜたら、蓋をして中火で蒸煮にする。数分おきに時折混ぜながら、空焼きしないよう、水分が殆どなくなっていたら水を足してやる。
野菜が煮えたらヒタヒタになる程度に水を加えて、こんにゃく、木綿豆腐、油揚げを加えて、白ダシを大さじ2、味噌を適量加えて強火で沸騰させたら、中火に火を落として蓋をせずに20分煮込んでやる。
にんにく2粒と、同量の生姜をすりおろして、長ネギを加えて3分程度煮たら、最後に火を止めて醤油を少々加えて軽く混ぜる。器に盛ってお好みで七味唐辛子をかけて豚汁の完成だ。
豚汁は豚バラを推奨されているが我が家では使わない。1度油抜きしないと油が出過ぎて味がぼやけるし、安い豚バラだと脂身の面積が多くて特にそうなってしまうし、何より食感が嫌いだ。
続いて醤油80CC、たまり醤油10CCを砂糖25グラムを加えて溶かし、みりん45CCを加えて軽く混ぜ、沸騰しない程度に温めて、うっすら湯気が出る状態を維持しながら5分煮る。火を止めて冷ましたら1時間寝かせてかえしを作る。
ひと晩水につけておいた昆布の入った鍋を、1番小さな弱火で湯気が出ない程度に温めてから、1時間じっくりと煮て、昆布を取り除いたら酒を50CC加えて沸騰させ、あくを丁寧に取り除く。
厚切りの鰹節30グラム、混合節を10グラム、薄切りの鰹節を5グラムに加えて、弱火で10分煮て、火を止めて5分程置いたら、ざるにキッチンペーパーをしいて静かにこれを濾していく。この時決して絞ってはいけない。
昆布が京風だしのやり方なので昆布多めだが、関東風にするなら、沸騰させない程度に温めたお湯に、乾燥昆布を4グラム程入れて30分放置するのでもいい。顆粒出汁なら水300ミリリットルに鰹出汁の素小さじ1と、昆布出汁の素小さじ半分でもいい。
出汁300ミリリットルに対してかえしを100ミリリットル入れ、割下を作ったら、以前作ったやり方で作っておいたトンカツを切り、親子鍋(親子丼を作る用の鍋。小さいフライパンでもいい。)に割下を100ミリリットル入れて、スライス状に切った玉ねぎをしき、その上にトンカツを乗せる。
強火で玉ねぎに火を通したら、溶き卵を3分の1残して全体にかけ、卵が半熟になったら残りを加えて、蓋をせずに30秒火を加えたら、用意していた丼にご飯を盛って、滑らすようにトンカツの卵とじをのせて、お好みで薄切りにしたネギを乗せてカツ丼の完成だ。
カツ丼を一気に頬張る。
「あっふ!ウマ!」
熱々かつトンカツのサクサク感を残しているのがたまらない。味を染み込ませるのを重視する場合はトンカツの上から割下をかけて煮てもウマい。
豚汁をすする。手間はかかるが、これがまたウマいんだよなあ。
ちなみに我が家では豚汁は必ず父が作っていた為、俺は男の料理だと思っているし、男が最初に作るべき料理だとも思っている。
少し取り分けた角煮をツマミに後で飲むとして、残りはまた村にお裾分けする用に多めに作ってある。
ちなみに割下は4人前の計算である。1人分でもまとめて作った方が出汁がうまくなるので、普段は冷凍してとっておく。
同じ状態にした昆布を漬けた水を大量に作ってあるので、こっちもお裾分け可能だ。
汁物もあることだし、また村のみんなに入れ物を持って来て貰うか。
そう思いながら、俺はオーク肉を堪能したのだった。
 




