第12話 ロック鳥(鳥肉)のスパイシー唐揚げ2種類と台湾風唐揚げ
俺は山に入り、ダイアウルフの群れの住処だと言われているところに向かった。
石の洞窟を住処にしているらしく、切り立った崖の下にその住処はあった。
リーダーらしき少し大きめの個体の他に十数頭。確かにパーティーで狩るべきだというのは分かる。
俺は射程距離圏内の近くの木の上に登り、一番近くの個体を散弾で狙い撃つ。血を流しているが死んではいない。致命傷というところだ。そこそこは強いらしい。
動物なら普通銃声がした瞬間逃げるものだが、攻撃的かつ群れを作っている魔物だけに、案の定木の下に集まって来る。
俺はそれを順番に狙い撃ちしていった。
ボルトを引き上げ後ろに引くと、空薬莢が飛び出してくる。再度手前に押してボルトを引き下げて溝にはめると弾が装填されるので続けて別の個体を狙い撃ちする。
弾を撃ち尽くしたら、ボルトを引き上げ後ろに引いて、空薬莢を飛び出させ、上から弾を装填し、ボルトを前にスライドさせて一度ボルトを下げて溝にはめたら、再度引き上げてボルトを後ろに下げる。
その後真下の蓋を開けて予備の弾を装填すると、ボルトが少し前に移動するので、更に前に押してボルトがハマる溝に下げてやる。これで2発連続で撃てるようになるので、1発撃ったらボルトを引き上げ、弾を排出して予備を装填する。この繰り返しだ。
俺が次々にダイアウルフを倒していると、突然ギャアギャアという鳥の鳴き声がした。
見上げると巨大な猛禽類が2羽。
──番いだろうか?1羽が物凄い勢いで滑空し、ダイアウルフを1匹掴んで崖の上に飛び上がり、巣でもあるのか戻って来なかった。
その時、俺はもう1羽と目が合った気がした。木の上の俺めがけて、もう1羽が突っ込んで来る。俺は猛禽類を狙って散弾を撃ち尽くすと同時に、サボット型スラッグ弾頭の、カッパーソリッド3inマグをアイテムバッグから出して装填した。
連続で2発、頭にぶちこんでやる。
──死なない!?
俺の体長くらいある鳥だ。象すら持ち上げられそうな力強い翼と爪。これじゃ威力が足らないのか?
俺は手の中にDUPO28を出した。金色の金属の部分が他の弾に比べて長い弾だ。金属部分には火薬が詰まっている為、命中精度が高いというウリに対して、正反対にその分反動が凄くてブレまくる。
だがその分殺傷能力は高い。命中後体内で6つに分かれる、エグい弾だ。
上から下に滑空し、なおかつ直前で掴んでこようと羽ばたいて軌道を変えてくる鳥は、誰でも狙いにくいものだが、これだけ図体がデカけりゃ、至近距離ならどこかには当たる。
俺は滑空してきて俺に襲いかかる瞬間を狙い、2発連続でDUPO28をぶちこんだ。1発が喉元に当たり、怯んだすきに頭にもう1発をぶちこむ。猛禽類は真っ逆さまになって地面に激突した。
相方の異変を感じ取ったのか、崖の上に引っ込んでいたもう1羽が、崖の上から俺めがけて真っ直ぐに滑空して来た。
俺を掴もうとする変則的な動きじゃない分、さっきの個体よりも狙いやすい。
俺は再度DUPO28を装填し、冷静に狙いをつけた。
1発がブレて翼に当たって猛禽類がグラリと傾く。続けざまにもう1発ぶちこむ。今度は胸元に当たり地面に落ちたが、致命傷というところで、まだ死んではいなかった。
ピクピクと震えているので、弾を装填し、狙いをつけて頭に2発ぶちこんでやる。
それでようやく動かなくなった。
あたりは血まみれで物凄い匂いだ。これにひかれて何か集まってきても面倒だ。
俺は木から降りると、空薬莢を全部拾い、倒した猛禽類とダイアウルフを急いでマジックバッグに詰めて山を降りた。
空薬莢を拾うのはマナーの問題もあるが、銃の異常を発見する為でもある。
弾の底の部分には、雷管という火薬を点火または点爆するために、起爆薬を容器に装填した部分があるのだが、撃ったあとの弾の雷管が飛び出ていたり、抜けてしまっていることがある。
または雷管を収める部分であるロンデルという部分が変形している、なんてこともある。
雷管が外れて機関部に落ちたりすると、引っかかったり噛んでしまって、撃てなくなったり、故障の原因になることがある。
壊れてしまって、引き金を引いてないのに爆発してしまったりなんかしたら最悪だ。
排出時にたまたま吹っ飛んだのなら問題ないが、同じような状態の空薬莢が量産されている場合は、弾が原因ではなく、銃に異常があることが原因で、撃った弾がそうなってしまうものなので、必ず使用後の弾は拾ってお尻を確認したほうがいいのだ。
俺は冒険者ギルドに向かい、ダイアウルフの群れを倒したことを告げると、ダイアウルフを納品カウンターに出した。
予定の頭数よりも多かったらしく、その分のクエスト受注料は貰えないが、皮と牙の精算には加算されるらしい。
俺はついでに猛禽類を取り出して、こいつを解体して貰えないかと尋ねた。
職員たちの目が丸くなる。
「ロック鳥……?」
この鳥──恐らくデカさからいって魔物なのだと思うが、ロック鳥というのか。
ダイアウルフの巣の近くに巣を作っていたらしく、襲われたので倒したことを伝えた。
事前に調査していたにもかかわらず、そんな危険な状態になっていたことが分からず、ランクの低いクエストにしてしまったことを、申し訳ないとギルドのカウンターの受付嬢と、職員から謝罪された。
本来ロック鳥はもっと上のクエストなのだそうだ。
しかも番いともなると、パーティーを組んでいても新人には倒せないものらしい。
無事に戻って来れたので問題ないと言ったら感謝された。
ロック鳥は冒険者ギルドで解体してくれることになった。本来解体費用が取られるらしいが、危険な目に合わせてしまったお詫びということでタダにしてくれた。
流石に自分1人でこんなデカい鳥をさばくのは骨なので助かった。
素材の買い取りもして貰えるらしい。
肉だけ欲しいというと、また半分だけ買い取らせてくれと言われた。まあ、別に2羽いることだし、構わないと告げた。
わざわざ買い取らせて欲しいと言うくらいだから、きっとこの鳥の魔物も肉がうまいのだろう。
ダイアウルフは全部で14匹、1匹につき銀貨5枚と銅貨7枚だった。ロック鳥が1羽につき中金貨2枚と小金貨5枚。合計で中金貨5枚と小金貨7枚と銀貨9枚と銅貨8枚になった。
俺は受け取った代金と肉をアイテムバッグに詰めて、帰る道すがら、何を作ろうかと今からワクワクしてくると同時に腹が減ってくる。やれやれ、俺の腹は正直だな。
これだけの量があるから、また村の人たちにも分けようか。
異界の素材はクセになる。特に魔物がこんなにうまいと思っていなかったから、俺としては転生させられたのは、正直ラッキーだったと思う。この世界に来なければ、生涯口にすることのなかったものばかりだ。
余裕を持って料理をしたり、畑をつくれたり、自由な時間を過ごしている。
仕事に追われて、帰宅して洗濯機を回したまま、倒れるように寝てしまって、起きたら干す時間もなく出社して、また帰宅して洗濯をし直していた頃が嘘のようだ。
俺は家に戻ると、卵、にんにく、しょうが、マヨネーズ、ハイミー、黒胡椒、コーンスターチ、クミンパウダー、コリアンダー、ナツメグパウダー、五香粉、チリペッパーを出し、醤油、酒、塩、みりん、片栗粉、サラダ油、キッチンペーパー、ジップロック、ボウルを複数準備した。
鶏肉はいったんブライン液(肉と同量の水に、水の3%の塩、水の2%の砂糖)に浸けておき柔らかくジューシーにする。(酒と生姜を追加するのもオススメだ。)
もも肉をぶつ切りにして、もも肉1キロに対して醤油大さじ6、みりんと酒を大さじ3と少々、ハイミーを小さじ1、にんにくを大粒なら3つ、小粒なら4つと、生姜を同じ分量すりおろし、黒胡椒とナツメグパウダーをお好みで、1:3の割合でふったものを混ぜ合わせて、1度ジップロックの中に入れて、もも肉に揉み込んだら常温でつけておく。
続いてもも肉1キロに対して醤油とマヨネーズを大さじ3、酒を大さじ5、生姜とにんにくをすりおろしたものを大さじ1、クミンパウダーを小さじ1、コリアンダーを小さじ2分の1、黒胡椒と塩をひとつまみ混ぜ合わせ、1度ジップロックの中に入れて、もも肉に揉み込んだら常温でつけておく。
胸肉を半分の厚さに切って、大きなサイズのまま厚みのある部分を薄くなるまで叩く。
胸肉1キロに対して醤油と酒を大さじ3、砂糖を大さじ2、黒胡椒と塩を少々、にんにくとしょうがをすりおろしたものを大さじ1、五香粉を小さじ1、チリペッパーを少々混ぜ合わせて、1度胸肉に揉み込んだら常温でつけておく。
つけ置く時間はそれぞれ1時間だ。量が半分以下なら2〜30分でいい。
夏場で室内の気温が心配なら冷蔵庫でつけ置いてもいいが、冷蔵庫に入れると揚げる際に2度揚げする必要が出てくる。
今回は2度揚げしないので常温でプラスチックの蓋を乗せて置いておく。
つけておいたもも肉を、つけ汁を絞って水気を切り、まんべんなく片栗粉をつけ、もも肉が半分つかる程度のサラダ油で、ひっくり返しながら中火で揚げていく。
優しい焦げ茶くらいの色に変わったら、キッチンペーパーの上に乗せて、余分な油を吸わせながら予熱で更に火を通して、スパイシー唐揚げ2種類の完成だ。
続いて卵を3個箸で溶き、胸肉をくぐらせたら、片栗粉とコーンスターチを1:1に振り混ぜたものをまぶして、半分つかる程度の180度の油で裏返しを繰り返しながら、揚げ焼きにしていく。大体8分程繰り返して中まで火が通ったら、台湾風唐揚げの完成だ。
俺は3種の唐揚げを前に、思わずビールを出した。揚げたてにガブリと噛み付く。
まだ熱くて思わずビールで流し込む。
鶏と比べると、柔らかく油がのっているのに、しっかりと歯ごたえがある。
筋肉がついている個体だと分かる。自然に育てた軍鶏の食感に近い。
一般的に肉食の鳥類の肉はマズイというのが元の世界では定説だが、この世界の魔物はどうやら違うらしい。
やっぱり自然に育った鳥肉はいいな。
スーパーで買う肉には、決して出せない歯ごたえと旨みがある。
食感が気持ち良すぎて、いつまでも噛んでいたくなるし、そのたびに旨みが染み出してくるのがたまらない。
唐揚げだけで腹いっぱいになる程にタップリと食べ、俺はすっかり大満足だった。
まだ夕飯には早い時間だったので、俺はラグナス村長のところに寄って、また肉が取れたのでお裾分けをしたいと伝えた。
全員分となると夕飯のオカズにちょっと加える程度の量しかないので、欲しい人にだけ村長のところに取りに来て貰おうと思ったのだ。ラグナス村長は大喜びで唐揚げを受け取った。
そういえば俺はずっと気になっていたことがあったので、それをラグナス村長に聞いてみることにした。この世界の人たちはトイレの始末をどうしているのだろうか?ということだ。
「……すみません、1つお伺いしたいことがあるのですが。」
「なんだね?
何でも聞いてくれ。
君の為なら協力を惜しまんよ。」
ラグナス村長は笑顔でそう言ってくれた。
「トイレなんですが……。
皆さん排泄物の処分をどうされているのでしょうか?」
村長は、なんだ、そんなことか、と言いたげな笑顔を浮かべた。
「なんだ、そんなことかね。
水色のスライムを捕まえてくるのさ。
そいつをトイレの底に入れておけば、勝手に排泄物を食べてきれいにしてくれるんだ。」
スライムは俺でも聞いたことがある有名なゲームにも出てくる魔物だ。この世界の魔物は、微生物のような役割を担うことがあるのだろうか?
ともかくその水色のスライムさえいれば、排泄物の汲み取りなんて必要がないらしい。
おまけにスライムが排泄したものが、直接農作物の肥料にもなるという。
なるほど、異世界ならではのやり方というのがあるんだな。なんでも元の世界のやり方で解決しようとしていたが、思いきって聞いてみて良かった。
スライムは、倒すのは楽だが、捕まえるのは大変で、売っているものの少しお高めだとラグナス村長から言われた。
俺は、スライムをわざわざ捕まえたり買わなくとも、この能力で出せばいいんじゃないか?と考えた。
売り物なら商品だ。畑で取れた虫を食わせる為に鳥を出そうとしていたくらいなのだ。排泄物を処分する魔物も出せないだろうか?
トイレの前で腕組みをしながら首を捻ると、俺は水色のスライムを出してみた。
ポコポコと妙な音がして、空中に3匹のスライムが現れたかと思うと、ポトリポトリと汲み取り式トイレの中に落ちてゆく。
そのままうごめいたかと思うと、スライムがゆっくりと排泄物を食べだした。
「──おお、食べる食べる。」
あとはこいつらに任せておけばいいのだ。
汲み取り式トイレは深い為に、スライムは上がって来れないので襲われる心配もないとラグナス村長から聞いている。
──ふと。
俺は、魔物も出せるなら、冒険者ギルドのランクが上がるのを待たずに、オークも出せばいいんじゃないか?ということに思い至った。生体のまま売り物になっていないものが出せるのかが分からないが、試す価値はある。
だがこのことが、ラグナス村長の村と、隣村との対決にかかわってくるだなんて、その時の俺は思いもしなかったのだった。




