ナナの危機(1)
あのタマの事件をきっかけに、福山警部はあることを思いつき、鈴に相談していた。もし猫や犬たちが犯人を目撃していれば、動物型人相学で犯人を逮捕できる。この特殊能力を使わない手はない。飼い主をなくし、残された動物たちのためにも早期事件解決になると。
まさか、こんなことになるとは思っていなかった鈴は、想定外の依頼を引き受けるか悩んでいた。福山警部は、できるだけ協力して欲しいと言っている。ナナと田中先生に、判断を仰ぎそれから決めることにした。優先するのは、当病院の依頼者たち。
カウセリングを初めて3ヶ月が経ち。ナナのカウセリングの腕も上がり、田中先生と息の合ったコンビでカウセリングを行っている。
依頼の中には、しつけの仕方がわからないといった依頼もあり。言葉が通じても難しい面があると、ナナは言っていた。本来なら、動物側の悩みを解決する訳だが、ナナなりのアドバイスをしていた。
最近のカウセリングでは、いつものように散歩コースを通ると、公園の入り口付近で必ずといっていいほどその場に座り込みをする犬がいる。その犬は、リードを強く引っ張っても動かずにいた。そこで、散歩ルートを変えると、今度は散歩に行かなくなり。最近、元気がない。
ナナは、その犬に話しを聞くと。1年前にその公園の近くで仲良くなった犬がいて、突然会えなくなり心配していた。そして、あの場所でまた会えるのを待っていた。ただそれだけだった。
飼い主は、その相手に連絡を取ると、相手の犬も最近元気がなかったと言い。散歩ルートを元に戻した。
確かに、人間と話せれば問題は起こらなかったのかもしれない。ナナは、たまに思う時がある。
田中先生は、いつものようにカウセリングの依頼をチェックしていると。飼い主の名に、鳥肌が立つ名前が表示され。その依頼を受けるべきなのか、断るべきなのか、悩んでいる。その飼い主の名は、尊敬する角野教授だった。角野教授は、68歳になり、今年大学教授を定年することになっていた。
依頼内容は、68歳を迎え、子供2人は独立し、妻に先立たれ1人暮らし。昔、『人間と動物の意思疎通について』という本を出した。
私は、2年前に家の前で倒れている子犬を保護しました。体中は傷だらけ、捨てられたのか、迷子なのか、首輪していない。その子犬にシロと名付け、うちの家族として迎え入れました。最近、思うことがあります。果たして、うちのシロは幸せなのか。
私の知らない動物型人相学で、シロの気持ちを教えて欲しい。私がそちらに出向くのには無理があり、出張という形が取れないでしょうか。よろしくお願いします。
シロの年齢は、推定3歳の雌犬です。真っ白な女の子なのに名前はシロです。
依頼内容は以上だが、ホームページには出張はしませんと記載している。ナナを守るために、出張はしないと決めている。田中先生は、特例は認めない、この依頼を断ることを決め。ナナにこの依頼を確認してもらっていると。滅多なことではここに顔を出さない鈴が現れ。
「田中先生、シロの件は私が許可します。明日にでも先方へ出向いてください。ナナ、あなたはどうする?」
「私は、大丈夫だけど、先方に私のことがバレないようにしないと」
「院長は、特例を認めるんですか!?」
「あなたならそう言うと思った。でもね、リモートで頭を下げられたらね、断れなかったのよ」
「……」
「特例はこの1回だけ、お願いします」
鈴に頭を下げられ、田中先生はこの依頼を受けるしかなくなった。しかし、いくら尊敬する角野教授であっても、ナナの存在を知られる訳にはいかない。
田中先生は、伊達メガネとマスクを準備し。あとは、ナナの声さえ聞こえなければ問題はない、用事してこれに対処する。




