カウンセリング開設から1ヶ月後(3)
田中先生は、失恋した。それも昨日のこと。この話はここだけにしといてと言っていた。みんなは知らない、田中先生に彼氏がいたことは。
田中真奈美、年齢27歳。この動物病院から車で15分の所にあるマンションに、彼氏と同棲していた。その彼氏、名前は須藤光、26歳。
須藤は、20歳の時、バイク事故で車椅子生活を余儀なくされ、大学の獣医学部を中退し。奨学金の返済は、両親が何とか工面した。
田中先生は、須藤とどこで知り合ったのか。今から5年前、東京第2動物園で知り合っていた。
田中は、大学の獣医学部に入り、学費は両親が出し。学費負担がなくなり両親に感謝し、大学に通いながらアルバイトでお金を貯め、いろんな場所にある動物園巡りをしていた。1番のお気に入りの動物園は、やはり東京第2動物園。ここの動物たち会うのが楽しみだった。
田中と須藤は似ている。お互い幼い頃から動物にしか興味がなく。その頃から獣医師になると決めていた。まさに恋人は動物だった、お互いに出会うまでは。
ある日。田中は、いつものように東京第2動物園に行き、動物たちと話をしていた。別にヤバい女性ではない。そんな時、車椅子に乗り、カメラのシャッターを切っている男性を田中は目にし。その表情に一目ぼれ。田中の初恋となった、この男性が須藤光。
田中は須藤に、どことなく自分と同じ匂いを感じ、思わず近寄り話しかけた。
すると、すぐに意気投合し。 驚くことに須藤は、田中と同じ大学を中退していた。これがきっかけで付き合い始めた2人。はたから見てお似合いの2人。
田中は大学に行き、獣医師を目指し頑張っている。片や須藤としては、やむを得ず大学を中退し、獣医師に未練があり、その想いに苦しんでいた。しかし、動物写真家として新たな夢を見つけ、お互い夢に向かった邁進していた。
そんなある日。父親の友人が、車椅子の須藤と田中を公園で見かけ、仲好さそうに歩いていたことに驚き。もしやと思い、そのことを田中の父親に話した。
この時、田中の父親は、2人が付き合っていることは知らない。その夜、田中の父親は、田中のスマホに電話をかけ、公園の車椅子の男は誰だと聞き。その問いに答えた田中は、翌日、実家に呼び出された。
田中の父親は厳しい人だが、田中の夢を応援してくれた。田中は、まさか付き合うなとは言わないはず、そう思っていた。
ところが、父親はいきなり、その男と結婚するのかと聞いてきた。田中は結婚を考えていると言う。この時、田中は須藤の気持ちは聞いていない。
田中の父親は、プロでもない写真家がお前を養って行けるのか。生活面で苦労するのは目に見えている。それに車椅子の生活だろうが。そう言われ、散々非難され、結婚に反対された。しかし、母親は応援してくれた。この時、田中は父親に反対された悔しさからなのか。
「じゃ、車椅子の人は結婚したらダメだって言うの? だったら、私が彼を養う。それなら文句はないでしょ」
そう言い放つと、父親は、勝手にしろ、私はその結婚は認めと言い、書斎に行き。田中は、反対されると思わなかった。認めともらえない現実に非常に辛い思いを味わい、自宅へと帰って行った。
田中は須藤に会う前では、結婚なんどしないつもりだった、そう決めていた。両親にもそう言っていた。父親は裏切られたと思ったのか。そうは思っていない、いずれは結婚してくれると思っていた。結婚が全てではないこともわかっている。それを決めるのは私ではないお前だ、父親はそう思っている。
この出来事は、カウセリング初日、2日前のこと。やはり、両親に祝福されて結婚したい、その想いが募っていた田中は、すぐに須藤に話せなかった。この出来事を須藤に話したのは、カウセリング初日の2日後。
その出来事を知った須藤は驚いていた、結婚の2文字に。須藤は結婚のことは何も考えていなかった。同棲したいと言い出したのは田中の方。田中は須藤と一緒にいたいと、別々に住んでいたマンションを退去し。今から1ヶ月前に、バリアフリーのマンションに2人は引っ越しをした。このことも田中の両親は知らなかった。
須藤は、生活面は田中にまかせっきり。カメラを初めて5年、コンテストに応募するも落選続き。須藤の貯金は残り少なく、収入がない。車椅子のプロ写真家は難しい。それはわかっている、今の私にはこれしかない。これが当たればなんとかなる。しかし、現実は厳しい。でも田中がいてくれれば。しかし、「結婚」となれば話が違う。自分のことで精一杯。その上、田中に甘えばかり。そんな私にこの先何ができる。お金がなければ暮らしていけない、それにこの体、これ以上は迷惑をかけられない。そう思い始め、未来を想像し。2人は話し合った。しかし、結婚は別物。
今から2日前、須藤から突然別れると言い出し。このままでは田中に迷惑をかけるだけ、実家に戻ると言う。
田中は、迷惑とは一度も思ったことがない。生活費なら私がなんとかする、少しだけど貯金もまだあると言う。
そのことに、須藤は何も言わず、自分の部屋に閉じこもった。
昨日、田中は自宅に帰ると。彼の部屋にあった物は全てなくなり。茶碗、コップ、歯ブラシ、何もかも彼の物はなくなっていた。スマホに電話をかけるが出ない。LINE、メールもダメ。田中は、悔しさと悲しみが入れ混じり泣いていた。しかし、カウセリングは休みたくない。




