語り部は突きつける
第一章 ある幕屋
ここは幕屋の中だった。
二人の女が椅子に座っていた 椅子は玉座のごとくだった。背もたれがゆうに一メートルはありそうな木製の椅だ。背もたれには細い槍を立てたような飾りがついている。
二人の女がいた。(2回目。)
女、とはいえ見た目にはまだ少女の年齢に見えた。
二人ともおそらく17歳くらいだろう。
一人は長いまっすぐな黒髪が青いワンピースから伸びるすらりとした二の腕にかかっている。その女は確かに少女と言える年齢に見えた。だが、その目に宿る光が、彼女を『少女』ではなく、『女』と言わしめる。まるで深い水のような黒い瞳だった。女は目の前の丸いテーブルに両肘をついた。手首にじゃらじゃらと付けた何本もの細い腕輪のいくつかが肘まで滑り落ちた。
いま一人の女もまた、座っている。少女の座っている椅子も袖無しのワンピースの女と同じ、背もたれの高い木製の椅子だった。座るところにはベルベットが張られており、見た目よりは座り心地は良い。
こちらははっきりと少女と呼べる。青に近い紺のスカートに赤いスカーフのセーラー服。足は黒いタイツで包まれている。ワンピースの女はくるぶしまでのスカートだったが、セーラー服の少女は膝丈だった。目を見張るほどに綺麗な少女だ。髪は茶に近く、薄いが形のいい唇は赤く艶やかだ。コケティッシュな、といえばいいのだろうか。どこか忍び笑いする猫のような妖しさがある少女だ。だが、年相応のあどけなさも失ってはいなかった。
女と少女の前にはお揃いのティーカップが置かれていた。熱いお茶が満たされたカップからダージリンの馥郁たる香りが立ちのぼっている。
丸いテーブルの真ん中には翡翠で出来た香立てが置かれていた。そこには、赤い線香が一本、まっすぐに立てられている。
「『風の家』にようこそ。」
袖無しのワンピースをまとった女は言った。
「それでは始めましょう。よろしいですか?」
女は言い、少女は頷いた。
女は線香に火をつけ、口火にした。ゆらりと立ちのぼる煙。
女は語り部だった。線香一本が燃え尽きるまでの時間、お話をしてもらえる。
そう。少女はこの語り部のお客としてここに来ている。
「これは私が、ある女から聞いたお話……」
線香の香りが緩やかに立ち上る中で、唇をすぼめるように女は話し始めた。




