1.
「お疲れさまです。」
一言言い残して歩き出す。
冬の澄んだ夜空とは反対に、どうしても淀んだ心の中。
こんなはずではなかった。
新型ウイルスの影響で、入学以来1度も大学に通っていない。
わざわざ一浪して入った大学。
初めての一人暮らしに浮かれたのも束の間、生きるためのアルバイト、オンラインの課題を孤独にこなす日々。
こんな僕を見て、去年の僕は何を思うだろう。
家賃3万5000円、古い1Kのアパートの電気をつける。
カップ麺をすする音だけが響く部屋。
「咳をしても一人」
昔誰かが言ったらしい言葉。
ベランダで、タバコに火をつける。
冷たい風が頬を叩く。
「何やってんだろな…」
そう呟き今日も一人床に就く。
~翌朝~
目が覚める。
支度を済ませアルバイトへ向かう。
いつもと何も変わらない。
突如特徴的なメカノイズが耳を貫く。
いつもなら煩いと思うだけの騒音
何故か興味を抱いた。
バイトまで残り30分、少しの寄り道くらいなら
脇道に入り、音の主を探す。
2分も歩かないうちに音の主は姿を現した。
真っ黒なボディカラーにボリューミーなタンク。
割に小さな体をした音の主と、50代くらいの色黒の男。
バイク…か。
バイクなんて別に珍しいものでもない、
が…目が離せない
吹き抜ける高音が心地いい。
「兄ちゃん、どうした?」
突然のことに言葉が出てこない。
「え、いや、かっこいいなって」
何とか絞り出した言葉に、男は白い歯を見せる。
「バイク好きか?」
別に好きではない、けど…
「いい音ですね」
「回してみるかい?」
右手でアクセルを握る
恐る恐る手首を引くと、僅かな振動とともにエンジン音が体を駆け抜けた。
心臓が高鳴る、頬が紅潮する。
謎の高揚感が寒さを忘れさせた。