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けじめ

「ふぉふぉ。わしにもそれなりの情報網はあるのよ。もっとも、他所に漏らしちゃおらん。そこは安心するといい」

「そうか。まあ、話が早いのは良いこった」


 進んで片膝をついたレグラスへ王印を押し付け、つつがなく儀式を終了させる。



 話がこじれる事なくレグラスの忠誠を得られたのは大きい。


 元から関係は良好だったとは言え、相手はマフィア。どんな拍子で裏切るか知れたものではないのだから。



 俺は続けて、今回の騒動についての罪状を言い渡す。


「ではギルドの使者として沙汰を下す。轍組組長レグラス。お前には監督不行き届きの罰として、組の速やかな再編と、北区の治安強化を命じる。今後同じ事が無いよう、掟の順守を徹底させろ」

「謹んで、承った」


 レグラスは腹を揺らして立ち上がり、深い一礼をもって敬意を表した。



 奴ならば、瓦解した轍組も時をかけずに立て直すだろう。構成員候補は、アドベースにいくらでもいるのだ。


 一掃した幹部の座にギルドの息がかかった者を据えれば、健全化も図れる。

 これで北区は、実質的にギルドの支配下に入ったも同然。


 想定通りに事が納まって、俺は束の間胸を撫で下ろす。



 おっと、まだ一つ片付けるものがあった。


「ああ、それとな。こいつの始末も任せるぜ」


 甘えん坊には、拠り所としていた父親直々に仕置をさせた方が堪えるだろう。


 俺がレグナードを顎で示すと、意図を察したレグラスは背筋を正して首肯した。


「任された。きっちり締め上げてから落とし前を付けよう」

「な!? 親父、正気か!? てめぇ、ヴェリス! 今ので親父を洗脳しやがったな!!」


 呆けていたレグナードが途端に騒ぎ出す。


 どうやら一度場の空気が弛緩した事で、自分は死刑確定だという事を忘れているらしい。


「的外れな事を言うな。これはしっかりわしの意志だぞ」


 レグラスの理知的な目に、強い意志が灯ったのが見て取れた。


「自分のガキを手にかけようってのかよ!? 助けるのが筋じゃねぇのか!!」


 尚も叫ぶレグナードから目を逸らし、レグラスは床に散らばった黒服達を見回した。


「……我が子だからこそ、だ。わしの不甲斐なさと、お前の我が儘のせいで、これだけの部下を死なせてしもうた。そのけじめを、身内でつけんでどうする」


 言いながら、レグラスは足元に落ちていた匕首を拾い上げた。


 べっとりと血に塗れたそれを、取り出した白いハンカチで丁寧に拭うと、強く柄を握り締める。


「マジか、おい……やめろ……やめてくれ親父! 息子が可愛くねぇのかよ!?」


 表情を消し、ゆっくりと歩み寄るレグラスを見て、レグナードがじたばたと暴れ出す。

 しかしフェーレスによる拘束は完璧で、抜け出しようもない。


 照明を反射して光る刃へ目を落とすレグラスへ、俺は別れの挨拶代わりに一言かけた。


「元はこいつのせいとは言え、損な役回りをさせちまったな」

「なぁに。血は流れたが、悪い膿も出せたと思っとるよ。お前を敵に回すよりは余程ましだとも。跡継ぎは、また作れば済む事だしの」


 情より損得勘定を取る辺り、まさしく闇組織の上に立つ人間の思考である。


「そ、そんな……親父、おい、頼む、聞いてくれって……! いきなり監禁したのは謝るよ! 悪かった! でも革命が済んだら解放するつもりだったんだ! 本当だよ、なあ親父、助けてくれよぉ!!」


 レグナードの必死の叫びが虚しく響く。


 やがてレグラスは息子の傍らに腰をかがめると、その右手首を押さえ付けた。


「それじゃ、まずは小指から行くか。わし自ら詰めるのは久々だから、痛くしたらすまんな」


 その声はあくまでも穏やかなままだ。


「や、やめてくれ……やめて……やめて下さい! お願いです! もうこんなことしません、もうしませんから……!!」

「今更言うのも遅いが……ギルドの警告に二度目は無いのだぞ」


 我が子の懇願を受けても、レグラスの目に宿った冷酷な光は揺らがない。


「た、たすけ──」

「恨むなら、今までちゃんと叱らなかったわしを恨め」


 その言葉の直後に、レグナードの絶叫がホールに響き渡った。



 後は見るまでもない。


 俺達はエルニアを回収するべく、親子に背を向けその場を離れた。

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