吐露
「……それだけか?」
呆気に取られた俺は、思わず聞き返していた。
単純馬鹿だとは思っていたが、ここまでだとは。
フェーレスとセレネに至っては、くすくすとあからさまに嘲笑している。
「笑うんじゃねぇ!!」
レグナードが立場も忘れて激高した。
「てめぇらのそういうところが心底むかつくんだよ!! いちいち人を見下しやがって!! 周りの奴らもそうだ! 何かにつけて親父と比べてよ! どいつもこいつも、あの親からなんでこんな奴が、だとかぬかしやがる!! そいつらを見返してやろうと思うのがそんなに悪いか!!」
堰を切ったようにまくしたるレグナード。いつの間にか、その目には涙が溜まっていた。
「悪くはねぇよ。だが、警告したはずだぜ。やるなら掟に触れないようにしろ、とな」
前回企んだ奴隷市場は、成功こそしていれば過去最大級の規模だった。それだけに、ギルドも無視せざるを得なかった訳だが。
「ちっ……! てめぇのような化け物には、これっぽっちもわからねぇだろ。才能が無い奴の気持ちなんてよ! 何かしようにも、金とコネしか俺にはねぇ! このやり方しか俺は知らねぇんだ!!」
レグナードの魂の叫びに感化され、気付けば俺はその肩へとぽんと手を置いていた。
「そうか……その点だけは同情してやる。俺の溢れる才能の一つも分けてやれれば良かったんだが」
「悲しい事件だったわねー。こいつに対抗心持っちゃった時点で負けだし」
「挑戦する志やよし。しかし、目標の選定は肝要なり」
「まず筋トレから始めるのが正解でしたわね」
「生温い目で見るんじゃねぇくそどもがああああああああああああ!!」
口々に慰められ、レグナードはついに大粒の涙を流し始める。
「そこまで思い詰めるまで気付かんとは……わしはつくづく父親失格だな」
いい年をしてぎゃんぎゃんと泣き喚く息子を眺めて肩を落とすレグラスへ、俺は構わず話を振った。
「さて、確認するぞ。今回の件は完全にレグナードの独断。俺への襲撃やギルドへの反抗にも、お前は一切関与していない。そうだな?」
俺が問いかけると、レグラスはだぶついた顎に皺を作りながら頷いた。
「おうとも。わしの望みは北区の平和と繁栄。お前達やギルドとは、今後も良い付き合いを願いたい」
「念の為だが、嘘はねぇな?」
「商売絡みで嘘をつく程ボケとらんわい。ささっと例のブツで支配してくれて構わんぞ。それで信頼を得られるなら安いものだ」
「……ふん、こいつの事は一応秘密にしてあるんだがな。これだから油断ならねぇ」
俺は苦笑しながら、懐から支配の王印を取り出した。




