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侵入

 東方風の絢爛な装飾が施された事務所内は、足の踏み場もない程に死骸が散乱していた。


 天井から壁まで血飛沫に塗れ、絨毯などは既に元の色が判別できない程である。

 尋常な者ならば、一目で卒倒しかねない惨状だ。


「フェーレスさん、案内を」

「はいよー。こっちこっち~」


 フェーレスの先導で、紅染めのロビーをいそいそと通り抜けていく。


 上の階からはひたすらに戦闘音が響いている。

 軽い地震にも似た揺れが不定期に襲い、ぱらぱらと塵が舞い落ちた。


 少し急がねば、事を片付ける前に建物が倒壊してしまいそうだ。


 無言のままに入り組んだ通路をしばらく進むと、突き当りに大きなドアが見えて来た。


 そこが目的の倉庫なのだろう。

 振り返ったフェーレスの視線がそれを示している。


 合図を受けたアンバーが進み出て、かかっていた鍵もお構いなしにドアをこじ開けた。


 その直後、ガチン、と硬い音が鳴る。


 ドアが開くのを見計らったように、飛び出してきた黒服がアンバーに斬りかかったのだ。


 しかし黒銀の鎧は呆気なくその攻撃を弾き、直後に襲撃者の頭は唸る鉄拳によって打ち砕かれていた。


「せっかくエルニアさんから逃れたのに、運が無い人達ですね。よりによって、ここへ隠れるとは」


 死体を避けながら倉庫内に入って見渡すと、ずらりと置かれた荷物の陰に、いくつか息を潜める気配が感じられたのだ。


 俺の言葉はその腰抜けどもへ向けたものだった。


「──こ、降参だ! 俺達は降参する!! だから命だけは!」


 一人の男が代表とばかりに、棚の裏から飛び出し両手を上げた。

 すると残りの者も同様に、そろそろと姿を晒す。


 見れば、白スーツと一緒にいた舎弟二人だった。


「お、俺達は若頭に言われて動いただけなんだ!」

「そ、そうだ! 始めは止めたんだぜ! だけど押し切られちまって……」

「誰が何と言おうが掟は絶対です。警告を聞かなかった者に慈悲はありません」


 悲鳴を上げる隙もあらばこそ。


 俺が言うが早いか、それぞれ一人ずつ、フェーレスが細断し、アンバーが粉砕し、セレネが穿っていった。


「命乞いをするくらいなら、初めから喧嘩なんか売らない事ですよ」


 巻き添えになった荷物の残骸と同化した肉塊を冷たく見下ろし、俺はきっぱりと言い捨てた。


 例外を一つでも作れば見せしめにならない。

 ギルドの支配を盤石とする為、ひいてはアドベースの治安の為ならば、手段を選ばないと俺は誓ったのだ。


「ヒューヒュー! クールなヴァイスきゅんも、とってもよきかなよきかな!」

「いいからさっさと仕事する」


 すかさず抱き着こうとするフェーレスへも、同じトーンの声をぶつけて拒絶する。


「おぅふ……マジモードで冷たくされるのって、なんか癖になりそう」


 フェーレスは空恐ろしい事を言いながら、荷物が乱雑に置かれた戸棚の一角へと歩み寄った。


 次いでガシャガシャと荷物を取り払うと、姿を見せたレンガ造りの壁の内、一ヵ所を深く押し込んだ。


 すると、ガコン、という重い音が鳴り響き、壁が徐々に横方向へスライドしていく。


「んっふっふ。轍組幹部の中でも一部しか知らない、秘密のVIPルームへようこそ~、ってね」


 にまりとしたフェーレスが顎で示す先には、魔術の明かりが揺らめく下り階段が口を開けていた。


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