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巣窟

 エルニアの名を観衆が連呼している。


 滝のように降る声援までも切り裂くようなエルニアの乱舞を横目に、俺は仮面の視野拡大を通して観衆の表情をつぶさに観察していた。


 ギルドの統治に好意的な者は、皆一様に顔が明るい。


 対して、やましい感情を隠せない正直者も中には混じっている。

 それらは苦々しい顔で大人しく拍手に加わっているか、さりげない風を装ってこの場を離れて行った。


 俺はその面をしっかりと目に焼き付けていく。


 後はギルドで身元を照合し、要注意人物として監視リストに載せれば良い。その後は警備隊の仕事である。


 この派手な演目は、そういった不穏分子を炙り出す意図も含んでいたのだ。


 一際大きな歓声が上がり、目を正面へ戻すと、白スーツが背中から両断されたところだった。

 逃げ出そうとしたものの、壁にした黒服ごと薙ぎ払われたらしい。


 すると一転、黒服部隊の動きが変わる。


 潮が引くように通りの奥へ、あるいは路地裏へ、ばらけながら後退を始めた。


 指揮官が死んだ事で、指令系統が切り替わったのだ。


 本拠地に集結して、籠城を決め込む腹だろう。


 殿(しんがり)を削りながら直進するエルニアを、俺達も距離を取りつつ追いかけた。


 果たしてそこは、北区の中央広場。

 その中心には一際大きな建物がどっしりと門を構えている。


 黒服達が吸い込まれるようにして逃げ込んだこの建物こそが、轍組の本部なのだ。


 エルニアが黒服を追い立てながら突入していった後、人影が二つゆらりと虚空から姿を現す。


「──いやー、エルにゃん張り切ってるわねー。感心感心」

「ヴァイス様。盛り立て役、お疲れ様ですわ」


 お気楽に笑うフェーレスと、一礼するセレネが、到着した俺達を出迎えた。


「進捗は?」

「予定の通りに。既に標的は袋の鼠。駆除も時間の問題でしょう」


 端的に問う俺へ、セレネが嘲笑混じりに報告する。



 俺とエルニアが注目を集めている間に、二人には怪しい動きをする者をマークさせていたのだ。


 宣告を開始した時点で北区はセレネの結界で包囲をしており、標的であるレグナードの逃げ場はなくなった。


 そしてどこへ隠れようと、フェーレスの追跡からは逃れられない。


 切り札の黒服部隊も無能な指揮官のせいで早々に瓦解した今、追い詰められた奴にできるのは、己の城である事務所に立て籠る事だけだ。



 報告を聞いている間にも、事務所の上の階から窓を突き破って、人だったものが血の雨と共に降って来た。


 中からは黒服以外の構成員達の悲鳴が絶え間なく聞こえている。

 魔術での応戦も始まったのだろう。多数の爆発が次々と巻き起こった。


 エルニアが順調に地獄を作り出しているようだ。


「さて。エルニアさんが全滅させてしまう前に、僕達はもう一仕事といきましょう」


 正門の両脇に掲げられた、轍の紋が刺繍された旗が一瞬目に入る。


 出産祝いと称し、レグラスと飲み明かした遠い夜が脳裏を掠めたが、俺はそれを振り払うようにして、3人を伴い門を潜った。


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