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獲物

 

 今回の襲撃を予期し、フェーレスには密かに俺の警護を任せていた。



 ヴェリスの甥・ヴァイスという存在は、今や反ギルド勢力にとって恰好の獲物である。


 殺せばギルドとSSランクの双方の名に傷を付けられ、誘拐すれば何かと交渉で優位に立てるだろう。


 ……などと考える連中の油断を誘い、おびき寄せる事。


 それが俺の単独行動の目的だったのだ。


 もちろん、少しでも頭が回る者なら、こんな見え透いた罠にかかりはしない。


 が、欲に目が眩んで先走る奴は、どこにでも一定数いるものだ。


 今日の収穫がそれを証明している。


 俺は捕らえた獲物どもを見下ろし、悦に浸りながら指示を出した。


「よし。残党がいないならここに用はありません。セレネさん、撤収を」


 そして転移の発動を待つ。




 ………………………………遅い。




「……セレネさん?」


 不審に思った俺が顔を向けると、セレネは真っ直ぐに俺を見詰めていた。


「……ふと、思ったのですけれど」

「……何をですか?」


 声のトーンから、どうせろくでもない事だろうと勘が知らせている。


 距離を取ろうとした俺の腰を、一瞬早くセレネの尻尾が捉えていた。


「──ぬあああ、何を!?」

「せっかくのお膳立てですし、有効活用してみたらいかがかと」


 セレネは静まり返った路地裏をうっとりと眺め回している。


「見た所、この者の施した眠りの効果はまだしばらく続く様子。そして、私の結界も健在。これならば、周囲を気にせず……月明かりの下で、存分に交われますわ。とっても素敵だとは思いませんこと?」

「……つまりは青姦じゃねぇか! ちったぁ時と場合を考えろ!!」


 最後まで聞いた俺が馬鹿だった!!


 セレネの言葉を反芻した俺は、気付けば地で叫び返していた。


「セレネ、あんた……!」


 それに呼応するように、フェーレスが弾かれたように身を起こし、セレネを睨み付けながらにじり寄る。


 よし! こいつはまだまともか……!?


「いいぞフェーレス! この馬鹿をさっさと止め……」

「──よくもまぁ、そんな大胆な事思い付くわね! ちょっとだけ尊敬しちゃったじゃない!」


 俺の救援要請は届かず、フェーレスはあっさりセレネと手を組んだ。


 結局、こいつらにとっては俺も獲物の一つに過ぎなかった……!


「ささ。そういう事ですので、観念して下さいませ」

「今回のお駄賃、これで手打ちにしとくからさ~」

「こんの万年発情期どもがあああぁぁ~!!」


 セレネに捕まってしまった以上、最早抵抗は無意味だ。


 すぐさま服を引ん剝かれ、押し倒された俺の絶叫だけが、静まり返った街中を駆けて抜けて行った。




ここまでご覧頂きありがとうございます。



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