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誤算

 ちぃ、暗殺が主目的だったか!


「うわっとぉ!?」


 読みを外した俺は声を上げ、咄嗟に両手で身を庇い──そのまま数秒が経過した。


「……なーんちゃって、ね」


 仮面の裏でにやりとつつ、すっと姿勢を戻して腕を開いてみせた。


 二人の黒子は、俺へ切っ先を向けた姿勢のままで固まっている。


 その様は糸で釣られた人形の如くだ。


「──はーい、残念でした~」


 そんなお気楽な声と共に、どこからともなくフェーレスが降って湧いた。


 刺客の意識が攻撃に移った一瞬を見定め、二人まとめて鋼糸で絡め取ったのだ。


 切れ味鋭い鋼糸をも、加減一つで捕獲用に扱ってしまう。フェーレスの底が見えない器用さには、正直脱帽するしかない。

 褒めればつけあがるので、間違っても口にはしないが。


「美少年在るところにあたし在り! お姉さんの目を盗んで手を出そうなんて、10億年早いってのよ!」


 せせら笑う増援の登場に、黒子達はフードの奥から動揺を洩らした。


「フェーレスさん、助けるのが遅いですよ。ちょっと冷やりとしたじゃないですか」

「んふふ~、焦らした方があたしのありがたみが分かると思ってね?」


 俺の文句にウィンクを一つ寄越すと、フェーレスは黒子達に当て身を食らわせた。


「ほい、いっちょ上がり。いやー、ヴァイスきゅんも迫真の演技でしたな~」


 そして気絶した二人を背中合わせに縛り直すと、にたりと意地の悪い笑みを作る。


「はいはい、どうも。そちらも二重尾行お疲れ様でした。他に仲間は?」

「見張りが1人逃げたけど、セレネの結界に捕まってる頃よ」


 そうやり取りする間にも、すぐ側へセレネが転移を果たした。


 尻尾で抱えていた黒子を路面へ転がすと、これ見よがしに溜め息をついて見せる。


「ふぅ……SSランクの身内を相手に、たった3人しか用意しないだなんて。随分と舐められたものですわね」

「つまり、世間ではそういう認識だって事ですよ。少しは反省して下さいね?」


 棘を含んだ俺の言葉に、二人は揃ってそっぽを向いた。


 まったく。

 元はこいつらが腑抜けてなければ、こんな手間をかけずに済んだものを。


「……まあいいです。セレネさん、報告を」


 仮面の裏で息を吐き、俺はセレネを促すした。


「ええ。私の張った結界内で、行動をする者はもうおりませんわ。予め、この者が住民達を魔術で眠らせていたようです」


 セレネが連行した黒子を見下ろす。


「検分役に魔術師を使うとは。なかなか手が込んでますね」

「失敗の報せを届けようとしたのでしょうが、私の結界を破れずにおろおろするばかり……実に滑稽でしたわ」

「んっふっふ。仕込みの段階でばればれだったしね。ご愁傷様~」


 フェーレスがセレネと笑い合いながら、黒子のフードをつま先でめくっていった。


「Sランクの魔術師ラドリー。んでこっちは……双子の仕事屋ディオスとフィエス。ふふん。少数精鋭で来たつもりなんだろうけどさ」


 全員の顔を確認したフェーレスは、得意気に破顔する。


「ヴァイスきゅんを見張るすぐ後ろにずっとあたしが張り付いてたなんて、夢にも思わなかったでしょーね」


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