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死神プロデュース

「──ここは一体……どこなのでしょう……?」


 顔中に不安を湛えたエルニアが、周囲を見回しながら呟いた。



 俺達は今、見渡す限りの荒野のど真ん中に立っている。



 朝食を終えて身支度を整えさせると、有無を言わせず転移してきたのだ。


「俺達が、普段訓練場として使ってる場所だ」


 俺はエルニアに応えてやりながら、改めてその恰好を見回した。


 エルニアはフェーレスの貸衣装から、首から下の全身をぴたりと覆う黒いレザースーツへと着替えていた。

 急所を黒鉄の板や鋲で補強しており、見た目よりも頑丈で機能性の高い全身鎧だ。


 エルニアの革鎧は服ともども使い物にならなくなっていたので、俺の所蔵品から使えそうな物を選んで貸し与えたのだ。


「どうやらサイズは合ったようだな」

「はい。とても良い着心地です。何より露出が無いのが素晴らしいと思います」


 身体の動きを確認しながら、エルニアがようやく笑顔を見せた。余程肌を晒すのに抵抗があったらしい。


「それで、そろそろ諸々の説明をして頂きたいのですが」


 そう聞いて来るエルニアは、両手で大鎌を抱えるようにして握り締めている。


 気が急くあまりに、何の説明もせずにここまで至っていたのだった。


「お前も元聖堂騎士なら、長柄武器(ポールウェポン)の訓練も当然受けただろう。それなりには使えるな?」


 俺の問いに、エルニアはこくりと軽く頷いた。


 聖堂騎士の任務は多岐に渡り、それらに対応する為に訓練内容も様々である。


 どんな状況にも対応するべく、複数種類の武器の習熟を義務化されているのだ。

 その中には槍や大鎚等の長柄武器も含まれる。コツさえ掴めば、大鎌にもすぐ慣れるだろう。


「その鎌はリッチが持ってたものだ。俺の攻撃を受けても折れなかった超逸品だぜ。それならお前がデタラメに振り回しても壊れやしねぇ。見た目のインパクトも絶大だしな」


 煌めく美貌と対照的な、光を呑む黒衣と漆黒の大鎌。そこにあの弾けた狂気が加われば、処刑人のイメージとしては文句なしだ。


「しかしまあ、いきなり実戦で使えと言うのも無理があるだろう。そこでだ。俺達がお前のデビューのお膳立てをしてる間、ここでじっくり修行してろ」

「もしや、稽古を付けて頂けるのですか?」


 修行と言う単語に反応し、エルニアの目が輝き出す。


「生ける伝説と(うた)われる英雄殿に御指南頂けるとは、なんと光栄な……」

「何も俺が相手をするとは言ってねぇぞ。大体この(なり)だ。今のお前の相手は務まらん」


 勝手に盛り上がるエルニアに水を差すように、俺はそっけなく言った。


「ああ、残念です……それでは誰が……?」


 この場には俺とエルニアの他に、アンバーとセレネが控えていた。

 二人の内で大型武器の心得があるのはアンバーだけである。


 自然と、エルニアの視線がそちらへ向かう。


「それなりの指南と監督は致しますが、実際の相手は拙僧ではありませぬ」


 アンバーはそう答えると、兜の正面を俺へと合わせた。


 俺はそれを受けて一つ頷く。


 するとアンバーは腰に吊るしていたメイスを手に取り、俺達から少し離れた場所の地面へと鋭く振り下ろした。


 ドガシャアアアッ!!


 アンバーの一撃が大地を大きく抉り、その衝撃が周囲に広がっていった。


「一体、何を?」


 予想外の行動に、エルニアは咄嗟に身構えていた。

 鎌を握る型はなかなかに堂に入っている。

 そうこなくては。


 俺は薄く笑みを浮かべながら言ってやる。


「エルニア。騎士団の試験は地獄だなんだとよく言われるが、俺にしてみれば、あんなもんは序の口だ。所詮Sランク程度の児戯に過ぎん。それをまずは教えてやる」


 バサリ……バサリ……


 何かが風を切るような音が、俺の言葉に重なるように響いて来る。


「強くなるには、未知の敵や、死にそうな目に遭って、それを乗り越えるのが一番手っ取り早い。つまりはお前が潜った事の無い、SSランクの死線を見せてやろうってんだ」


 バサリ……バサリ……


 俺が喋っている間にも、風切り音は大きくなっていく。


「こ、この音は……?」


 エルニアが構えたままで天を仰ぎ見る。


 羽音は遥か上空から近寄ってきているのだ。



 バシンッ!!


 一際大きな音を打ち鳴らし、衝撃波が上空の雲を吹き払った時。


 空には、巨大な影が浮かんでいた。


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