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人生の寄り道

「あっはっはっは! せっかくいいシーンっぽかったのに台無しね~」


 羞恥に顔を真っ赤に染めるエルニアの肩をぽんぽんと叩いてフェーレスが笑う。


「……そう言えばこいつ、腹を空かせて気絶したんだったな」


 話がまとまって緊張が切れ、胃袋が限界を訴えたのだろう。


「アンバー。何か適当に食わせてやれ」

「承知。ではエルニア殿、こちらへ」

「お手数をおかけします……」


 俺の声を受けたアンバーがエルニアに手を貸し、抱えるようにしてダイニングへ連れて行く。


「んじゃー、あたしは服でも見繕ってあげよっかな。エルにゃんの服はボロボロになっちゃったしね」


 そう言いながら、フェーレスがその後を追った。

 奴の選んだ服など見たら、エルニアは悲鳴をあげるのではないだろうか。


 3人が風呂場を後にするのを見送り、俺はその場を動かずにいたセレネへ顔を向けた。


 それを待っていたように、セレネの口が開かれる。


「……本当に、あのような者を迎えて宜しいのですか?」

「不満か」

「ええ……正直に申せば」


 問いに問いで返すと、苦々しく息を吐くセレネ。


 元々馴れ合いは好まない奴だ。せっかく4人で馴染んできたところに異物が入ってきたのを快く思っていないのだろう。


「私達だけでも事足りると判明した以上は、危険分子などさっさと処分して、本来の目的へ集中するべきではなくて?」

「正論だな」


 それを聞き、俺は同意しつつ目を閉じた。


 どう説得したものか。しばし考える。


 嘘で丸め込むのは容易い。

 が、ことパーティメンバーに関しては真摯であるべきだ。

 俺はそう判断し、本心で臨む事にした。


「……俺はな、()()()()()の方が面白そうだと思うんだよ」


 片目を開いて視線を送ると、セレネは再び嘆息する。


「まあ聞け。考えてみれば今の俺は、二度目の人生なんていう、誰もした事がないだろうレアな体験の真っ最中な訳だ。エルニアとも、これがなきゃ縁がなかったかも知れん。どうせならまとめて楽しんでいきたいじゃねぇか」


 陽気に言って見せる俺へ、呆れた顔を見せるセレネ。


「殺されかけたのに、よくそんな事が言えますわね……」

「何があろうが、お前らがちゃんと守ってくれると信じてるからな」


 俺がにっこりと、しかし意地悪く微笑んで見せると、セレネはふいと目を逸らした。その頬へ薄く朱が射すのが見える。


「本当に、人を乗せるのがお上手ですこと。詐欺師の方がよっぽど向いていますわよ」

「はっ、照れるな照れるな。お前らの実力が上がった事は本気で認めてんだ」


 誤魔化すように悪態をつくセレネに笑いかける。


「今のお前らなら、元の俺の力の4分の1は余裕で超えてるだろう。そこに鍛えたエルニアを加えて、4人がかりでかかって来れば、なかなか面白い喧嘩ができそうじゃねぇか。元に戻った時の楽しみが増えたってもんだ」

「相変わらず前向きに過ぎると言うか……まだ戻れるかもわからないというのに、もうそんな皮算用ですか。うふふ」


 俺の笑みに釣られたように、セレネの表情にも控えめな花が咲いた。


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