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尋問

「──ぴゃあああ!?」


 ばしゃりと頭から水をかけられたエルニアが、悲鳴と共に上半身を揺らした。


「……あれ、動けない。私はどうしたんだっけ……?」


 エルニアは状況が呑み込めていない様子で、壁にもたれたまま目の前の俺達を呆然と眺めている。


「まだ寝惚けてやがるな。アンバー、もう2、3回ぶっかけてやれ」

「承知」


 アンバーは頷き、風呂釜に貯めた水をバケツでざばりと掬い、それを再びエルニアの頭上でひっくり返した。


「あばば!? ちょ、おぶふ……何!? 何ですか!?」


 相次いで襲う水流に困惑しながら、エルニアは叫ぶ。


 水責めが終わった頃に、ようやくエルニアの目は焦点を取り戻していた。


「もう! 何なんですか一体! ……あ、あれ。これは皆さんお揃いで……あの、ここは……? 私は一体?」


 濡れた髪と疑問符を張り付けた顔で、目前に居並ぶ俺達を改めて見回す。


「あのう、何故私は縛られているのでしょうか……?」


 おずおずと切り出すエルニアの身体はロープで完全に拘束されている。


 今は遺跡から戻り、一息ついた後、風呂場に放置していたエルニアの尋問を始めるところだった。


「──っと言うか服! 何で裸なんですか!? 本当に何なんですかこの状況!」

「うるせぇ、聞きたいのはこっちだ阿呆が!! 護衛対象に斬りかかった挙句に放置して突っ走るなんざ何考えてやがる!!」


 狼狽えて喚き散らすのへ向けて逆に怒鳴り返すと、エルニアはビクリと震えて一旦口を閉じた。


「……あ、あの、ヴァイスさん? その、口調が……」

「んなこたぁ今はどうでもいいんだよ!! まずはてめぇの話だ!」


 エルニアの言を遮り、その体にびしりと指を突きつける。


「裸なのは血みどろできったねぇ身体を洗ってやったからだ。縛ってんのはまた暴走してもいいようにだ。何か文句があるか?」

「え、ええと……何かいやらしい目的だとかは……」

「てめぇみたいな危険物、誰が抱くか!! そもそも暴走したって自覚はあんのか!?」


 ぼそりと間抜けな事を漏らすエルニアに俺は詰め寄り、その眉間へ指をぐりぐり押し付けた。


「ちょ、何気に痛い痛い! ツボに入ってる! やめて下さい! それにさっきから暴走暴走って何の事ですか!?」


 エルニアがそう言い返すが、薄々そんな予感がしていた俺は溜め息を付くしかなかった。


「少し時間をやる。落ち着いて思い出せ。遺跡に入って以降の事を、完全に何も覚えてねぇのか?」

「……ええと……」


 責めから解放されたエルニアは、深呼吸をしながら思考の海へ浸り始める。


 すると、その表情が徐々に青いものへと染まっていく。


「……あわわわ……またやってしまった……」

「ふん。完全に記憶が飛ぶタイプじゃねぇようだな。多重人格じゃないならまだマシか」


 がっくりと肩を落とすエルニアを見下ろし、俺は腕を組んで鼻を鳴らした。


「で、どこまで覚えてる」

「……その……ほぼ全部、だと思います……」


 死刑宣告でも受けるような怯えようで俺を見上げるエルニア。

 遺跡での吹っ切れぶりが嘘のように見える。


「やはり……解雇、でしょうか……? それとも、死んでお詫びを……」

「お前次第だ」


 俺はエルニアの弱気を斬り捨てるようにすっぱりと言い放った。


「え……?」


 戸惑いを隠せないエルニアに、フェーレスが風呂釜から手の平で掬った水を軽く浴びせかける。


「わぷ!」

「ぼーっとしてんじゃないわよ。いい? エルにゃん。あんたを殺すなんていつでも出来た訳。なのに何でわざわざ生かして連れ帰ったと思う?」


 呆気に取られるエルニアへフェーレスはにやっと笑いかけ、俺の隣へ戻り肩に肘を乗せてくる。


「今から最終選考(オーディション)するってさ。死にたいなら止めないけど、あたしらの本当の仲間になるチャンスよ。受けてからでも良いんじゃない?」

「左様。貴殿は今や岐路にあり。死して負け犬と散るか、我等と共に歩む意志を見せるか、二つに一つ」

「私はどうでもよいのですけど。さっさと終わらせて頂けると助かりますわ~」


 それぞれが言い終えた後、俺はエルニアの目を真っ直ぐ見据えてもう一度告げた。


「お前が聖堂騎士団を追放された理由を洗いざらい話せ。それを聞いてから処遇を決める」


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