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不屈の闘志

 覆水が盆に……()()


 しゅるしゅると糸を巻き取るが如く、エルニアのばら撒かれた血肉が肩の下へと集結していく。


 こいつは神官の力を兼ねる元聖堂騎士である。自己治癒の奇跡を起こしても何ら不思議はない。


 しかし腕の欠損を修復する奇跡など、アンバー級の信心があって初めて成立するものだ。

 試験の際にエルニアは、アンバーのもたらした御業に驚愕をしていた。その事から、神官としてはそこまでの力量は無いものと判断していたのだが。

 まさか、あれは演技だったとでも言うのか?


 そのように俺が唖然としている間にも、エルニアの腕の再生は進む。


「──こんの……さっさと落ちろってーの!!」


 エルニアの首へ腕を回していたフェーレスが我に返ると、改めて裸絞めを敢行する。


 しかし気を取られた隙にエルニアは顎を下げており、頸動脈をガードされてしまった。

 そして、


「ふっ!」


 エルニアは鋭い呼気を吐くと共に上半身を勢いよく前傾させ、背後のフェーレスを前方へ投げ出したではないか。


「あぁ、もう!」


 床に叩き付けられるのを嫌い、フェーレスは舌打ちしながら絞めを解いて宙を舞うと、俺の近くへと降り立った。


「エルニア! 死にたくなきゃ抵抗するな!」


 思わず俺は地で叫ぶが、全く届いていないようだ。


「ふふふ……ふふふふ」


 笑いながら落ちた剣を蹴り上げると、その口に咥えて見せた。あくまで徹底抗戦のつもりらしい。

 それはそうか。あっさりと自殺未遂をして見せた奴だ。死など怖くもないのだろう。


「──どーすんのよアレ。そろそろ手加減すんのも面倒なんだけど」


 苛立ちを通り越し、背筋が凍りそうな程の平坦な声を寄越して来るフェーレス。

 不味いな。これは本気で切れる寸前だ。


「……足だ。セレネも行け。多少壊しても構わねぇ、とにかく動きを止めろ!」


 この面子が揃っていて、ひよっこ一匹を生け捕りに出来なかったと知れれば、グレイラに何と嫌味を言われるか分かったものではない。


「は~あ……良い? あんたの頼みだから付き合ってやってんだからね。本当ならもうぶっ殺してるとこをさ」

「私に肉体労働をさせるからには、対価は高く付きますわよ?」

「ごちゃごちゃ言うのはとっ捕まえてからにしろ! 早くしねぇと腕が治る!」


 俺はアンバーからひらりと飛び降りると、ぶつくさ文句を垂れる二人に発破をかけつつ、並んだ二人の尻を盛大に引っぱたいて送り出した。


「おぅふ! ん~、効くわこれ~!」

「ええ、これはこれで……」


 一応やる気は注入できたらしい。二人が揃って足を踏み出す。


「アンバー、もう落ち着いてるな? 動きを止めたらお前の出番だぞ」

「……はっ、承知」


 背後のアンバーへも声をかけると、若干名残惜しむような雰囲気を纏わせた返事があった。


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