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狂戦士

「……ちょっとエルにゃん。これは洒落になってないわよ?」


 俺の襟首を掴んだフェーレスが、怒気を孕んだ声をエルニアに向ける。


 今にしてようやく理解したが、エルニアが俺へ向けて横薙ぎの一閃を放ったのだ。


 フェーレスの機転と仮面が無ければ、俺の自慢の貌は半分になっていただろう。

 その事実を受け入れた途端、俺の全身をぞくりと戦慄が駆け抜けた。


「……申し開きがあるならば聞きましょう。それとも問答無用で宜しいか?」


 同じく剣呑な空気を纏ったアンバーが俺の前へ立つ。


「皆さん……ご注意あそばせ。その方、私の呪縛を弾きましたわ」

「何……!?」


 既に麻痺の視線を送ったのだろう、セレネの苦々しい言葉を受け、俺は思わず目を(みは)った。


 リッチの耐性すら貫いたセレネの魔術に抵抗しただと……!?


 試験ではあっさりとかかっていたはずだが、どういう事なのか。


「ふふふ……ふふふふ……」


 こちらが動揺する間に、エルニアが不気味な笑い声を漏らし始める。

 いつの間にか、水晶のように澄んでいた青い瞳の中央に、燃えるような紅い光が一点ずつ灯っていた。


「ちっ、喧嘩ってんなら買うわよ? 10割引きでね!」


 ザシュッ!


 フェーレスが鎌鼬を飛ばすも、床に浅い傷を付けただけに終わった。


 咄嗟に大きく飛び退いて逃れたエルニアは、あっという間にセレネの光源の範囲からも抜け、松明を振り回すかのように紅い軌跡を描きながら大回廊の闇の中へと溶けて行く。


 そして既に遺跡の奥から殺到していた異形どもに嬉々としてと襲い掛かる。


「ふふふふ……あははははは!!」


 まさに豪剣乱舞。


 瞬時にその場にいた群れを滅多切りにして全て肉塊へ変えると、哄笑を上げながら大回廊を駆け始めた。


「あははははは!! 死ね死ね死ねぇっ!! あ~っはははははあ!!」


 その姿は暗視を通した俺の視界からも薄れ、闇の奥深くへと消え去った。

 先々にいる者を斬って捨てているのだろう、異形どもの絶叫が鳴り響いている。


「ちょっと、何なのあいつ! ねぇヴァイスきゅん、処す? 処す?」

「あ? ああ、待て待て! 今はそれどころじゃねぇ!」


 眉を吊り上げて尋ね来るフェーレスへ、俺は呆けていた頭を回転させながら言い返す。


「とりあえず追うぞ! 真意はわからんが、道を拓いているのは確かだ。今の内に突っ走らねぇとすぐ囲まれるぞ!!」


 もう猫を被っている余裕も無い。

 俺は地を丸出しにして叫ぶと、前にいたアンバーの背負うリュックの上へひらりと飛び乗った。


「ふぉっ!? ヴァイス殿、何を!?」

「うるせぇ、緊急事態だ! 黙って走れ!」

「ふ……ふぉおおおおお!!」


 俺が兜にしがみついてその天辺をべしべしと叩いてやると、アンバーは身を震わせて奇声を上げ、猛然と発進した。


「おら、てめぇらもダッシュだ!! 絶対はぐれるんじゃねぇぞ!!」

「うぇーい!」

「畏まりですわ~」


 それぞれが返事をするのを聞き届けると、俺は目線を彼方へと集中させた。


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