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自信作

 今回の探索に挑むにあたって、俺は錬金術の研究も兼ねて、いくつかの道具や装備を作成した。


 その内の一つがこの仮面だ。


 俺は手にしたそれを装着すると、頭からマントのフードをすっぽりと被った。


「叔父さんからのプレゼントです。どうです、似合いますか?」


 両手を広げながら、俺はアンバーにその姿を披露して見せる。


「ほほう、仮面でしたか。まるで暗殺者のような出で立ちですが、様になっておりますな。しかし、目までも覆ってしまうとは」


 仮面の見た目は表がつるりと何もない、完全なのっぺらぼうで、顔全体が隠れるようになっている。


「ふふ、ちゃんと裏からは外が見えるよう細工してありますよ」


 俺はアンバーの脇を危なげなく通り抜け、それを証明して見せた。


「アダマンタイトを成形したものに、ヒュージカメレオンの外皮から抽出した透明化のエキスを内側に塗り込んであるんです。ついでにヴァンパイアの目玉から暗視能力も移植した優れものですよ。真っ暗な遺跡の中では打って付けでしょう?」


 俺やフェーレスも夜目は利く方だが、遺跡の深い闇の奥までは見通せなかった。それに対して用意した物で、内側の加工はマントの透明化から着想を得たのだ。


 他にも視野拡大や酸素生成など、貯め込んでいた素材と金に物を言わせ、出来る限りの能力を詰め込んだ自信作である。

 しかしここで全てを説明するには時間が足りない。また折を見て語る事としよう。


「それはそれは。しかしそれでは重くはありませんかな?」

「うふふ、心配ご無用ですわ~。私が軽量化の術式を刻みましたので。羽毛の如き仕上がりでしてよ」


 アンバーの疑問に、最後尾を歩いていたセレネが得意げに応えた。


 今の俺の腕では軽量化までは出来ず、止む無くセレネに依頼したのだ。

 錬金術と魔術の共生ができるかどうかの実験も兼ねていたが、なかなかに上手くいった。


「……セレネさん、それはバラさないと叔父さんと約束してたでしょう?」


 俺が仮面越しに睨んでも、今は表情が見えない状態だ。セレネは余裕の笑みのままで高笑いを始める。


「おほほ、御免あそばせ。せっかくのヴェリス様との共同作業ですもの。つい自慢したくなってしまって」

「──ちょっとセレネ、どーゆー事よ? また抜け駆けしてた訳?」


 遺跡の扉に向かっていたフェーレスが何かを察したのか、瞬時に取って返し、セレネへと詰め寄った。

 流石の地獄耳である。


「ふっ、人聞きが悪いですわよフェーレスさん。魔術付与の対価として、ほんの少しご褒美を頂いただけの事。文句を言われる筋合いはありませんわ~」


ぺろり、と見せ付けるように唇を舐めるセレネに、フェーレスが食って掛かる。


「きぃ~! ずるいずるい! 何であたしも呼んでくれないのよ!」

「あらあら、魔術の分野で粗野な貴女に出来る事がありまして?」

「ぐぬぬ、言わせとけばこのビッチ……!」

「お互い様、ですわよねぇ?」


 額を突き合わせるようにして睨み合い、火花を散らす二人。


 こうなるだろうと見越して、取引した件を口止めしたのだが、予想通りの展開になってしまった。


「……あの……お二人は仲がよろしくないのですか?」


 困惑したエルニアが、アンバー質問するのが聞こえて来る。


「いいえ。これも常の事にて。()れ合いの範疇ですぞ」

「そ、そうなのですか……? その割には殺気が半端ではないような……」


 そんな会話を他所に、醜い言い争いをしていたフェーレスが、不意に俺へと指を突き付けた。


「大体何で仮面なのよ! 暗視なら眼鏡とかでも良いじゃん! これじゃせっかくの可愛いお顔が見えないし!」


 その一言に、エルニアが背筋をピンと伸ばして反応する。


「──はっ! そ、そうです! これは由々しき事態かと! フェーレスさんに深く同意致します!」

「私の知った事ではありませんわ~。もう出来上がっていた仮面に術を施しただけですもの」


 小児愛好家二人の抗議を受けても、俺の筋肉にしか興味が無いセレネは素っ気なく返した。


「その余裕な面がむかつくわ~……ひっぱたいてやろうかしら……!」


 フェーレスが尚も言いがかりを付けようとする所へ、俺は割り込んだ。


「……そこまでです。お二人がそんな有様だから仮面にしたんですよ」

「へ?」


 そんな言葉にきょとんとした視線を交わすフェーレスとエルニア。


「探索中、僕の顔に見惚れてうっかりミスでもされたら敵いませんからね。少しの間我慢して下さい」

「お姉さん超ショック……」

「残念です……」


 二人してがっくりと肩を落とすのへ、俺は溜め息混じりに言葉を追加する。


「無事に探索を終えた後なら好きなだけ見て良いですから。今は集中して下さいね」

「っしゃああああ!! 気合入れなさいよエルにゃん!」

「はい! 頑張りましょう!!」


 歓喜に沸いたフェーレスとエルニアは、気勢を上げながら互いの腕をがしりと交差させた。


 SSランク相当の遺跡に挑むというのに、この緊張感の無さ……

 それでこそ頼り甲斐がある、と思っておこうか。


「……はいはい、やる気が出たなら結構です。この件はもう良いですね。最終ミーティングを始めますよ」


 パンパンと手を打ち鳴らすと、気を入れ替えた4人が俺の前へと立ち並んだ。


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