表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】転落しても追放されずに済んだが、パーティメンバーがヤベー奴ばかりだと気付いた件  作者: スズヤ ケイ
三章 フル装備、最強メンバーから始める冒険者再デビュー
34/94

いいから付き合え

「……それで、なんで家の庭な訳?」


 家を出てすぐ目の前の広い庭へと連れて来ると、早速不満気なフェーレスの視線が飛んできた。


「しかもちゃっかりアンバーもいるし。二人っきりのデートじゃなかったの?」


 離れた場所で遠慮がちに佇んでいるアンバーへもじろりと一瞥(いちべつ)をくれると、再び俺へと目を戻す。


「デートとは一言も言ってねぇ。アンバーはまぁ、ただの成り行きだ」


 玄関のドアを開けると、正面に土下座をしているアンバーの姿があったのだ。どうやら意識を取り戻してから一晩ずっと居たらしい。


 俺を見た途端に見苦しく謝罪の言葉をまくし立てて来るのを制し、問答無用で同行させたのだ。


「……勇者殿の許しを得るまで敷居を跨ぐまいと待機しておりましたが、邪魔であれば何処へなりとも消えまする……」


 フェーレスに気を遣ってか、そんな事をほざくアンバーへきっぱりと言い放つ。


「いつまでうじうじしてんだ。許しも何も、俺は昨日言ったはずだぞ。構わねぇと」

「……なんと……!! あれ程の失態の後でも、あのお言葉は撤回されなかったのですか……! なんと慈悲深い事か……くぅぅぅぅ!」


 アンバーが涙混じりの声を出し始める所へ、俺は先手を取って釘を刺した。


「泣くのは無しだとも言ったな? いちいちこの程度で動揺してるようじゃ、戦神にも笑われるぜ。精神修行のやり直しと思って、ちったぁ我慢しやがれ」

「はっ……! 真にもってその通りですな……拙僧とした事が、我欲に信仰を見失う所でありました。勇者殿のお言葉、確と胸に刻み込みましたぞ。深く、深く感謝を……」


 大仰に頭を下げるアンバーの声には、ようやく普段の張りが戻っていた。


 後は緊急時以外お触り禁止にしておけば、こいつに関してはそれほどの障害とはなるまい。

 直接的な被害としては、フェーレスとセレネの方が余程脅威だ。


「ねー、何の話?」


 やり取りをつまらなそうに眺めていたフェーレスが尋ねてくる。


「こいつもお前らと同じ穴の(むじな)だったってだけだ。説明するのも面倒だ、後で直接聞け」

「ふーん。あっそ」


 俺が大雑把に返すと、表面上はそっけない言葉を吐くフェーレス。しかし一瞬にまりと口が緩むのが確かに見えた。からかうネタが出来たとでも思ったのだろう。


 そんな話をしながら、庭の中心へ二人を伴って進む。


「そんで、結局何がしたいのよ?」


 俺が足を止めると、背後のフェーレスが痺れを切らしたように聞いてきた。


「昨日の件で雑魚どもとやり合って、最低限の動きは出来ると分かった。次は上限がどこまでかを確かめておこうと思ってな」


 振り向いてフェーレスと目を合わせると、俺は続ける。


「そこでお前の出番な訳だ。模擬戦に付き合え。久々に一つ汗を流すとしようぜ」


 それを聞き、フェーレスの顔に不満がありありと浮かんだ。


「うぇぇ~? なんでそんなめんどい事にあたしを指名すんの? アンバーなら喜んでやってくれるっしょ」

「こいつは俺が相手だとポンコツ化すると判明した。訓練には使えねぇ」

「真に申し訳ありませぬ……」


 フェーレスの不平にそう返すと、アンバーの身が縮こまる。


「むう。どーせ汗かくんならこっちが良いのにな~」


 言いながら、フェーレスは片手の親指と人差し指で円を作ると、もう片方の手の人差し指をすぽすぽと通すジェスチャーをして見せた。


「夕べもやらかしやがったばっかりだろうが! いい加減がっつき過ぎだ! 卒業したての童貞かよ!」

「ふふん、イイ事は何度ヤってもイイもんなのよ」


 俺が怒鳴り付けても、反省どころか不敵な笑みを浮かべるフェーレス。


「美少年の旬はすぐ過ぎちゃうからね。ヤれる時にヤっとかないと! 『若さ短し犯せよ少年』って言うくらいだし」

「どこのどいつだ! そんなふざけた事抜かしやがったド阿呆は!!」

「あたしだけど?」

「……はぁぁぁ~……」


 やはり本物の阿呆か……


 「それが?」とばかりに平然と言い返してくるフェーレスに、俺は唖然として息を吐くしかなかった。


 それに構わずフェーレスは更に口を開く。


「あんたがその姿になった時に言った事覚えてる? あたしのど真ん中のタイプだって」

「……覚えちゃいるが、それが何だ」

「あんたが珍品に目が無いように、あたしも美少年にはこだわりがあるのよ。今のあんたは、あたしにとってはSSランクの超絶レアモノな訳。それが目の前にぶら下がってるのに、手を出さずにいられると思う?」

「む……」


 俺自身、病的なまでの収集癖だとは自覚がある。お宝として例えられると、異常な執着もすとんと腑に落ちた。


「……だとしても限度ってもんがある。前にも言ったが、せめて同意を取れ。俺の都合も考えろ」

「そう言っといて、結局デートもしてくれてないしさ~」


 頭の後ろで両手を組みながら、唇を尖らせるフェーレス。


 今回は随分粘るな。まあ確かに期待させておいて肩透かしを食わせたのだから、少しはこちらにも非はあるか。


「……分かった。なら参加賞を付けてやる」


 俺はフェーレスが飛び付きそうな餌を考え付き、模擬戦の内容を改めて説明し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ