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【悲報】転落しても追放されずに済んだが、パーティメンバーがヤベー奴ばかりだと気付いた件  作者: スズヤ ケイ
三章 フル装備、最強メンバーから始める冒険者再デビュー
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陰口

 揚げ物をつまみに追加の酒をぐいぐいと煽る飲んだくれどもと、控えめにミルクを啜るアンバーの会話が弾んでいる。


 それを他所に、俺は大皿から取り上げた手羽先へと噛り付いた。


 パリっと揚がった外皮を破り、柔らかい肉へ歯を入れた瞬間にじゅわりと油が染み出し、凝縮された旨味が口の中へと一気に溢れていく。

 噛めば噛むほど味が湧き、いつまでも食べていたくなる。

 毎度変わらず絶妙な味わいだ。


「──おい聞いてるか?」


 自然と頬を緩ませる俺に、髭もじゃが話を振ってくる。


「……はい? 何でしたっけ」


 食べるのに夢中で全く聞いていなかった。


 咀嚼していた肉を呑み込み、聞き返す。


「お前の叔父貴の話だよ! あいつは本当に酷いんだぜ?」

「おおよ。この前なんかな、俺らが酔ってちょっとばかり小突き合いを始めたってだけで、これと同じくらいのテーブルを片手でぶん投げてきたんだぞ!」


 髭もじゃの後を継いで話し始めたスキンヘッドが、目の前の大きなテーブルを指差した。


 巨木を輪切りにした分厚いテーブルだ。300㎏は優に超すだろう。我ながら大した膂力である。


「喧嘩両成敗だとか抜かしやがって、二人とも半殺しにされたんだ! 信じられるか?」

「はぁ」


 そんな事もあったような。


 冒険者同士の喧嘩など、この街では日常茶飯事である。それを仲裁するのもしょっちゅうだ。どの件を差しているのか判別が付かない。


 生返事をするしかない俺に、髭もじゃが噛みついてくる。


「おいおい、事のやばさがわからねぇか! やっぱり目の前で見なきゃ、この恐ろしさは伝わらねぇのかな」


 それを受け、スキンヘッドが大きく頷いた。


「そうかもなぁ。あの時はアンバーさんが居合わせなかったら、マジで死んでたかも知れねぇのによ」

「ああ、そう言えばちゃんと礼を言ってなかったかな。アンバーさん、あんときゃ治療してくれて助かったよ」


 揃って頭を下げる二人へ、アンバーは首を軽く振った。


「なんのなんの。しかし拙僧の記憶が正しければ、あの時はお二人にも落ち度があったように思いますぞ」


 アンバーに言われ、二人はきょとんとした顔を見合わせる。


「お二人は酔いで記憶が不確かかも知れませぬが、(はた)から見れば殺し合いにも成りかねない勢いだったのですぞ。Aランクのお二人が本気でやり合えば、周囲への被害は如何程になるか、想像できましょうや」


 そう説教にも似た雰囲気で言い聞かせるアンバーに、二人はばつが悪そうに下を向いた。


 Aランクと言えば獰猛な大型魔獣とも張り合える力を備えた者達だ。木造の家屋一軒を解体するくらいは造作もない。


 その加減なしの喧嘩に巻き込まれれば、一般人はもちろん、下位ランクの冒険者ですら命が危うい。


 そんな事態となれば、当然ギルドも黙っていない。程度によっては警告なしに粛清もあり得る。


「放っておけば被害が広がるだけでなく、お二人も命を落とす羽目になった事でしょう。勇者殿はそれを憂いて、迅速に事を収束させるべく敢えて暴力に訴えたのです。そうでしょう、ヴァイス殿?」

「え? ええ、ほうらろおほいわふ」


 粛々と語っていたアンバーに突然話を振られ、俺は唐揚げを頬張ったまま咄嗟に返した。


 そうは言われてもいまいち覚えていないのだが。

 単にうるさいと思っただけのような気もする。

 まあ、良い方向に捉えてくれるならそういう事にしておくか。


「……ああ見えて叔父さんは優しいんですよ。この街が大好きで、いつも平和であるように願っているんです。そうでなきゃSSにはなれません。ですよね?」


 唐揚げを呑み下し、俺は胸を張って言って見せる。それに対してアンバーがこくこくと大きく首肯した。


 正義漢ぶるつもりはさらさら無いが、この街を気に入っている点については事実である。だからこそ、街を荒らす愚か者の処刑を進んで引き受けてきたのだ。


「……うーん……本当かぁ? わがまま大王にしか見えねぇが……」

「魔神が人の皮被ってるような奴だぞ。一つ善行したら良い人に見えるってだけじゃねぇのか?」

「ああ、悪党が子猫拾ったら評価爆上げって奴だな!」

「おう、それそれ! 坊や、騙されんなよ! あいつは絶対そんな玉じゃねぇって!」

「……そんな事ないのになぁ……」


 俺は引きつりそうな口元を苦労して笑顔で固定する。


 この酔っぱらいども、本人がいないと思って好き放題言いやがって……


 自分の悪評を第三者として聞く身にもなってみろってんだ。


 そう言いたい気持ちを抑え、俺はやり場のない怒りを美食で解消するべく、フライドポテトを皿に取り分けて口に詰め込んだ。


 その時、カラカラと入り口の鐘が鳴り、店内に新たな来客を報せた。


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