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よくわかる錬金術講座 初級編2

 その後も三人は(かしま)しく喋り散らしていたが、俺の作業が一区切り付こうという頃には、再び賢者の石が話題となっていた。


 未知の物質に対してそれぞれがああだこうだと言い合っていた時、ふとフェーレスが話の舵を切った。


「……んー、そう言えばさ。魔術とか奇跡とかで、若返りだか不老不死だかってできないのよね?」

「出来なくもありませんが……リッチやヴァンパイアに成るような邪道な法ばかりですわね。少なくとも人の身のままで、というのは聞いた事がありませんわ」

「左様。そもそもが神の定めし寿命に背く行為ですからな。そのような祈りは届く道理がありませぬ」


 お手上げとばかりにセレネとアンバーが揃って肩を竦める。


「思ったんだけどさ。もしヴェリスが元に戻る方法が見付かったら、それって同時に若返りの仕組みも解かるって寸法じゃない?」


 フェーレスの言は、まさにレイシャが語っていた通りの事だ。


 もしも人を若返らせる薬が実在するとして、その製法が判明すれば、成分を調節する事で自在に年齢を操れる可能性はある。

 そしてそんな事が出来たのならば、最早それが賢者の石と呼べる代物だろう。


「上手くしたらあたしら、不老不死になれるかも知れないじゃん! ソレってやばくない?」


 フェーレスの声に弾みがついたが、対してセレネの反応は薄い。


「興味ありませんわー。私には、人間のような寿命がありませんもの」


 魔族の多くが人間より遥かに長寿だが、彼女らサキュバスはその中でも更に特殊だ。個体差はあるが、異性を誘惑するに足る年齢まで成長すると、以降老化が止まる。

 精気を吸い続ける限り滅ぶ事はなく、魔力が尽きるか物理的に殺された時が寿命となるのだ。


「拙僧も右に同じくですな。先程も申しましたが、定命なるは神の(おぼ)()し。あるがままを受け入れるのみです」

「はーいはい、どうせ私は俗物ですよ~」


 アンバーにもつれなく言われ、フェーレスがむくれている。しかし気を取り直し、新たな切り口で攻め込んだ。


「でもさー、別の方向で考えてみ? あんたらのお気に入りのヴェリス様が、元の姿に戻った上で不老不死になったとしたらって」


 その一言に、電流でも走ったようにセレネとアンバーの身がびくりと震える。


「……あの究極の美が永遠の物に……?」

「……勇者殿の軌跡が無限に紡がれる……?」


 即座に三人の視線が交差し、それぞれの手を差し出して重ねると円陣を組んだ。


「絶対に賢者の石を手に入れるぞ~!!」

「「おお~!!」」


 何やら我欲に満ちた妙な会が発足したようだが、やる気を出してくれたのは喜ばしい。

 冒険中もあれくらい連携してくれれば尚良いのだが。


 3人の雄叫びを横目に、俺は次の作業を開始しようとした。

 が。


「……うお、こんなに重かったかこれ」


 金庫からある物を取り出そうとするも、あまりの重さに持ち上げる事が出来ない。

 以前なら片手で扱える程度だったのだが、力の差をまざまざと思い知らされる。


 やっとの思いで絹の袋に包まれた品物の一部を金庫のふちまで引き上げると、俺はたまらず声を上げた。


「おいアンバー。盛り上がってるとこ悪いが、ちょっと手を貸せ」

「はっ、何用でしょうか」

「こいつを引っ張り出してくれ。意外に重いからゆっくりな」

「承知」


 俺が指した袋の結び目を握り締め、アンバーは慎重に金庫から引き上げていく。


 徐々に丸みを帯びた大きな物体が姿を晒す。


「よし。そのまま下を支えて、傾けないようにそっちの床に置け」


 アンバーが言われるままにそれを床へ降ろすと尋ねてくる。


「勇者殿、これは一体?」

「まあ待て。今見せてやる」


 俺は目で制しながら、袋の口を縛っていた紐をしゅるりと解いた。



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