表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/94

よくわかる錬金術講座 初級編

「へぇ、賢者の石ね~。そんなのあるんだ」


 無限の金庫にせっせと本をしまい込む俺を尻目に、フェーレスが手近の一冊を取り上げてぱらぱらとめくっている。


「うわ、なにこれ。ホントに文字? 落書きにしか見えないんだけど」

「素人がベタベタ触るな! 錬金関連書は出版数が少ないせいで馬鹿みてぇに高いんだぞ」


 錬金術があまり普及しない理由の一つとして、初期におけるコストが非常に高い点が挙げられる。

 しかも大金を注ぎ込んだとして、レイシャ並に大成しなければ、それだけで食っていける保証はない。


 同程度の授業料を払って、そこそこの魔術学院に通った方が、余程良い職に就ける。


 そういった背景から、錬金術への世間一般の印象は「金持ちの道楽」程度なのが現状だ。


「今お前が持ってる奴はそれ程でもねぇが、こっちの図鑑なんぞ、とっくに絶版だからな。下手すりゃ家が建つ」

「マジで!? もう全部売って遊んで暮らさない?」

「借り物だ阿呆!! そもそも何の為に借りたと思ってんだ!」


 俺はフェーレスから本を奪い取ると、破れていないか確認する。


 見た目に目立つ痛みは無いようで、ほっと一息ついた。



 今は自室で、リースに運び入れて貰った教材を整理しつつ、昨日の顛末を仲間達に語っていた所だ。

 もちろんレイシャのアレな部分は伏せ、俺の異常が錬金術絡みの可能性がある事だけを伝えた。


 家に着くまでには、なんとかリースにお父様呼びをしないよう言い聞かせたが、別れ際には薄っすらと別れを惜しむかのような気配が感じられた。次に会った時にも念を押しておく必要がありそうだ。


「それにしても、錬金術ですか。神の手に依らない異端の業だとか。それならば、拙僧の祈りが届かなかった事も納得ですな」


 アンバーも、魔術や神の奇跡と錬金術とが、本来交わらない領域にある事くらいは知っているようだ。腕を組んで大きく頷いている。


「私としては業腹ですわ……そんな下等な薬学如きの仕業と見抜けなかっただなんて」


 対してセレネは魔術の徒らしく不満気だ。心底見下したような目で本の山を見据えている。


 しかし突然、ぱんと両手を打ち鳴らして俺へ笑みを向けてきた。


「そうですわ! 私がその効能を打ち消す術を編み出して差し上げます。その為にも更なる魔力が必要になりますわ。これからは日に三度の補給を頂く事に致しましょう。早速今からでも……」

「却下だ!! さも名案のように言ってんじゃねぇ! 先に俺が干物になるわ!!」

「そーよセレネ。それじゃあたしの番が回って来ないじゃない。あ、それとも一緒に楽しんじゃう?」

「あらあら。それも一興ですわね」

「お前らはそれしか頭にねぇのか!!」


 この変態共と会話してると時間が無駄に減って行く!


「ったく……大体お前ら錬金術を舐めすぎだろ。駆け出しの頃にくれてやったポーションは、誰が(なに)で作ったと思ってんだ」


 俺の一言に、皆がはっとする。


「うっそ、あんたが作ったの? めちゃくちゃ効いたわよアレ」

「あのような上等な品、魔術師ギルドの既製品かと思っておりましたのに」

「いやはや、流石は勇者殿。レンジャー技能に武芸百般。更には錬金術までそれ程に修めておられるとは。拙僧、改めて感服致しましたぞ」


 今でこそ全く使わなくなったが、当時は皆生傷が絶えなかったのを見かねて、俺が錬成したポーションを持たせていたのだ。


 口々に言ってくるのに対し、俺は鷹揚に頷いて見せる。


「ふっ……真の天才は何でもできちまうもんだ。お前らは俺と組めた事にもっと感謝しておけ」


 そう鼻を伸ばす俺に、フェーレスがじとっとした目線を送って来る。


「あとはその性格が直れば完璧なんだけどねー」

「天は時に二物も三物も与えますが、それ以上に差し引く場合も有り得るのです」

「……あ゛あ゛ん?」


 俺が精一杯のドスを利かせながら睨むと、フェーレスはそっと目を逸らし、アンバーはがしゃりと鎧を震わせ、


「……が、強き者は何をしても許されるのがこの世の習い。勇者殿はあるがままで宜しいのでは」


 慌ててそう付け足した。


「あんたんとこの神様も大概単純よね~。そんなだから脳筋教とか言われんのよ」

「うふふ、いっそのこと筋肉賛美教へと変えてはいかが? 私、真っ先に入信しますわよ」


 性悪二人に煽られようと、アンバーは動じない。


「我等が主は寛大ですからな。本質さえ表していれば、呼び名は如何様(いかよう)にも」

「おおう。戦神パないわー。気さくすぎない?」

「それでよく教団として纏まりますわね……」


 どんどん脱線して行く三人の話をBGMにしつつ、俺は荷物の整理へと戻り、黙々と作業を進めるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ