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勇者になれなかったおっさんの英雄譚

剣や魔法の世界ですが異世界転移や異世界転生ものではない筈なんですが主人公には色々と秘密があります。大筋の終結は決まっておりますが妖精郷に三百年引篭りそこから再出発が本当の意味でのスタートになります。最初は主人公が何故勇者になる事が出来なかったからの物語から始まりますが本当のスタート地点から終結までお付き合いいただけるとありがたいです。基本的には最初の方は物語の組み立ては終わっている為、毎日更新する予定です。宜しくお願いします。

  辺境にあるとある小さな村で一人の少年は産まれた。


 この村で育った少年は幼い頃から親の手伝いをするのが当たり前、勿論同世代の子供達も同じ様に家の手伝いをし大きくなれば村の中の者と結婚し子供を産み育て親子で働き生活をする。

 

 このとある小さな村の日常に代わり映えは無く、 村が出来た時からこの生活サイクルは何世代も続いている。

 

 少年もそれが当たり前の事だと疑問に思う事は無く少年の友達も同じだった。


 いつも仲良く遊んで居た友達の一人が冒険者になりたいと少年に夢を語った時ですら少年には何の感情も湧かなかった。

 

 「俺は成人したら村を出て冒険者になりドラゴンを倒して王様になるんだ!」


 「ふ〜ん......そっか頑張れよ。」


 特に興味は湧かずそもそも冒険者というのが何か分からなかった。

 住んでいる村の外に出た事が無かった少年にとっての世界とは村の中であった。


 何年も変わらない日常を送り少年は大きく成長し青年になっていった。


 15歳になった日、冒険者になりたいと夢を語った友達は村を飛び出していった。


 後に【ドラゴンスレイヤー】と呼ばれ勇者と讃えられ英雄の一人となる青年である。

 

 少年も15歳になり収穫した農産物を道なき道を進み街へ行商へ行く様になっていた。

 

 農産物を運ぶ為には青年が住んでいる村から街へ行くには街道等は殆ど無く獣道がまだましな方で基本的には道なき道を進むのが当たり前だった。

 

 この世界にはモンスターと呼ばれる魔物がおり有名なモンスターはドラゴンやグリフォン、何処にでも居るのがスライムやゴブリン、コボルト等。盗賊も勿論居る。


 そんな獣道を行けばモンスターに出会すのは青年の世界では当たり前であり、例に漏れず青年もモンスターに何度も出くわしていては倒していたのだった。


 モンスターが出れば腰紐で止めている木の棒を振るいモンスターを倒し道を進んでいく。


 それもまた青年の世界の中での常識


 ある時、農産物をいつも買ってくれる街の人に聞かれたのは......


 「村からこの街までどうやって来てるんだ? モンスターも沢山出るだろうに。大丈夫なのか?」


 「大丈夫じゃなかったらこの街に着いてないだろ。街への一番の近道は山の斜面を降りて来る事だな。モンスターが出たらこの腰に刺してる木の棒で倒してる。何かおかしいか?」


 「おかしくは無いが、その木の棒でか? 倒したモンスターはどうしてるんだ?」


 「モンスターなら木の棒で十分だろ。木の棒を忘れた時は素手で倒すしかないけど。倒したモンスターは腐ると臭いから焼き払って土に埋めてるよ。」


 『農産物を買ってくれた人は不思議な顔をしていたけど何かおかしかったか? それよりもモンスターの身体の一部(皮、毛皮、肉、牙、爪等)を買ってくれる場所があると教えてくれた事はありがたい。次回から持って来よう。』


 村の外に出たらモンスターがおりモンスターが出たら木の棒で倒す。

 青年の世界では常識であった。


 村へ帰りモンスターの素材も買ってくれるらしいと両親に話したらかなり驚いていた。

 どうやら両親とも知らなかったらしい。


 街で良い情報を得たので街のお店ではモンスターの素材を買ってくれると村人や村長に話したら農産物を売りに行くついでに皮やら爪やら牙等が村には沢山あるから売って酒でも買って来てくれと頼まれた。

 村長からは狼の毛皮と言って白い毛皮を渡された。

何の毛皮かは分からないけど肌触りは良くキラキラと毛皮は輝いて見えた。


 「こんなに沢山持っていけないぞ」


 当たり前の事を言ったら村長から


 「そう言えばお前も成人しとったの。祝い代わりにこの袋をやるからこれに詰めていくのじゃ」


 そう言って茶色の背負い袋を貰った。


 どうやら村長曰く暇潰しに作った袋らしく一杯物が入るとの事だった。

 実際沢山の素材が入ったのでこの袋は良い物なのだろう。


 「ありがとうよ村長。」


 青年は村長に礼を言い自分の家に帰っていったのだった。


 

 それから一月後


 青年は再び街へ農産物を売りに行く事になった。


 持って行くのは村で育てているサトウキビ。

 只、甘いだけの木の枝にしか見えないのだが、何故か街では人気があり高く売れる作物だった。

 他にもマツタケと呼ばれる村のあちこちの木で生えているキノコもあるが、このキノコもいつも高く売れた。


 当たり前の様に村で生えている物が毎回全て高い値段で直ぐに売れるのかは不思議でしか無かったが、売れないよりは良いかと青年は今まで気にした事も無い。


 本来ならかなり希少な物なのだが、青年の世界の中では村の中で普通に生えている物なので特に気にする事も無かった。


 いつもの様に山の斜面を降りて街へ向かう青年。


 途中空から大きなトリが襲って来たが、難なく木の棒で殴り殺してそのまま背負い袋に放り込む。

 

 「綺麗な色をした鳥だったから少しは高く売れるかもしれないな。」


 極楽鳥と呼ばれる非常に強力なモンスターである。


 素材はかなり高額になり、そう簡単に倒せる物ではないのだが、青年の世界の常識では綺麗な色をした鳥でしか無かった。


 山の斜面を駆け下りた青年は街へ着くといつも通りに農産物を売った。

 売り終わると以前街の人からモンスターの素材を買ってくれると聞いた【冒険者ギルド】という所を目指して歩いて居た。


 「確か街の真ん中の通りを進みあの辺りを......」


 青年は少し歩き街行く女性に道を訪ねた。

 

 「すいません【冒険者ギルド】への道を教えて貰いたいのだが?」


 「【冒険者ギルド】はこの道を真っ直ぐ進んであの赤い屋根の建物を右に曲がれば正面に青い屋根の大きな建物が見えるのでそちらになります。」


 「ありがとう、お嬢さん。(ニッコリ)」


 何故か顔を紅潮させ目がうっとりしてる様に見えたが、多分女性は体調が悪かったのだろう。

 そんな中親切にも道を教えてくれた事に青年は心の中で感謝したのだった。

 

 青年は女性から教えて貰った通りに歩き赤い屋根の建物を右に曲がると正面には青い屋根の大きな建物が現れた。


 「へぇ〜 これが【冒険者ギルド】か。」


 綺麗な白い外壁に青い屋根。青年は生まれて初めて見た【冒険者ギルド】に少し感度したのだった。


 青年は扉を押してギルドの中に入って行った。


 朝早い時間だったからなのか【冒険者ギルド】の中に居る人はかなり多く混雑している様だった。


 紙を手に持ち受付に並んでいる者や朝から酒を飲んでいる者、壁に貼られている紙を複数人でああだこうだと話している者やら多種多様な状態であった。


 「これが【冒険者】という人達か?」


 よく分からない形をした武器を持っていたり全身に鎧を着ている者など青年が今まで見た事がない集団に青年は不思議と身体の中が熱くなる様に感じたが、

疲れで熱でも出たんじゃないかと自身の始めて感じた高揚感を理解出来ず疲労感だと勘違いしてしまう様な有様であった。


 どうやら【冒険者】が、並んでいる受付で用件を伝えれば話を聞いて貰えると思い青年は一つの列の最後尾にならんだのだった。


【冒険者】達の値踏みした様な視線や嘲笑する様な笑い声も聞こえては居たが自分にそれをどうにかする事等出来なかったので青年は気にしない事に決めたのだった。


 暫く列に並び自分の順番が来るのを大人しく待って居たら受付の若い女性から次の方どうぞと青年に声がかけられたのだった。


 「ここでモンスターの素材を買ってくれると聞いて来たんだが? 本当か?」


 この青年の言葉に周りに居た【冒険者】達は大爆笑した。


 「あいつ見た目だけは悪くねえがここを市場と勘違いしてるんじゃねぇか?」


 「あの見た目から農村から来たんじゃないか」


 「何処の田舎者だよ」


 「知らねえよあんな田舎者」


 「見た目だけはいいが弱そうね」


 「誰だよあんな村人呼んだ奴」


 他にも罵倒やら嘲笑は数知れない中何故か見た目だけは悪くないの声が複数混じっていた。主に女性の冒険者から。


 受付にいる綺麗な女性は周りの声を特に気にした様子も無く青年の質問に答える。


 「私はエミリー。このギルドの受付嬢をしています。モンスターの素材は買い取りさせていただいてますよ。【冒険者ギルド】は初めてですか?」


 「俺はアルバインだ。宜しく頼む。こういう場所があるのを今まで知らなかったんだよ。最近街の人に教えて貰ったんだ。」


 好奇の周りの視線を特に気にする事は無く青年は話を続ける。


 「鳥のモンスターやよく分からない毛皮やら色々持って来たんだが見て貰えるか?」


 「モンスターの素材は見させて頂きますがその前に冒険者登録が必要なんです。登録していただけますか? アルバインさん」


 青年は少し考えたものの素材を買い取りして貰うには必要な事なんだろうと思い受付の女性の言葉に首肯した。


 「必要なら頼む」


 「ではこちらの紙に名前と出身地、職業があるならお願いします。」


 アルバインは名前と出身地【エルドラド村】職業に【村人】と記入した。


 「ありがとうございます。では次に【ギルドカード】を発行致しますのでこちらの文字盤に手を翳していただけますか?」


 「分かった。これでいいか?」


 アルバインが文字盤に手を翳すと文字盤が一瞬光を放ちその後アルバインの手の甲に何やら紋章の様な物が現れた。


 「この紋章は?」


 アルバインはエミリーに訊ねる。


 「そちらの手の甲に現れた紋章がギルドカードの代わりになっております。詳しくは後程説明させて頂きますがもし【冒険者】を引退された時はギルドにて紋章を消させていただきますので心配はないですよ。」


 「分かった。じゃあ改めて素材の買い取りを頼む。査定が終わった時に【冒険者】について説明を頼むよ。」


 「分かりました。ではこちらのカウンターに素材をお願いします。」


 エミリーに受付とは別のカウンターを案内されるがアルバインは困った様な顔をしていた。


 そんなアルバインの様子に気付いたエミリーが更に広いカウンターを案内するも


 「すまないがもう少し広い所はないから?途中で狩って来た鳥が思ったより大きいんだよ。」


 アルバインのその言葉にエミリーは首を傾げる。


 アルバインの持っている背負い袋の大きさからそこまで大きな物を持っている様に見えなかったからだ。


 「え〜っとアルバインさん、ギルドの外にも置かれてるんですか?」


 アルバインは背中の背負い袋を親指で指して一言


 「いや、この中だ」


 今まで騒がしかった周りの【冒険者】達が急に静かになった。どうやらアルバインの背負い袋に何か心当たりがあったのだろうか。


 「時間掛かりそうだからこのカウンターに少しずつ出すから持っていってくれ。」


 そういうとアルバインは村長から預かった一枚の白い毛皮を出した。


 静まり返った【冒険者ギルド】の部屋の中で【冒険者】の唾を飲み込む音が聞こえた。


 「アルバインさんこの毛皮は......」


 「村長からは珍しい白い狼と聞いて来たんだが。」


 エミリーはアルバインが出したその白い毛皮の手触りを確かめた後何故か眼鏡を掛け本を開きながらぶつぶつと呟いているが次第に顔色が真っ青になっていった。


 「アルバインさん......こ......この......この......白い毛皮......」


 アルバインは値段も付けられない様な素材を査定させてエミリーを怒らせてしまったのかと申し訳ない気持ちになり謝ろうとしたタイミングで......


 「「申しわ(フェンリルじゃないですか!)けない」」

 

 「フェンリル?」


 周りの【冒険者】達が絶句してる中何処か間抜けなアルバインの声がギルドの中で響き渡った。

 


 




 

 

 


 


 


 

 


 

 

 

 

続きが気になるや少しでも面白いと思っていただけたらブックマークや評価をしていただけたら嬉しいです。良い悪いを含め色々な感想も作者のモチベーションになりますのでどしどしお待ちしています。

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