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或る文学作品

クリスマみかん

作者: 栄啓あい

 私は、好きな男の子がいた。


 その子のことを考えると、胸がときめいてくるし、暇さえあればずっと考えていることもある。


 私は、高校では、さりげなくその子の近くに行って、その子とさりげなくしゃべって、私の「好き」を感じさせないように心掛けている。


 しかし、やはりその子に甘えてしまうところもあるようだ。


 その子の特徴としては、背が小さい、かわいい、いじられキャラ、そんでもって、爽やか、かっこいい、どこか憎めない顔をしていて、しっかりしている。


 スポーツもできて、頭もいい。


 私から見たら、その子は完璧な人だ。


 なぜみんなはこの子のことを気にしないのだろう。


 そう思うくらい、素敵な人だった。



 あるクリスマスの夕方―


 私はその子にクリスマスプレゼントを用意していた。


 この冬、これから寒くなるであろう冬に備えた、二重手袋だ。


 私はそれをわざわざ小包に入れてその子に渡そうと思っていた。


 その子の手のサイズは、握手をしたときに、なんとなくで覚えた。


 その子の手は、とにかく細くて、短くて、やわらかくて、それでいて、頼りがいのある手だった。


 私は、まだ早いが、この人についていきたいとすら思った。



 私は、終業式など、二学期のことがすべて終わった後の放課後、高校の玄関にいた。


 玄関で、特に何をするでもなく、ただ誰か友達を待っているようなそぶりをして、その子を待っていた。


 その子は、玄関では誰か友達としゃべっていた。


 あああ、この、友達、早く行ってくれないかなあ。


 そんなことをずっと思っていた。


 そうすると、その友達は、部活に行ったらしく、その子は一人で帰っていた。


 それなので私は、勇気をもって玄関を出て、その子のもとに寄った。


 「あの…」

 「ん?八木さんじゃん。どうした?」

 「あの、実は、ちょっと…渡したいものあって…」

 「お?なんだなんだ?」

 「あの…これなんだけど…」

 

 そして、その小包を渡した。


 「え?これ、リボンがかかってるけど、俺がもらっちゃっていいの?」

 「へ?あ、大丈夫大丈夫。遠慮なくもらって」

 「ありがとう!とっても嬉しいよ!中見ていい?」

 「いいよ!」


 そして、中を見ると、その子はみるみる嬉しそうな顔をした。


 「手袋じゃん!ありがとう!寒かったから、欲しかったんだよねー」

 「気に入ってもらえたなら、よかったです」

 「そういえば今日はクリスマスイヴだったね。メリークリスマス」


 その瞬間、私は頬が赤らんでいくのを感じた。


 私は、その笑顔が、最高に嬉しかった。


 「め、めりー…くりすます…」


 なんだかぎこちない回答となってしまった。


 「でも、せっかくもらっちゃったし、俺からもなんかあげないとな」


 そう言って、その子は鞄をごそごそした。


 その両手から出てきたのは、二つのみかんだった。


 「ごめん。今日はちょっと持ち合わせがないみたいだから、これで許して!」

 「え?いや、全然!大丈夫。みかん、うれしい!」

 「八木?お前、少し無理してないか?」

 「え!?そんなこと…ないと思うけど…」

 「ま、とにかく、それ食べて、風邪ひかんようにな。」

 「うん!」

 「じゃ、俺、こっちだから」

 「うん。またね。よいお年を~」

 「よいお年を~」


 そうして、別れてしまった。


 いつまでも、二人だけでいつもより沢山話したその余韻をずっと感じながら、


 赤くなったであろう頬を、二つの冷たいみかんで冷やしながら…

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人が嬉しく思うこと。幸せに感じること。なにかのものをもらうでもなく、ただその人とある。ということを思い出せる文章でした。 [一言] 面白かったです
[良い点] 青春! している描写がとても良いですね。 プレゼントは相手を想う気持ち、クリスマスに送る、温かさを感じさせてくれる一作でした。 面白かったです。
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