目覚め
少し感じる肌寒さで目が覚めた。
ひとは眠りが深いほど体温が低下するらしい、肌寒さは恐らくそのせいであろう。
重い瞼を振り切りパチッと眼を開く。
その瞬間光が目に入り込む。
数秒の間、慣れない眩しさにより何も見えなかった。
手をかざし光源を視界から遮断する。
しばらくするとその眩しさは無くなりハッキリと物体を認識できるようになった。
寝転がったまま周りを観察した。
木々が茂っており、鳥がちゅんちゅんと鳴いている。
どうやらここは森の中のようだ。
「あ、」
僕はあることに気づき、上体を起き上がらせた。
先ほど無意識にかざした手をもう一度マジマジと観察する。
「ひとの手だ…。」
あまりの感度に手をグー、パー、グー、パーと何度も握り返した。
感覚がある。
「僕はひとになったんだ」
ひとの弱々しい声帯で言葉を発した。
感動だ。
見ての通り僕はひとではなかった。
昔は竜であった。
ある事をきっかけに僕はひととして生まれ変わった。
ある事というのは話せば長くなる。
ひとと竜は対立していた。
それはひとの勝手な偏見によるものだった。
僕ら竜は、ひと達に被害を加えていないのに対し勝手に警戒し、迫害、やがては大量虐殺までも発展した。
僕ら竜は悲しかった、何もしてないのに嫌われる。
ただ仲良くしたいだけなのに。
そんな中ある1匹の竜が現れた。
白麟の竜だ。
彼は強く、優しく、多くの竜から信頼されていた。
僕も彼を信頼していた竜の人であった。
何より彼は特別な力によって僕達竜の願いを叶えてくれた。
皆の願いはただ一つ
「ひとになりたい」
であった。
白麟の竜はなんなくそれを受け入れ僕らをひととして生き返られせくれた。
後日知ったことなのだが竜によってひととして生まれ変わる時期が違うらしい。
こうして僕はひととして生まれ変わったのだ。
昔のことは今はどうでもいい、僕は感じたことの無い好奇心を感じた。
勢いよく起き上がろうと腕をバネのように押し出し立とうとした。
が、力の入れる位置をまだ把握出来ていないためもう一度目が覚めた時とおなじ体制になってしまった。
気を取り直してゆっくりと腕を使ってぷるぷるする脚で地面にたった。
ひんやりとした土、少し湿った落ち葉の感触をハッキリと素足で感じた。
右足をゆっくりと踏み出した。
今僕はひとの歩行に挑戦している。
続いて左足。
少しずつだが確実に進んでいる。
ひとの感覚に慣れるまで数時間はかかった。
慣れてからは楽しかった。
竜の頃とは違い視界が立体的で、色がついていた。
自然の色がこんなに綺麗だったなんて思いもしなかった。
ひとになったということでとりあえず僕は人にあいにいく事にした。
会ったら何を話そうか、怖がられたり攻撃とかされないかなといまはいろんな心情で胸がいっぱいだ。
そんなことを考えつつも僕はゆっくりと山を淡々と下っていくのであった。
山紫水明の中にポツリと一軒家があった。
その家は真白くたたずんでおり、それらから少し孤立してるようであった。
天気は快晴なためよりいっそ壁の綺麗な白色が強調される。
赤色の縁の窓がいくつか空いていた。
そこから漏れだそすようにして男女の仲良よさげだ声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ、竜久!」
と赤髪の女の子が話題を振りかけた。
彼女は肩出しセーターを華麗着こなし、左頭にはチーズ色の小さな角が2つちょこんと生えていた。
「ん、なんだよ姉貴」
青髪の男の子が少し嫌そうに返事をした。
彼もハイネックの黒のセーターを着こなし、わさび色の小さな角を2つ頭に生やしていた。
2人はこの大きな家出同居している姉弟達である。
朝食を食べ終わった2人は珈琲を啜りながらいつものような会話をしていたのである。
姉の方はこのように少し構ってちゃんで、それに対し弟の方はいつもつんつんしてる。
一見仲が悪そうに見えるが弟は弟は姉のことが大好きなのである。
「また誰かがひとになったみたいだよ!」
彼女にはある特殊な力があった。
竜から人になった時その事が直感的にわかるのだ。
「また誰かがひとになったのか。」
竜久が珈琲を静かに啜り、姉を睨んだ。
「それで?」
「面倒見てくれない??」
弟の冷たい反応に対し火隣は屈する事無く用件を伝えた。
よくひとはおっちょこちょいなひとを「天然」と言って可愛がるが火隣はそうではない。
ただの「馬鹿」である。
「はぁああ…、姉貴が行けばいいだろう…。なんで俺が…。」
「女の子は家を守るのが仕事だからっ!」
「…いつの時代だよ。」
火隣は少し考える仕草をした。
それに対してなにか反論するのかと思ったが彼女は見事にそれをスルーした。
スルーというか、応答する程の知能がないのだ。
彼女は馬鹿なのである。
「行ってこないとお昼ご飯なしだからね」
竜久は姉の馬鹿さに頭を抱えた。
これからこいつと暮らしていくのか…。
「姉貴…、ご飯作ってるのいつも俺だから…。」
「あっ、そっか!」
「ともかく、だるいから俺は行かないからな。」
珈琲を平らげ、入っていたティーカップを台所に置いた。
コップを簡単に洗った後に部屋をあとにしようとした。
「わかった、私もついて行くから…!」
なんで俺がいく前提なんだよ…。
「分かったよ、いくか」
「よし決まりね!」
「おう、だるいからさっさと終わらせよう」