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1 都の来客

前作と同じく

その日のノリで話を考えて書いてます

のんびりお付き合い頂けたら嬉しいです!



 

 イノンド王国西南に位置する水の都サーリンシー。


 年に一度、夏時期のみの観光の目玉。

 それは、海の妖精翼をもつ人魚(セイレーン)の海流がサーリンシーの周りに渦巻く期間に訪れる。

 セイレーン達多くの妖精の住まう《海中王国トリノア》が海上近くに浮かぶのだ。


 その期間、サーリンシーは夏海フェスティバルで賑わう。

 年に一度しかお目にかかれない海中王国を観たいのもあるが、一番の目玉は人外の美しさで男女問わず人々を魅了するセイレーン達だろう。


 フェスティバルの人混みの中、尾を脚を変化させたセイレーン達が人と同じく観光や交流の為に警護兵を連れながら歩いているのだ。

 髪の色は様々だが、セイレーン達は一様に煌めく深海の瞳をしている。

 その瞳は嵐の波を操り、船を海中に引きずり込む魔性の瞳と言われているので、船乗り等の一部の人間には恐れられている。

 しかし、陸に上がっている状態ではセイレーン本来の力は使えない。人々に危険がないのでサーリンシーでは安心して交流できるのだ。

 一応、陸では非力なセイレーン達の為に国から警護兵が監視の意味でもついている。


「今年はゴツい警護兵が多いな~」


 水の都サーリンシーの港へ船から降り立つなり精悍な顔立ちの男が呟いた。


「仕方ないわね。最近多いみたいだもの」

「ああ、セイレーンの誘拐事件か」


 その後から続いて降り立った若い男女が頷いて返した。

 少女と言ってもいい若い女が言葉を続ける。


「そうそう。元々セイレーンには不老不死の薬になるという言い伝えがあるから狙われやすかったけど、最近では外見や歌声の美しさから観賞用に売買する輩も出てきたらしいわ」


 精悍な顔立ちの男が若い男女を振り返り、大袈裟なほど恭しく礼をしてニヤリと笑った。


「左様ですか。如何します?」


 若い男が不敵に笑い返し頷く。


「私達は御忍び中だからな。お前に任せる」

「御意に召しますように」






「ベルフィーユ!ベルフィーユ!」


 艶やかにウェーブする黒髪を靡かせ、黒縁メガネをかけた少女が私の名前を呼びながら走ってくる。

 洗濯物を干していた私も手を止めて少女へ駆け寄った。


「エンジェーナ!!元気だった?パパやママや皆は?」

「一年ぶりね、ベルフィーユ!会いたかったわ!私達は皆元気よ。貴女も元気そうで安心したわ。ベルフィーユのパパとママは手続きに手間取ってるみたいだったから私は先にこっそり来たの!」


 駆けた勢いのままお互いに抱き締め合い再会を喜んだ。

 黒髪の少女エンジェーナとは本当に一年ぶりの再会だった。


 そして、次に会えるのも一年後。

 そんな思いが私の顔に出ていたのか、エンジェーナが怪訝な顔になってしまった。


「ベルフィーユ。まだ見つからないの?」

「・・・うん。サーリンシーの人ではなかったみたい」


 私の返事にエンジェーナが烈火の如く怒り出した。


「あの泥棒!見つけたら私が殺してやる!!」


 穏やかでない友人の言葉にぎょっとして周りを見る。

 ベルフィーユの家は小さく洗濯場も近隣の家と共同だから誰に聞かれているかわからない。幸い今は誰もいなかった。

 しかし、念のためにエンジェーナには声を落としてもらう。


「ちょっと、エンジェーナ落ち着いて。あの人は泥棒じゃないから。私が()()を渡したの!」

「そのまま持ち逃げされたなら泥棒よ!そのせいでベルフィーユは、」

「良いの。私があの人を助けたかったから、後悔はしてないよ。たぶん、あの人にはアレが何かもわかってないだろうし」


 遮るように言葉を被せて首を振る。


 そう。私は一年前、偶然助けた人にあるものを渡したせいで家族や友人であるエンジェーナと一緒に暮らすことができなくなり、水の都サーリンシーで暮らすことになった。

 アレを返してもらわないと家族とはこれからも一緒に暮らせない。しかし、助けた人は何処の誰かもわからない。


 サーリンシーで助けた人を探すうちに一年が経ち、この一年で生活にも慣れたので特別苦労はしていない。

 そして、あの人がサーリンシーの住民ではなかったので、見つけることを諦め始めた自分がいる。


 ただ、家族や友人に会えないのは寂しいが。


「・・・うっ、ベルフィーユ」


 涙ぐむ友人を宥めるべく、艶やかな黒髪を撫でながら抱き締め直す。エンジェーナは感情表現が豊かで忙しい子だ。

 離れて暮らす事になった一年前も、この友人は別れを惜しんで泣いてくれた。

 ベルフィーユにとって、昔から一番の仲良しはエンジェーナだった。


「ありがとう、でもエンジェーナが泣かなくていいよ?私はここでの暮らしを悲観してない。都の人はみんな親切で優しいもの」

「・・・あんの泥棒男。このフェスティバル中にアレを返さなければ、責任取ってベルフィーユを嫁に迎えるべきなのよ!!」


 エンジェーナの口から漏れでた言葉に驚いた。


「えっ!?そ、そんな、」

「貴女を伴侶にできるなんて幸運を与えるのも、八つ裂きにしてやりたいくらいムカつくけど、私達が側にいられない間に貴女を護れてアレを持っているなら仕方ないわ。今すぐ返してもらえるなら、そんな必要ないけどね」


 不服そうに続けるエンジェーナの言葉に少し顔が火照ってしまう。

 私を伴侶になんて幸運でも何でもないと思うが、エンジェーナは昔から私の何を気に入ったのか、少し特徴的な珊瑚色の髪以外は平凡だと思う容姿や内面をとても褒めてくれるのだ。

 友人の身内贔屓だろうけど。


 実際にあの人が私をどう思っているかわからない。

 ただ、少しぐらいは好印象であってほしいと思うけど・・・


「あの人は今年もサーリンシーを訪れるかな?」


 ベルフィーユの呟きにエンジェーナが呆れたようにため息を吐く。


「一目惚れなんてするから、アレを渡してしまったのよ。泥棒男め!私の可愛い友人をたぶらかすなんて!」

「ち、違うよ!?一目惚れなんて――――確かに素敵な人だったけど、あんなに素敵な人ならもう結婚してるだろうし。してなくても私なんか相手にしてくれないよ」

「ベルフィーユの可愛さなら問題ないわ!見つけ次第メロメロにして、アレを取り返してから泥棒男を捨ててやりなさい!私が許可するわ!」

「エンジェーナ!?」


 エンジェーナから見たベルフィーユの表情は完全に恋する乙女だったのだが本人に自覚はない。

 あの男が見つからない以上何を言っても無駄だと判断したエンジェーナが折れることにしたらしい。


「ちっ・・・わかってるわよ。腹立たしいけど、ベルフィーユがいいなら仕方ないもの。私もサーリンシーにいられる間は探すのを手伝ってあげるわ」

「本当に!?ありがとう、エンジェーナ!」


 ベルフィーユは洗濯物の続きを手早く干してから、エンジェーナを連れ立ってフェスティバルで賑わう街中に向かった。


 新鮮な魚介類や果物、サーリンシー伝統の珊瑚や貝殻の加工品が市場に並んでいる。

 それらを眺め、冷やかしながら雑踏を進む。


 ふと、思い出したようにエンジェーナが口を開いた。


「そう言えば、泥棒男はどんな姿なの?」

「えっ、今頃それを聞くの!?」

「考えるだけで殺意しか沸かなかったから、背格好に興味が無かったわ」


 あっけらかんと答えるエンジェーナに唖然と目を向けると、ぷいっと目を逸らされた。年より幼く見えるが可愛い友人だ。


「う~ん。あの時、海水で濡れてたからちょっと違うかもだけど、短めの青みがかった黒髪で、逞しい身体つきの勇ましいハンサムな顔。気絶してても気迫というか強いエネルギーを感じるのが印象的だったから、身体を鍛えたり使うお仕事だと思う」


 私が少ない語彙力と、一年前に一度見ただけの記憶を掘り起こして一生懸命説明しているのに、エンジェーナは気色ばんだように鼻を鳴らした。


「要は、黒髪の強そうな男?そんなの腐るほどいるわよ」

「全然違うよ!?」

「明るい陽の下で見たらそうかもしれないでしょう?力仕事なら、きっとこの時期入港する船の水夫や漁師をあたったら見つかるわよ」


 確かにエンジェーナの推測通りかもしれない。

 水の都サーリンシーは、周りを海で囲まれた水上都市だ。

 本国と一応橋で繋がっているが、有料で貴族や金持ち商人しか使わない。陸路より船での移動が主流のため船乗りの出入りが多い。定時で住んでいる者もそこまで多くないのだ。

 一年も探して見つからないならば、サーリンシーの住民ではなかったのだろう。

 昨年の夏海フェスティバルの中偶然出会ったので、観光でなければ、フェスティバルの期間限定で出入りする業者や水夫、漁師などである可能性が高い。


 観光客ならば見つけるのは至難の技だ。

 商人だった場合アレの価値が解る筈だからベルフィーユを向こうから探してくるだろう。しかし、一年音沙汰ないならば可能性は低い。

 問題は水夫や漁師だった場合。


「水夫や漁師だったら、見つけてもアレを返してもらえるなら嫁入りは止めときなさいよ。まぁ、向こうから逃げ出すでしょうけどね」


 私の考えなど容易に読めるだろうエンジェーナが釘をさしてきた。


「わかってる。水夫や漁師なら諦める。・・・まず、見つかるかもわからないからね」

「そうね」


 どうか、毎年来るただの観光客であってほしい。


 そう思いながら人混みを探すが、やはりそう簡単に見つからない。

 昼時まで一緒にそれらしき人を探してから、エンジェーナは手続きに手間取っている両親の確認に、私は日課となっている灯台からの捜索へと別れることになった。



読んで頂きありがとうございます

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