0 事の始め
ぴちゃり、と水音が響く。
暫くして、急に複数人の雑多な足音が混じる。
それにともない下品な笑い声や怒声、奴等が歩く度に衣擦れや鎖がジャラジャラと鳴る不快な音が続く。
その中に混じる微かな嗚咽混じりの鳴き声。
「おらっ!とっとと歩けや!」
「きゃっ!?」
7人の少女達が入れられた薄汚い個室に近付いてくる声。
個室は石壁で埃っぽいのに、隙間から入ってくる空気は海の湿気を帯びている。
隙間はじめじめとカビ臭く鼻がつんとする。
はっきり言って長居したい場所ではない。最悪な環境だ。
しかし、少女達は部屋から出ることはできなかった。
手足を縛られ、部屋の隅で身を寄せ会うしかない。
個室に近付いてくる足音や声に、ため息や悲嘆にくれる囁きが溢れる。
ここにいる少女達は知っていた。
自分達が何故捕らえられたのか。
これからどうなってしまうのか。
無力化された自分達にできることはなく、ただ助けを待つしかない事も。
部屋から外に通じる唯一の扉の向こうで、南京錠の鍵を回す音や鎖が外されるジャラジャラとした音が響く。
錆びた蝶番が軋む音とともに古びた金属扉が重そうに開く。
「入れっ!痛い目に合いたくなきゃ大人しくしとけよ!」
「―――うっ!?」
少しだけ開けられた扉の隙間からひとりの少女が突き飛ばされ、転がるように部屋に入れられた。
手足が縛られているので、部屋に入れる直前に足も縛られたのだろう。
顎下で切り揃えられた黒髪に褐色の肌をした綺麗な少女だ。大人しそうな顔立ちは弱々しく涙に濡れ、痛みを堪えるように目を積むっている。
布を重ねたサリーを纏っているから、隣の砂漠街から観光に来たところを捕まったのかもしれない。
そのまま金属扉が嫌な軋み音とともに閉められ、また鎖や南京錠で施錠される絶望の音が響く。
奴等が遠ざかるまで部屋は静まり返っていた。
「・・・ねぇ、貴女怪我はない?」
部屋にいた少女のひとりが恐る恐る問うと、黒髪褐色肌の少女はムクリと上体を起こした。
「はい。是式で怪我をするほど柔ではありませんので」
可愛らしい声を発した黒髪褐色肌の少女は、場違いなほどにこやかに笑っていた。
先ほどの涙は見間違いかと我が目を疑うほどだ。
頼りなく大人しそうな顔立ちに変わりはないが、外見と内面は違うようだ。
「さて、皆様。おそらくですが、一週間以内に助けが来ますので安心してください」
そう言って、黒髪褐色肌の少女は赤い瞳を煌めかせた。