誰かを助ける権利の為に、やがて男は|転生《めをさま》す
男、ついに転生へ
「死後の進路を決める場所……だと?」
「はい。知能を持つ生物は人に限らず、死後の魂がこの幕間の空間に召還されます」
「……つまり、ここはーー」
「最後の審判の庭です。」
ブワッーーー!!!!
「ーーッッ!!?」
強烈な突風が吹く。
反射で腕で視界を庇い、目を開く。
すると、これまで怪しげな部屋の中だった場所の視界が唐突に開き、草木が茂る草原のような場所に変わった。
「鬼瓦臣十郎さん。貴方の生前の行いを裁定し、行いに応じた指針を選択することが出来ます。」
「自分の生前の行い……」
「さあ、最後の審判を始めましょう。
貴方の生前の行いが思いやりや優しさに満ちていれば、貴方の前には『転生の門』と『最期の門』が現れます。」
「最期の門?転生の門は輪廻転生として、最後とは何だ?」
「最期の門は、生者に安息と安らぎをもたらす場所へ繋がる門です。
ここを潜れば貴方は転生の輪から解離し、永遠に生まれ変わることが無くなります。」
「文字通り………最期か」
「ええ。ですが…この最期の門が最後に現れたのは、人類史が始まるよりも前。
まだ人が神に近かった時代だと聞いています。
なので、私にも最期の門の向こう側に何が待っているのかは分かりません」
「…………そうか。
なら、一つ質問を良いか?」
「はい。何でしょうか?」
「……………自分には、家族がいない。物心ついた時からだ。
もし、自分も知らない本当の家族に会いたい。
と言ったら……会えるのだろうか?」
「…………いいえ、心苦しい返事になりますが、死者に会うことは……出来ません。
それは、死者であっても例外ではありません」
「…………そうか。まあ、期待はしていなかった。
充分だ」
「ーーちょっと待ってもらえるかしら」
ここまで黙って俯いていた害獣が、割って入った。
「女神ルード、ワテクシからも質問したいのだけれど」
「はい、どうぞ。鬼瓦臣十郎さんの第二人格さん。」
「……やっぱり名前が無いのは不便ね……コホン。
つい一週間前、ワテクシの最後の家族が死んでしまったの。」
「……???は、はい。」
(鬼瓦臣十郎さんには家族がいないとたった今聞いたはずなのに……)
「源氏名はタマコ。
本名は丸砕五紅楼丸。
ワテクシの姉に当たるわ。タマコ姉さんがどういう道を選んだのか、教えて貰えるかしら?」
「ごめんなさい。教えることは出来ません。」
「何故かしら?死んだ家族の逝き先すら、知ることは出来ないの?」
「…………この幕間の間は、最後の選択の場所です。それは、選択するご本人が、選択しなければなりません。
他の方の選んだ道を知ることは、選択者の決断を大きく変える可能性が生まれることです。
なので、私から伝えることは、出来ません。」
「…………そう。分かったわ。」
「それでは、最後の審判です。
鬼瓦臣十郎さんの行いを裁定し、相応しき門を開きます。」
グラグラと地面が揺れ始め、草原の大地から、岩を掘り出したような門が現れる。
それはまるで西洋の墓石のように丸みを帯びた物。
両刃剣のレリーフが彫り込まれている。
そこから一つ、一つ。
値踏みするように、あるいはもったい付けるかのように門が生えてくる。
やがて、四つの門が出現し切ったところで、揺れは治まった。
「これらは貴方の魂を導く四つの門。
それぞれが、それぞれの世界と繋がる、転生の門です。」
門の上には映像が映る。
世界の様子だろうか。
「剣のレリーフは闘いの世界。
文明レベルは中世世代。エルフや魔物。更には精霊が存在する世界です。
人の命が最も多く失われるために、最も多くの人の前に現れる転生の門の一つです。」
却下だな。地獄は会社で見慣れたが、好き好んで選ぶ愛着は絶無だ。チリ一つ無い。
「その隣ーー賽のレリーフは博打の世界。
文明レベルは貴方の住んでいた時代に近いです。
政治がダイスで決められ、極少数の人間には悪魔と契約する事で勝者となる者がいるようです。
ただし、対価は魂なので、契約者は幕間の間には決して戻れません。実質最期の世界となります。
なお、博打が出来ない者や怖じ気づいた者は奴隷として売り買いされています。」
却下だ。奴隷は会社でやり慣れたが、好き好んで堕ちる身分では無い。ドMじゃあるまいに。
「獣のレリーフは獣の楽園。
獣人が多く居て、世界全域に豊かな恵みがある素晴らしい世界です。
文明レベルは原始時代ですので、日の出と共に起きて日暮れと共に眠るようです。
平和な世界ですが、稀に異世界から侵略者が来るので、戦闘訓練をすることを推奨されています。」
却下。時間外労働は会社で来世分やったつもりだ。
死んでまでさせられてはたまらない。
「時計のレリーフ。これは珍しいですね。
ここは『止まった世界』です。
限りなく『何か』を積み上げた者が集う場所です。
詳細は明かされませんが、主に『不幸』な人間が多く在住しています。ただ、才能溢れる者が多いので、競い合うことが好きな人には良い場所と言えるのかもしれません」
「…………よく分からないな。
止まった世界とは何が止まったんだ?」
「それが……私にも分からないんです。現住民ですら自分達の世界が止まった世界である認識もありません。
ほんの極少数の人は、世界の謎を追っているようなのですが……」
「ふむ…………。」
結論から言う。碌な者が無い。
「これで全部か?」
「はい。これが臣十郎さんの選べる進路です。」
「どれも嫌だと言ったらどうなる?」
「臣十郎さんの場合は、天国で過ごしていただく道が残ります。」
「天国か」
どんなものか分からんが、他の道は形は違えど社畜時代と変わらない過ごし方をすることになりそうだ。
なら、もういっそ…………。
「ダーリン!!あれを見て!!!」
「む?」
それまで大人しかった害獣がまた騒ぎ出す。短い静寂だった。
「あの剣のレリーフの世界!女の子が魔物に襲われてるの!!!」
「………………。」
だからどうだと言うんだ。死人の身で。
「ちょっと女神ルード!!貴女は女神なんでしょう?彼女たちを助けなくていいの!!?」
俯く女神。心苦しそうにしている。何か痛いところを突かれたようだ。
「……私たちは、世界の住人に干渉出来る力はありません。
助けては……あげられないんです。」
それはそうだろう。死後の進路を管轄とする女神が逐一幾つもの世界の星の数ほどの命に手を貸していたら、日本人も真っ青のブラック労働量だ。
「……カミサマが、人を救うなんて、ありえないことだ。」
「……っっ!!」
ポツリと呟いた自分の言葉に、女神はショックを受けているようだ。
「星の数ほどの命。塵芥に等しい価値。いずれ死ぬ者。
わざわざ手を貸す意味も無い。
所詮は他人事だ。」
…………初めて、俺はアイツに向き合った。
「自分は天国へ行くが、貴様は?」
「…………そうね。カミサマが助けてくれるなんて期待しない。
それはママとも約束したことだった。
ワテクシとしたことが愚かだったわ。」
「「ママとのお約束第一条。
カミサマなんて、期待しない。」」
「ワテクシはワテクシの、信念とママとの約束の為に……この剣のレリーフの門を潜って、今襲われている彼女たちを助けてくるわ!!」
「好きにしろ。もうお互い他人だ。」
「そんなこと無いわよ。だってママとの約束を覚えてたんだもの!!
だから行って来まーす!!!!」
剣のレリーフの門の中に入り、アイツはまた、己以外の誰かのために生き方を決めた。
「…………だから、貴様は害獣だと言うのだ。」
転生しました。