はた迷惑な秘密を払って、やがて男は|感謝《よろこぶ》の
転生や転移の前の神様との邂逅フェイズ入りまーす
大切な人たちがいた。
自分の人生を失うことなど、怖くなかった。
我が輩はヒトである。名前は、要らない。
『名前は?なんて言うんだい、坊や。』
『あら、お名前が無いの?それは大変ね。
いいこと?坊や。お名前が無いとね、免許も保険証も作れないわ。
そうなるとレンタルショップでエロビを借りることも出来ないからとっても高く付くの。
お名前はね、割引券なのよ?』
こんな風に名前の有難みを教わるハメになったのが、あの害獣が生まれた理由なのだろう。
おかげで自分は、生涯に渡り秘密を抱えて生きるハメになった。
拝啓、地獄へ堕ちたであろう乳母様へ。
これからそちらへ逝きます。なので
自分の人生に余計な秘密を背負わせたその顔面を一発殴らせて下さい。
墓まで秘密を持ってった男の反動英雄譚
すっと目が覚めた。
そこは見知らぬ空間だ。暗いし何やら胡散臭い占いの館のような場所。
「………どこだ。ここは」
ぽつり呟く。
「さあねぇ…ワテクシにもさっぱりだわ~」
「ーー!!??」
「え??」
隣に視線を向けると、そこにはサラサラと流れる長い金髪の少女が立っていた。
「…………お前は誰だ?」
「えええええええーーー!!!!?
そんなバカな!!何でアータとガチで向かい合ってんのよ!!?」
目の前の少女は、まるで自分が秘密にしていたアレと同じ口調、テンションで話している。
「……まさか、そんなことがあってたまるものか」
「凄いわ!!これは夢?魔法?奇跡?
そんな非現実的なことが起こるなんて!!!
でもワテクシ、一度は向かい合って話してみたかったのよね~~!!!」
自分の絶望感を他所に、コレは心底嬉しそうに抱きついて頬を擦りつけてくる。
「……止めろ、害獣」
「が……害獣!??
う……うそ…ワテクシ、そんな風に思われてたの……??
マジかよもう死にそう」
この無駄なテンション。オーバーリアクション。
そしてワテクシと言う一人称。
これは……間違いない。嫌、間違っていてくれ。
「ワテクシ……もう過去の女なのね………アータのピンチの度に戦闘に出てた尽くす系だったのに」
目に涙を溜めて上目遣いでこちらを見るな。心底怖気が走る。
そもそも、何故こんな状況で平常運転でいられるのか。理解に苦しむ。
する気も無いが。
「そろそろお互いのお話は済みましたか?」
「む?」
「ーーっ!!誰!?」
何処からか、声がした。
害獣は自分を背に隠して前に出る。背が低すぎて全く隠れていないが。
目の前に光の柱が現れた。
「初めまして。鬼瓦臣十郎さん。
貴方は先ほど亡くなりまし……た??」
突然現れた光から出てきたのは、青い髪の少女。
だが、唐突に目を見開いて言葉を失った。
その視線は、目の前の害獣に向けられている。
「あの、どちらさまですか?」
「貴方がどちら様よ!!!」
珍しい。害獣が真っ当な言葉を口にするとは。
「えっと……鬼瓦臣十郎さんは……貴女ですか?」
「イエスでありNOよ!!!」
「えええええー……一体どういうことなの~??」
何が起きたのか分からないと言う風に頭を抱えた少女は、どこからか取り出した分厚いファイルをめくり始めた。
「…………ふむ。」
辺りを見回しても出口も無い。
どこかに移動も出来ない以上、やることもない。
少女がファイルを閲覧している間に、少し状況を整理しよう。
自分の置かれている状況を把握しよう。
まずは服装だが、上半身半裸。下はパンツ。通報物の姿だが、身長198㎝体重80㎏の肉体にはやけにマッチしている。骨格が逆三角形である点や、体脂肪率が5%を切った体格であるところが、ボディービル大会でお馴染みの雰囲気を出しているのかもしれない。
次に、目の前の害獣だ。
何故か死ぬ寸前まで自分と寸分違わない姿だったハズのコレは、髪を梳けばサラサラと流れそうな金糸のような金髪の少女になっている。
自分と対比してみて、身長は150㎝から160㎝に満たないくらいだろうか。
少女がファイルを読み始めてからも警戒を解かずにいる。
こちらも何故か。服装まで変わっている。
と言っても安物の白いシャツとジーパンだが。
自分の筋骨隆々な肉体とは対照的に、健康的な女性らしさが全面に出ている身体にはやはりマッチしている。
「ちょっと?ねえ、ダーリン聞いてるの?」
「……む?ダーリン?」
「ワテクシのおニューのボディーに見取れるのは良いとして、この状況の把握は済んでいるのかしら?
ママにも散々たたき込まれたでしょう?お尻と一緒に。」
「何より害獣と面と向かっての会話の違和感が酷いな。」
「害獣って呼ばないで頂戴!!!!
ワテクシはーーって……今のワテクシの名前って……??」
「…………。」
知らん。
「困ったわ!!!せっかく自由な身体があっても、これじゃあレンタルショップでハードSM男優系AVも借りれないじゃないの!!」
「…………貴様の趣味のせいで自分は行きつけのショップでハードSM系のAVを好むゲイ扱いなのだが?」
「いい加減目覚めなさいな。」
「…………そんなもの目覚めるくらいならば喜んで永眠する。
…………そうだ。あの後意識が遠のいたんだ……そして」
思い出す。目の前の少女の言葉。
『貴方は亡くなりました』
なるほど。
「………失礼、ご婦人。
ここはもしや、死後の世界ですか?」
ぱたん。
開いていたファイルを閉じた少女は、自分の方を見る。
「はい。その通りです。
ようやく貴方の人生を閲覧しました。
改めて。初めまして、鬼瓦臣十郎さん。
私はここ、幕間の女神。ルードと申します。
そして、今一度確認します。
鬼瓦臣十郎さん。貴方は先ほど、亡くなりました。」
少し気の毒そうに語った女神ーールードは再度、害獣に目を向ける。
「そして、そこの貴女は……
鬼瓦臣十郎さんの第二の人格ですね。」
害獣はさらりと自身の金髪を払うと、害獣ははっきり宣言する。
「その通り!!ワテクシはダーリンの、学名“解離性同一性“により誕生した、現実逃避の結晶よ!!!!」
「…………ふん。」
現実逃避は否定しないがな。
今さらだが、やはりこいつは、自分の別人格だったか。
「………何故この害獣が身体を?
多重人格には良くあるのか?」
女神に状況説明を求めようとすると、突然害獣が布越しに自分の菊門に指を添えて言った。
「次に害獣って呼んだら、穿るわよ?」
「制御不能の害有る獣を他にどう呼称する」
「それはそれよ。仮にも守ってきた相手に害獣呼ばわりされる方の身にもなりなさいな。」
「お二人とも。ケンカは止めてください。
ではまず、そちらの第二の人格の方の名前を決めませんか?
正直に申し上げて、多重人格の方の別人格が別種の肉体を持って主人格から解離した例はありません。
なので、彼女が貴方に戻るか、このままなのかは、私にも分かりかねます。すみません。」
害獣の指を払い、距離を置いて女神の方へ向く。
「戻す必要は無い。厄介払い出来るなら感謝するくらいだ。」
「………………っ…」
害獣は俯くと、黙ってそっぽを向いた。
「本当に宜しいんですか?臣十郎さん。」
「ああ。生前はあんなはた迷惑な秘密を抱えて生きていたからな。死後、厄介払いが出来るなら感謝するくらいだ。。
ところで、話を戻して良いだろうか。
そも、ここは何をする場所なのか?」
「……………ここは、死後の進路を決める場所ですよ。」
邂逅フェイズまさかの2話続投。長い