働き疲れるまで働いて、やがてオネエは|永眠《ねむる》のよ……
視聴者厳選後、それでも読みたい者だけ来るが良い。
カシュッーー!
ゴクゴクゴク……っっ!!
キンキンに冷えた缶ビールが小気味良く音を立てる。
予め冷やしておいたグラスに氷と共に注ぎ込み、喉を鳴らして飲み干す。
「グアアアァァーーっっ!!」
午後三時以降水一滴として摂取することを禁じた乾いた胃にもたらされた潤いが、私の凝り固まった神経とサラリーマンとしての貌を崩した。
「ーーアアアアアアーー!!!胃に染みる!!
これこそが酒!これこそが人生の唄!!これこそがワテクシの真の姿ッッ!!!」
自らを戒める鎖を緩め、己を殺す忌まわしき枷を脱ぎ捨てる!
「さあー始めますわよ!!!世界で1番大切な時間!!生存を謳歌する命の洗濯!!すなわち……
男優のまぐわい鑑賞&酒盛り!!!!」
「今宵で齢は35!!なれど気持ちは15の乙女!!
サラリーマンなどかったりいいぃぃーー!!
ワ テ ク シ は 飲むわよぉーーーー!!!!」
………自分の名前は鬼瓦 臣十郎。新潟県出身のサラリーマンだ。
この夜分遅くに近所迷惑が服着て…いや、全裸なのだが。
とにかく騒がしい女言葉の男が自分だ。
ご近所の皆様にはお詫びのしようも無いが、この時の自分は、久しぶりの休日に歓喜し、服と一緒にモラルと常識も脱ぎ去っていた。
安アパートの2階。穴と錆だらけの階段を慣れた足取りで上り、部屋に帰った自分は、半年ぶりの自宅風呂で身体を洗い、一昨年から気に入り箱買いした明るい桃色のグロスを付ける。
すると……
「ワテクシの出来上がりなのおおおーー!!!!
出来たて~~!!」
この害獣の出来上がりだ。
今こうして客観的な観点で見ると本当に酷いものだ。
だが一言だけ言い訳を聞いてください。
自分は明日、この世を去ります。
1年振りの休日の零時に。
害獣の自分が、ふと元の理性を宿した目に戻る。
視線の先には、あの人の写真。
「…………ゴメンね。ママ。貴女がこの世を去って、ワテクシ達のお店を守れなかったあの日から10年。必死に生きてきました。
一日27時間労働の会社も、年休0.5日の日々も苦じゃ無い位、ママと、お店の大好きな………大々、大ッッッッッ好きな……っっ!!!!!《《家族》》達との想い出が有ったから、ワテクシは生きて来れたの。
お店でスイーツを作っていたあの日々が還ってくるなら、二度とお酒が飲めなくても気にならないくらい……ワテクシ…………」
ブー!ブー!ブー!!
スマホに着信が入った。
「……………お疲れ様です。鬼瓦です。」
「あー鬼瓦くんか~」
部長だ。
「……はい。何かトラブルがありましたか?」
「いや、トラブルじゃないから心配はいらんよ。ただ、ワシ明日急に外部に用が入ってな。任せられるのが鬼瓦くんだけになってしまったのよ。
そんなわけだから、残念やが明日の休みは無しの方向で。そんだけだよ。じゃっ。
ツーツーツー。」
切れた。スマホを横に置く。もう不要だ。
写真を手に。命より大切だ。
「ゴメンね。ママ。話の途中に。
それでね、ママ。予定が今日にズレちゃったけど、もう、良いわよね……昨日、最後の家族が貴女の元へ向かいました。
だから………最初くらい、顎が外れるくらい引っぱたかれても良いから。
静音ママ…………。
ワテクシも……貴女の声を聞きに逝っても……………良いですか。
その後で…………『頑張ったね』って抱きしめて貰えますか?
会いに行って…………声を……聞かせ……て…………」
自分の肉体が、力無く倒れる。
吐瀉物で写真を汚さないように、抱いて。
鬼瓦 臣十郎は現世を去る。
享年37歳。1月1日、午前零時。
死因、急性アルコール中毒。
この物語はフィクションです。
あと異世界物です