92、敵意と決別
●【No.092】●
この "バイオメドリグス" の国の "女尊男卑の町" の教会内部で、勇者ポグルスと魔悪死ホワイト使いが対面・対峙する。 かつて塔・ダンジョンでは一時的だが仲間になって、彼と共闘し、ダンジョン内にいたモンスターと戦った。 その後もダンジョン内のモンスターやボスを倒してきたけれど、結局は中ボスとの戦いで彼は戦死した。 その為、彼のために集まった仲間モンスターも散り散りになった。 今でも彼のことを覚えているのか、どうかは解らないけど、世界の各地に散らばっていたはずだった。 それなのに―――
礼拝堂で勇者ポグルスと魔悪死ホワイト使いが近距離で向かい合い話す。
「久しぶりだな……魔悪死ホワイト使いよ」
「ば……バカなぁ!? お主は死んだ……はずだっ!?」
「いかにも、俺はあの時……死んだよ…」
「それでは何故……ここにいる!?」
「ふっ、それは俺がここに転生させられたからだ」
「……転生……だとぉ!?」
「そうだ!」
「……うっ、転生……」
―――転生!?
では…彼もマイカさんみたいに、異世界転生して、この世界に来たってことかっ!?
金縛りにあい、マトオの身体は動けないので、心の中でそう思った。 それから勇者マイカたちは、未だに熟睡している。
「聞かせてほしいものだな。 お前もここに何の用で来た?」
「……うっ、それは……」
「ふっ、まさかだと思うけど、実はカラスクイーンアテナは俺がここにいることも既に知っているのではないか?」
「何っ!?」
「だから、本来なら世界のあちこちに散らばっているはずの俺のかつての仲間を集めて、俺への記憶も復活させた。 俺への動揺を誘うために……な!」
「!」
「そうでないと、昨夜のエロ=ルーラー・レジェンドに続いて、お前もここに来た説明がつかない。 あのカラスクイーンアテナはマイカやマトオだけでなく、このポグルスも既に知っていたのだよ。」
「うっ!」
「やっぱり、彼女は勇者を探知できる能力を持っているのか?」
「何故、それをっ!?」
ハッとした魔悪死ホワイト使いが、思わず手で口を押さえる。
―――何っ!?
勇者を探知できる能力だとっ!?
もし、それが本当なら、マイカさんや俺の居場所や行動も、あのカラスクイーンアテナには筒抜けなのかっ!?
「お前もやっぱり勇者マイカ狙いなのか?」
「何っ!?」
「さっき言ってたじゃないか?」
『なるほど、ここか?』
『確かに、女がたくさんいるな。
これなら何も問題ない。 男も一人交じっているようだが……まぁ…問題なかろうて』
『男は要らん!
必要なのは、女のみ!
この七人の女は…ワシが貰っていくぞ!』
「―――って」
「……うっ、そこまで……」
確かに、あのモンスターはそんなことを言っていたな。
それなら勇者ポグルスは、それ以前にはもうここにいたことになる。
だが気配はまるで感じなかったぞ。
一体どうやって隠れていたんだ?
いや、今はそんなことはどうでもいい。
今のうちに、俺が起きてる間に、この二人のやり取りだけは聞いておかないと…。
マトオが金縛りと気絶に必死になって闘いながら、なんとか意識を保ちつつある中、まだ勇者ポグルスと魔悪死ホワイト使いの話し合いは続いていた。
「それでも!
かつての同士に訴える! 今夜は退いてくれないか!」
「残念ながら、それはできん!
お主もここから立ち去れ! お主も関係なかろうて!」
「俺の目的はあくまでカラスクイーンアテナを倒すことだ! その為には、どうしても勇者マイカの力が必要なのだ!」
「何っ!? カラスクイーンアテナ様を倒すだとっ!? 愚かなぁ!? そんなことは絶対にさせんぞ! 愚かなり勇者ポグルスよ! 貴様はワシが倒す!」
「貴様こそ、愚か者めが! 今こそ、この勇者ポグルスがカラスクイーンアテナなど不要だと、知らしめてやるぞぉーーーっ!!」
「ふざけるなぁぁぁぁーーーーっ!!」
二人ともやる気だ。
ここで遂に教会の礼拝堂の中で、深夜の戦闘が開始されるのかっ!?
だがしかし、果たして魔悪死ホワイト使いは勇者ポグルスに勝利できるのか? 実力的には勇者ポグルスの方が遥かに上。 魔悪死ホワイト使いに何か勝算があるというのかっ!?
━━[戦闘を割愛]━━
気づいた時には、魔悪死ホワイト使いはうつ伏せで倒れていて、そのすぐ背後には、勇者ポグルスが無表情で立っていた。 もう既に勝負は決していたようだ。 基本的に魔悪死ホワイト使いは魔法使いタイプなので、中・遠距離からの魔法の攻撃がメインであり、接近戦の肉弾戦は不得意である。 その為、建物内部からの接近戦に強い勇者ポグルスには、とても敵わなかったみたいだ。
苦痛に満ちた表情で、うつ伏せに倒れてる。
「クソッ、強い! なんという強さだ!
以前よりも強くなっているぞ!」
「さすがに俺でもキミ程度なら負けないよ。
伊達に勇者は名乗っていないからね。」
「クソッ、そんなぁ……っ!?」
「俺は自分の生存・存在を賭けて、任務を遂行している。 今まで失敗したことは、一度もない。 俺にとって失敗は死・消滅を意味することだからね。」
「ふん、そんなこと…ワシには関係ないことだ。 そのまま消滅してしまえばいいのだ…」
「そうか、それならカラスクイーンアテナに言っておけ。 勇者マイカが必ずお前を倒す。 誰にも邪魔はさせない…とな…」
「何っ!? ワシを見逃すというのかっ!?」
「さすがの俺でも戦友で仲間をすぐ倒すことはできないからな。 今は敵になっても…」
「ワシを見逃したこと、後悔するぞ!」
「そうかもな。 だが…悪いのは、全てカラスクイーンアテナなのだから、仕方のないことさ。」
「くっ!」
シュッ、シュッ!
うつ伏せのまま、姿を消した魔悪死ホワイト使い。 それを黙って見逃す勇者ポグルスもまた、それ以上は何も言わず、姿を消した。 また勇者マトオの方は、もう既に意識を失い気絶していた。 勿論、勇者マイカたち女性七人はまだ熟睡している。




