90、苦悩と覚悟
●【No.090】●
不思議な国… "バイオメドリグス" の国の "女尊男卑の町" の教会内部で、勇者ポグルスとエロ=ルーラー・レジェンドが対面・対峙する。 かつて塔・ダンジョンで一時的だが仲間になって、彼と共闘し、ダンジョン内にいたモンスターやボスと戦ったことがある。 その後もダンジョン内のモンスターとボスを倒してきたけれど、結局は中ボスとの戦いで彼は戦死した。 彼のために集まった仲間モンスターも散り散りになった。 今でも彼のことを覚えているのか、どうかは解らないけど、世界の各地に散らばったと思われる。
礼拝堂で勇者ポグルスとエロ=ルーラー・レジェンドが近距離で向かい合い話す。
「久しぶりだね。
エロ=ルーラー・レジェンドよ」
「あぁ…勇者ポグルスも久しぶりですな」
「ああ、そうだね。
まさか…こんな所で会うとは……ね?」
「あぁ…まったくですな。
まさか…まだ生きていたとは……?」
「否、俺は既に死んでいる…」
「?」
「俺は死んで復活した…」
「えっ!?」
「俺は新たに転生したのさ…」
「転生……だと?」
「そういうお前こそ、何故ここにいる?」
「……」
「どうやって、この国に来たんだ?」
「……」
「どうした? 何故…無口になる?」
「……うっ…」
ポグルスの質問には、一切答えないエロ=ルーラー・レジェンドだが、なんだか少し不公平すぎないか? そこからポグルスが、さらに畳み掛ける。
「お前…さっき言ってたね?」
「?」
『この教会に大量の女が迷い込んで来るとは…? しかも、今夜は満月…。 このエロ=ルーラー・レジェンド様が活発になれる時間帯…。 これほどの強力な女共を操れれば、我が大願…成就するかもな…』と―――
「!?」
「お前は…独り言を言いながら、眠ってる彼女たちの所まで歩いて近づいてたね?」
「……」
『満月の夜の教会はよく眠れる。 何故、こんな所に教会などがあると思う? それはカラスクイーンアテナ様がこのエロ=ルーラー・レジェンド様のために作って下さったからだ。 そう…女を操れ……』と―――
「……」
「そこも黙りかい?」
「……」
「俺の耳が節穴でなければ、確かにそう聞こえたね?」
「……うっ!」
「残念ながら俺はしっかりと聞いてたよ?」
「……くっ!」
「俺は…あのカラスクイーンアテナを倒しに来たんだよ?」
「な…何ぃっ!?」
「俺には…あのカラスクイーンアテナを倒すことはできない。 けど…その勇者マイカたちなら…必ずあのカラスクイーンアテナを倒すこともできるだろ?」
「な…なんだとっ!?」
「俺は…そのために復活したんだよ」
「そ…そんなぁ……」
前世の戦闘で、無念ながら死んだ彼。
死後の世界で、女神ベルダルディアの依頼によりポグルスは、あのカラスクイーンアテナ打倒と引き換えに転生した。 そのため彼はマイカたちが、あのカラスクイーンアテナを倒すところを見届ける義務と責任がある。 つまり、いかに前世からの仲間モンスターであるエロ=ルーラー・レジェンドでも、それを邪魔する奴は容赦しないのだ。 ポグルスは転生するたびに、依頼された任務を遂行してきた。 だから失敗は許されない。 自分の存在を存続させるためにも―――
[この勇者ポグルスを存続させるために!]
「俺には失敗は許されない!
俺には命を懸ける覚悟がある」
「もし、カラスクイーンアテナ様の打倒に失敗したら、あんたは一体どうなる?」
[もし失敗したら…俺は消滅する?]
「へぇ~、俺の心配してくれるのか?
意外に優しいな?
だけど…お前も自分の目的を果たすためには、この俺や勇者マイカたちを倒すしかないよね?」
「……」
「俺は…お前の攻撃方法や弱点も知ってる。
俺は…お前を倒すつもりでいる。 ここだけは譲るわけにはいかないよ。」
「……」
「お前こそ、どうするつもりだ?」
「!」
「この俺と戦うつもりなのか?」
「……」
確かに…今のままでは、あのポグルスには勝てないだろう。
エロ=ルーラー・レジェンドの最大の持ち味は女性を操ること。
しかも、仮に女性が熟睡しても問題なく、むしろ熟睡している状態の女性であるならば、相手の強さに関係なく、指定した女性を操作することが容易にできるはず。 だけど…相手はあの勇者ポグルス……彼には恩義があり、モンスターでありながらも、仲間として受け入れてくれた……貴重な存在。 できれば敵対したくはない。 モンスターでありながらも、自分を拾ってくれたカラスクイーンアテナへの忠誠心と、仲間として受け入れてくれたポグルスへの男気と恩義の板挟みとなったエロ=ルーラー・レジェンド。
「……」
鬼気迫るものがある。
まさに覚悟を決めたポグルスの気迫に圧倒されるエロ=ルーラー・レジェンド。 こういう相手は、そう簡単に倒すことはできない。 この命を懸ける覚悟をした男に、生半可な攻撃は通用しない。 苦悩するエロ=ルーラー・レジェンドが散々悩んだ末に出した結論。
[そもそもモンスターが苦悩するのか?]
「わかった……今回だけは…このまま退こう」
「!」
「我は…あんたと戦うつもりはない…。
我は一度退却して、作戦を練り直してから、改めて行動に移す。」
「そうか……感謝するよ……」
「だが…次はないぞ…」
「…あぁ…」
スゥーーーッ!
そう言ってエロ=ルーラー・レジェンドの姿が消えた。
やっぱり主君よりも友情を選んだ。 どんなモノでも一度受けた恩は忘れない。 あの時の行動は間違いではなかったのだ。 とりあえずは勇者ポグルスの……否、勇者マイカたちの危機は回避された。 もし、ここに彼が来なかったら―――おそらくエライことになっていたかもしれない…な。 [あの最強無双の勇者マイカがモンスターなどに操られる] その最悪の事態だけは、どうにか避けられたようだ。 熟睡しているとはいえ、知らぬ間に彼女たちの恩人となったポグルス。
「ふーーう、助かった…」
シュッ!
その彼も彼女たちが目覚める前に、ここから姿を消した。 相変わらずマイカたちは熟睡したままだった。




