87、森の宿屋と受付の男
●【No.087】●
勇者マイカたち『ブラックファントム』と勇者マトオたち『セックス・ハーレム・ナイトメア』は、"バイオメドリグス" の国の "SMエロスの町" から北側にあるという街に向かった。 それとモンスターの【デスキラー・シャ】は、またこの国の上空で待機する。
私たちが次の街を目指して北へ歩く。
「あら?」
「おや?」
「おお?」
「「「あっ!」」」
「「「……」」」
しばらく歩いていくと、その途中の道の左側に、"森の宿屋" を発見する。 ここ最近できた宿屋らしい。
「あら、なんで…こんな所に宿屋があるのかしら?」
「確かに、そうですね?」
「はて、なんででしょうか?」
「さぁ?」
「「「?」」」
おかしな場所に宿屋がある。
先程いた "SMエロスの町" にも、これから行く街にも、宿屋はあるはず。 先程の街から北側にある街まで歩いても、約25分ぐらいで到着する距離。 ここに宿屋がある意味がない。 しかも、宿屋のすぐ後ろは森になってる。 なんでなのかしら? 一体誰が建てた宿屋なのかしら? 一体誰が宿泊するのかしら?
「……」
「「「…?」」」
不審に思いながらも、そのまま宿屋を通り過ぎて、北側にある街へ向かう。 そんな "森の宿屋" とは、意外と大きい二階建ての建物であり、宿泊部屋も複数あるちゃんとした宿屋なのよ。 森の手前にあるにしては、なかなかサマになってて、とても短期間で建てられたとは思えない造りよね?
北側にある街に到着する。
街の入口は、特に門や扉とかの遮断物はなく、普通に中に入れる。 ただし門番がいる。
私たちが街の入口に近づくと、
「ここは貴族の町だ。
貴族の爵位がないと入れないぞ。」
「あら、そうなの?」
「えっ、そうなんですか?」
「へぇ~、変わった街ですねぇ~」
「一応…私たちも貴族ですが…?」
「何っ、そうか?」
「わかった。 今…確認する…」
「「「……」」」
門番に呼び止められる。
なるほど…貴族の町だから、貴族しか入れない…か。
一応…私たちも貴族なんだけど…ね。
そこで門番が私たちの素性・身分を確認する。
少し待つと、門番がうんうん頷く。
どうやら私たちの身分に納得した様子。
「これは失礼しました。」
「皆さんの身分を確認しました。」
「皆さんもご自由に、この街に出入りできます。」
「ただし、あなただけは入れません。」
「えっ!?」
「「「!!?」」」
「男は入れません」
門番がマトオの方を指差して言う。
マトオをはじめ、彼の同伴のハーリルたちも驚く。
この街は "女性の貴族" だけしか入れない街のようね。 確かに、この街の女性の人口が圧倒的に多いわね。 あら…でも……少ないけど、男性も…あの街の中にいるのは…何故かしら……?
「ちょっと待て。
少ないけど、男も街の中に入っているぞ? それは一体どういう意味だ?」
「ああ、あれは隣を歩く女性の夫だよ。
この街は夫婦で妻同伴なら、男もこの街に入れるんだよ。」
「えっ!?」
「何っ、そうなのか?」
「へぇ~、本当に変わった街ねぇ~」
「「「……」」」
「悪いな。 この街の決まりなんでな」
「ちっ!」
「どうします? マイカさん」
「参ったわねぇ~、マトオ残して街に入る訳にもいかないしぃ~」
「ええ、確かに……そうですね」
「それは…よくないです!」
「「「うんうん、よくないです!」」」
「すみませんマイカさん。
俺のせいで……」
「いいのよマトオ。
一度、出直しましょうか」
「「「はい、判りました。」」」
「「「はい!」」」
ハーリルたち三人が激しく頷き、私の言葉に同調する。
マトオは謝罪してるけど、はっきり言ってマトオのせいじゃないわ。 この街のヘンテコなルールのせいよ。
だけど、マトオだけを残して街に入る訳にはいかないわね。 かと言って、強引に街に入る訳にもいかないわね。 これは困ったわ。 仕方ない……ここは出直すか……。
「いいわ。
途中にあった宿屋で一晩考えましょう。」
「「「はい、判りました。」」」
「「「はい!」」」
「それがいいと思います。」
「ありがとうございますマイカさん」
私たちは一旦引き返して、あの途中にあった "森の宿屋" に向かった。 何故、あんな所に宿屋があったのか、少しだけ判りかけてきたわ。 これは確かに需要がありそうね。 だけど、あそこに宿屋がある意味がまだ解らないわね? 私たちは門番と "女性の貴族の町" をあとにする。
すぐに "森の宿屋" に到着して、私たちはすぐ中に入る。 まさか…ここも女性しか入れないという訳ないよね? こんな "森の宿屋" では、私たちもマトオもすんなり入れた。
すぐ受付の男から、私たち『ブラックファントム』とマトオたち『セックス・ハーレム・ナイトメア』の宿泊部屋を二部屋に分けて頼んだ。 一部屋、四人で宿泊することになる。 それと受付の男が、私たちのことを一瞬だけ見ると、また目を逸らして手続きする。 私たちの宿泊部屋は、二階の角(森側)の二部屋が取れた。
なんで私たちのこと一瞬だけ見て、すぐに視線を逸らすのか、確かに不思議に思うけど、とりあえず…あの "女性の貴族の町" のことについて聞いてみた。
「聞きたいことがあるんだけど?」
「…なんです?」
「北にある街…なんで女性しか入れないの?」
「ああ、あの街は "女尊男卑の町" という。
この国の長は、あのカラスクイーンアテナだからな。 あの女の性格からして、女は重宝されて、男は軽蔑される。 あの街のさらに北にはカラスクイーンアテナの居城のある "クイーン・マン・デス" という街もあるから、あの街は特に厳重なのさ。」
「「「えっ!!?」」」
「……」
「女尊男卑の国……」
「そんな国が……?」
「男女平等なんて言葉は、この国には通用しないよ。
男はいつも兵士として扱われるものさ。」
「……」
「なんで結婚してる男はいいわけ?」
「ああ、一応は女の管理・監視下に置かれている男なので許されている。 他にも利用できる男は女同様に重宝される。 早い話、使える家畜は女同様に、ある程度この国で自由にできるのさ。」
「結婚が女の管理・監視下って認識なの?」
「男は家畜……?」
「これが…カラスクイーンアテナのやり方か……?」
「無茶苦茶ですね?」
「ええ、そうね…」
「ああ、そうだな。
あの [黒兵] は男ながらカラスクイーンアテナ直属の兵士として、ある程度は重宝されている。 通常兵士のような使い捨ての扱いを受けていない。」
「あら、そうなの?
私たちの所に来た奴らは、随分と雑に扱われていた感じだけど…?」
「ああ、ある程度は…な…」
「あれで…?」
「ちょっと悲惨…」
「……」
「ふ~ん、そうなのねぇ~」
「…質問は以上かい…?」
「あともうひとつあるわ。」
「…何か?」
あら、一瞬だけ私たちのことを見て、またすぐに視線を逸らしたわ。 あまりに一瞬だったので、私以外…誰も気づいていないようだけど…。 でも…なんでかしら…ね?
※[もう記憶した!]
「あの "女尊男卑の町" に入りたいんだけど、マトオだけが入れないの。 なんとかならないかしら?」
「……」
宿屋の受付の男に、こんな質問するのも変だけど、なんだか彼なら、なんとかしてくれそうな気がするわ。 そんな気がする。
「わかった。
それなら今日の深夜…月が真ん中に来た時、この宿屋の裏側…森に入る手前の所で、全員待っていてくれ。 俺が秘密の通路を案内してやる。」
「あら、方法があるの?」
でも…無料って訳でもないわよね?
「あんたを信用していいのか?」
「信用するか、しないかは、あんたたちの自由さ。
信用できる者だけでもいい。」
「……」
「わかったわ。
とりあえず今はあなたを信用するわ」
「仕方ないか…。 今は……」
「それでは、またあとで…な」
「ええ、わかったわ」
「「「はい」」」
「はい、判りました。」
「……」
私たちは受付の男をあとにして、それぞれ自分たちが宿泊する部屋へ行く。 その後で寛いだり、準備したり、休んだりして、それぞれ宿泊部屋で夜になるのを待った。




