78、SMエロスの町
●【No.078】●
ここは "バイオメドリグス" の国にて
勇者マイカたち『ブラックファントム』と勇者マトオたち『セックス・ハーレム・ナイトメア』の面々が、"ギルド冒険商" ならぬ "ギルド屋" の建物に来ていた。 あれこれ聞いてるうちに、禁忌の言葉である『聖女』が出てきた瞬間、まるで "待ってました!" と言わんばかりに、この国の兵士たちが建物の出入口の所で待ち構えていた。
「さぁ、おとなしく我々と一緒に来てもらおうか」
「ええ、いいわよ」
「はい、判りました。」
そこで私たち八人が、その兵士たちに連れていかれて街の奥まで行く。 街の奥へ行くと薄暗く細い路地裏があって、その路地裏を通り抜けると、また違う街が見えてきた。
「「「「……」」」」
「ふん、驚いたか?
これぞ、真の "バイオメドリグス" なのだ!」
「「「「?」」」」
「……真の?」
「ああ、そうだ。
さっきの街は、この街を隠すためのカムフラージュにすぎない。」
得意顔をした兵士の隊長格の男が自慢気に話す。
さっきの街とは違う。
さっきの街が華々しく賑やかな街なのに対して、こっちの街は本当にもの静かで暗い。 建物自体はさっきの街とほぼ同じ作りだけど、人通りに人はほとんど歩いておらず、まるでゴーストタウンみたいな所ね。 お店は開いてるけど、お客がほとんどマバラ……。 でも…なんでこんな薄暗く陰気な街を隠す必要があるのか? しかも、さっきの街が大きい故に、こちらの小さな街が外から見えない。
「「「「……」」」」
「ふん、驚いたか?
この街こそ、真の "SMエロスの町" なのだ!」
「… "SMエロスの町" …?」
「真の…?」
「ああ、そうだ。
何故、人が外に出ていないか、わかるか?」
「さぁ?」
「「「「?」」」」
「ふふふ、今にわかる」
私たち八人が、この街の周囲を見渡しながら兵士たちに連れてこられて、少し薄暗く陰気な街 "SMエロスの町" の中央にある広場へ向かった。
それにしても…ここでも "SMエロスの町" とはね? あの "SMエロスの塔" と何か関係あるのかしらね? あの "SMエロスの塔" もなかなか難しい所だったけど、この街も別の意味で、なかなか難しい所よね? 一体 "SMエロス" って、何の意味があるのかしらね?
そうこうしてるうちに、私たちを連れてきた兵士たちが広場で止まる。
「……」
「「「「?」」」」
「ふふふ、おい!」
「「「「!」」」」
すると…建物の物陰からたくさんの兵士が現れた。 なんと伏兵である。 私たちがいる広場を取り囲む兵士の数が、なんと約300人。 私たちを逃がさないように周囲を取り囲む。 ここで伏兵とは、なかなかヤるわね。
「何のつもりかしら?」
「ふん! 無論、貴様たちにはここで消えてもらうぞ!」
「ああ、そうだぜ!
ここがお前たちの墓場だ!」
「……」
案の定、ベタなセリフを吐く隊長さんとお仲間の兵士たち。
こいつら…私たちが一体どれだけ大量の敵を一度に相手してきたか、ホントに理解できているのかしらね? そうね、"SMエロスの塔" の大量モンスター共の戦闘に始まり、『邪惚教都』にいた盗賊共や地下にいる大量大型昆虫モンスター共も相手をして、終いには、アリスノヴァイン王国の国家転覆を狙う…たくさんの貴族・黒兵によるクーデター軍とも相手にしたわ。 もはやこの程度、驚かないわよ?
「一応…念のために聞くけど、何故かしら?
私たちが『聖女』について聞き回っているからかしら?」
「ふふふ、違うな。
貴様らが悪魔神復活を邪魔してるからだ!」
「あら、もしかして…あなたたちも悪魔神の信仰狂者なのかしら?」
「……」
「ふん、何とでも言えばいいさ。
我々はこの穢れた世界を消し飛ばす!」
「あのね、この世界には色んな種族の者たちが生きて暮らしているのよ?
人間だけじゃない。 魔族だって魔物だってエルフだってドワーフだってゴブリンだっているのよ?
他にも動物も植物もいる。 あなたたちだって家族はいるでしょ? それら全てが一瞬にしてあのバケモノに消されていくのよ? それでもいいのかしら?」
「ふん、我々には関係ないことだ!」
「そうだそうだ! 全部消えて無くなれ!」
「ははは、ザマァミロォーーッ!」
「「「「……」」」」
ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ―――
どうやらこいつらもイカれているわね。
呆れたわ。 ここまでマヌケだったとはね…。 こいつらはもう死亡確定ね。
でも意外な反応を見せる者たちもいた。
後ろの兵士たちがざわつき始めた。
まぁ…約300人もいるから、後ろの方にも兵士が当然いるけど、今の私の言葉を聞いて動揺し始めてる。 どうやら多少なりとも良心的な兵士もいるみたい。 良かったわ、ここにいる人間全てがイカれていたら、思わず人間不信になりそうな気がしたわ。
それなら、ここで一気に畳み掛けるわ。
「あなたたちのいう悪魔神が一体どういうヤツなのか知らないけど、そいつらを歴代の勇者たちが命を懸けて封印してきたからこそ、あなたたちは今こうして生きていられるのよ? もしそいつらを復活させたら、未来永劫…もう二度と人も生物も何もかも誕生しなくなるわ。 未来永劫…消え続けるのよ? それでもいいのかしら?」
「「「「……」」」」
「うるさい! 黙れ!」
「お喋りは終わりだ! 全員かかれ!」
「「「「……」」」」
「?」
「どうした? さっさとかかれ!」
ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ―――
隊長からの突撃命令が出た。
だけど、後ろの兵士たちが私たちに一切襲いかかってこない。 やっぱりね、ここにいる兵士たちにも家族や生活があるわ。 今を生きる者たちにとって、今の家族や生活は大切。 せっかく生まれてきた人生なんだから、精一杯…幸福を謳歌したいはずよ。 それが人間なのよ。
「どうした? 何故かからない?」
「まさか…今更怖じ気ついたか?」
「「「「……」」」」
「俺たちにも家族がいる。
守らなければならない家族が…!」
「そうだ! 俺にもついに娘が誕生したんだ!
とても可愛い赤ちゃんなんだ!」
「俺だって、ようやく妻と結婚して、幸せな家庭が築けるはずなんだ!」
「悪魔神なんかに俺たちの幸せを奪われてたまるか!」
「そうだそうだ! 勇者マイカ様だけがこの世界を救って下さるのだ!」
「な、何っ!?」
「「「!?」」」
ここに来て、形勢逆転。
やっぱり、幸せを願う人間にとって、『幸せになりたい』という欲は何よりも勝る欲である。 どっかの誰かも言ってたけど、お金も地位や名誉も結婚や子作りも、全ては幸福を得るための手段だと…。 それには職務も忠誠心も信仰心も勝てない。 誰だってみんな、自分の幸福を願っている。
「みんなぁーかかれ!」
「「「「おおーーっ!!」」」」
「「「「……」」」」
一気呵成に後ろの兵士たちが前にいる兵士たちや隊長に襲いかかる。 なんと兵士たちによる同士討ちである。 どさくさに紛れて後ろの兵士たちが前の兵士を隊長も含めて、10人ぐらい斬り殺されて討ち果たされた。 それを私たちが黙って見つめている。
どうやら悪魔神復活の信仰狂者の10人が討ち果たされると、残った290人が私たちの前まで来て跪く。 それにしても少ないわね。 悪魔神復活の信仰狂者の数も…。 また跪いた兵士の中には…涙する者もいた。
「お待ちしておりました…勇者マイカ様…」
「どうか我々をお導き下さい…」
「我らを存分にお使い下さい…」
「いいわ、それなら聞かせてもらおうかしら?
この国の事や『聖女』の事について…」
「はい、判りました。 勇者様…」
彼らにとって、私たち八人が『絶望の闇』から救う『希望の光』の救世主に見えた…みたい。 まぁ…私たちは全身黒いけど…。
いずれにしても、私たちは "この国の兵士" という強力な味方をつけることができた。
([答])
伏兵を置くため、街に人がいない。
また伏兵を隠すために街自体を暗くする。
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