51、地下階段の恐怖
さすがに機転が利くマイカのとっさの判断で、とりあえず難は逃れた。
●【No.051】●
勇者マイカたち『ブラックファントム』の面々と、勇者マトオたち『セックス・ハーレム・ナイトメア』の面々に、王都 "プリデミア" から調査派遣された王護聖騎士の三人&歩兵団30人は、現在荒れ果てた『邪惚教都』の地にいた。
この廃墟と化したこの地に、まだ何かないか手分けして探していた歩兵団の何人かが、そこで何かを見つけていて騒いでいる。
その中の一人が王護聖騎士の三人の所まで駆け寄って報告する。
「申し上げます!
地下に通じる階段を発見しました!」
「「「「!!?」」」」
ここで勇者マトオたち四人が驚愕する。
「「「「!!?」」」」
勿論、その報告を聞いた私たち四人も驚愕する。
私たち八人があれほど、この周辺を探したのに、特に何も見つけられなかったのに、ここに来たばかりの歩兵団が、すぐに地下に通じる階段を発見したからだ。
「それは一体どういうことなんだっ!?
一体どうやって見つけたのだっ!?」
「はっ、それが……発見した者は突然……階段を見つけたと……」
「な、なんだとぉ!?」
「そんなバカなぁ!?」
「はぁ? なんで?」
するとここでミドリが言った。
「あれ、そういえばマイカが倒したあのオークの死骸はどこ行ったの?」
「えっ!!?」
「うっ!!?」
「あっ!!?」
そのミドリの発言に、私たちは驚いた。
確かに、私が倒したオークの死骸も消えていた。
「一体どういうことなの?」
「ボクにも解らないけど、どうやらあのオーク…ただのイレモノだったみたいだね」
「ただのイレモノ……?」
「うん、もしホンモノのオークだったら―――」
「―――もっと強いはずだった……?」
まぁ確かに、あのオークは特に何もしてこなかった。
というよりも、私が何もさせなかったけど……?
あのオークは弱い部類のオークだったから……?
それとも別の何かが―――
「おそらく、何かを入れる器だった……とか……?」
「………」
「……器……」
何かを入れる器……?
もしかして、あのオークの中に、何かが入っていたってこと……?
でも、一体何が入っていたのかしら……?
「それと兵士が発見した地下階段と、一体何が関係あるんです?」
そこに今までの会話についていけてない王護聖騎士の一人が、理解できないまま私やミドリに質問を投げかけた。
「だから、あのオークの中にいたヤツがいなくなったから、あの地下階段が出現したってことだよ。 その証拠にマイカがあのオークを倒した時点では、あのオークの死骸はまだ消滅していなかった。 おそらく、中から出てきたそいつに完全にとどめを刺されて消滅したから…ってことだと思うよ。」
「まぁ……あのオークが消えたから、あの地下階段が出現したかも……っていう憶測の域を出ないんだけどね」
「な、なるほど……そういうことですか……」
「いずれにして……あの地下階段は調査する必要がありますね」
「よし、まずは歩兵団に行かせましょう。 すぐに部隊を編成します」
まずは歩兵団の中から10人を選抜して、王護聖騎士の一人をその選抜部隊のリーダーとして、選抜部隊11人で地下階段を降りることにした。
地下調査・選抜部隊11人が地下階段を降りていき、しばらく時間が経過した。
だが…誰も戻ってこない。
「……?」
「一体どうしたというんだ?」
「中で何かあったのか?」
心配する兵士たち。
そこに私とマトオが、地下階段の方を見て、何か異変に気づく。
「―――ん?」
「あら……?」
すると、そこに一人の兵士が全身ボロボロの血まみれ状態で、命からがら階段の一番上まで這いずって登ってきて、そこでうつ伏せに倒れた。
ドサァッ!
「う……う……う……」
待機していた残りの兵士たちが慌てた様子で、その倒れた兵士の所まで駆け寄って、その内の一人が倒れた兵士を抱き抱える。
「おい、一体どうしたんだ?」
「な……中に入ったら……ダメだ……。
ち……地下には……モンスターやトラップがいっぱいで……先へは進めない……」
「他の奴らはどうしたんだ?」
「ち……地下で……モンスターと戦ってる……ガバッ!」
「あっ……」
その倒れた兵士は吐血して、そのまま息を引き取った。
「あっ……あっ……」
「な、なんとっ!?
こんなことが……っ!?」
「す、すぐに残りの者たちも助けに行きましょう!」
「地下へ援軍を送りましょう! 隊長!」
「よし、全部隊! 地下へ!」
「よし、進め! 仲間を救い出せぇ!」
「「!!?」」
「ちょっと待ちなさい!」
「……行ってしまった……」
今度は歩兵団20人と王護聖騎士の二人が、すぐに地下階段を降りる。 半ば特攻気味の歩兵団と王護聖騎士の全員は、私たちが止める間もなく、そのまま素早く階段を降りてしまった。 その後に地下の方では、すぐに騎士・兵士たちの悲鳴や断末魔が聞こえてきて、またすぐに何も聞こえなくなった。 おそらくは、残念だけど全滅したわね。
「「!!?」」
その代わりに不気味な音が聞こえてきた。
ガサガサガサッ、ガサガサガサッ!!
「……ん?」
「えっ、何の音?」
「こっちに向かってくる?」
ガサササァッ、ガサササァッ!
「こ……これは……」
「マズイ!」
ガシャァン、ドスン!
とっさに私が、その地下階段の横にあった大きな鉄板を素早く持って、その地下階段の上に被せていき、その上から、さらに巨大な岩石を乗せて置いた。 例えるなら漬け物の重石みたいな感じね。
「ふーう、危なかったぁ……」
「な、ナイス判断です……。
さすがはマイカさんです」
「「「……??」」」
他のみんなはまだ、このヤバイ状況をよく理解していないけど、おそらく知らない方がいいかもね。
どうやら私だけでなく、マトオも今の危機的状況を理解したみたいね。
この地の調査派遣部隊とはいえ、地下階段を降りていった歩兵団と王護聖騎士のみんなには悪いことをしたわね。 でも私たちは降りなくて正解だったわ。
あの兵士は……モンスター…って言ってたけど、おそらくは―――イヤッ!
考えるのも気持ち悪くて嫌だけど、あの音は……まるで大量の巨大な昆虫が階段を登ってくる足音だったわ。
まさかの地下での大量の巨大な昆虫モンスターが人間を襲う?
さすがに想像したくもないマイカの気持ちはわかる。




