45、盗賊共の巣窟
●【No.045】●
丁度その頃、勇者マトオたち一行は、もう既に『邪惚教都』に到着していた。 このかつての王国だった跡地・廃墟の場所まで来ていた。 彼らも馬車で来ていて、御者台に勇者マトオが座り、馬車の中には、戦士ハーリルや僧侶ルシティークや魔法使いエミリアスの三人が乗っている。
この跡地・遺跡には、民家は勿論、宿屋や武器屋や防具屋や教会や酒屋などの建物も、一切ない状態である。 この跡地・廃墟には、そもそも人が暮らしているイメージがない。 だからといって魔物が巣食ってる気配もない。 また人気がない訳でもない。
遺跡の中心部に入ると、俺は馬車を降りた。 ここから先は、もう馬車では行けないみたいだ。 それからさっきから人の気配を感じで、誰かの視線も感じる。
ちっ、仕方がない。
相手がもし盗賊なら、ここでハーリルたちを出すわけにはいかない。 盗まれる恐れがあるからだ。
「ちっ、盗賊か……?
お前たちは馬車の中で待機しろ!
絶対に外に出てくるな!」
「ああ、わかったよ」
「マトオがそう言うなら仕方ないわね」
「はい、判りました。」
俺は馬車の中にいる三人に声をかけた。
三人共とても素直に俺の言うことを聞いてくれて、とりあえずホッと一安心だ。
それにしても、あの『邪惚教都』がすっかり盗賊共の巣窟になっていたとは……?
俺は剣を取り出し構えた。
「………」
ザザッ!
「っ!?」
すると、いつの間にか盗賊共が俺たちの馬車を取り囲んでいた。 一体いつから居たんだ……こいつら? ここはやっぱり、こいつらのたまり場・縄張りなのか? ちっ、それにしてもこの数……ざっと20人は居そうだな? この数……一斉に襲いかかってきたら、いくら俺でも対処できない。 ―――どうする?
「くっ!」
こいつら……かなり殺気だってる……!
本当にイキナリ飛びかかってきそうな感じだぞ……! ま、マズイぞ……!
ニヤリ!
「殺せぇぇぇっ!!」
「「「「おおっ!!」」」」
ダダダッ!
盗賊のリーダー格の男の合図で、部下の盗賊共が一斉に俺めがけて襲いかかってきた。
「はぁはぁはぁはぁ……」
俺は息を切らしながらも、なんとか5人までは剣で倒した。 俺も勇者のはしくれ……まだまだこんな奴らに負けはせん。 それにしても、それほど強くはないようだけど、やっぱり所詮はただの盗賊……この程度なら、なんとかなるかも……?
「はぁはぁはぁはぁ……」
この後も俺は息を切らせながらも、さらに5人くらいはなんとか剣で倒せた。 やっぱりこいつら……それほど強くはないぞ。 ―――イケるか?
「何をしている? さっさと殺せぇぇぇっ!!」
「そ、それが……この男……結構強くて……」
「うるさい! 黙れ!」
まるで喝を入れるように、または気合いを入れるように、盗賊のリーダー格の男が部下の盗賊共に命令を下す。 仕方なく残った盗賊共で、また一斉に俺に飛びかかり、襲いかかろうとした、その時だった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
タッタッタッ!
俺たちが馬車で来た道から、一人の男がこちらに向かって走ってきた。 どうやら、その男も盗賊共の一味のようだけど、慌てた様子で血相を変えて走ってきてる。
「た、大変だ! 大変だ!」
その男がもの凄い勢いで、盗賊のリーダー格の男に詰め寄った。
「どうした?」
「とんでもないパーティーがこっちに向かっている! 俺以外は全滅! 俺も命からがら走って逃げてきた!」
「なんだとっ!? まだこの地に来る者がいるのかっ!?」
「全員女性なんだが、凄く強くて手が出せなかった! あんな恐ろしいパーティーは初めてだ!」
「なんだとっ!? 全員女ぁっ!?」
「…!!?」
おお、そうか。 勇気マイカさんたちが、もうすぐそこまで来てるのか。 マイカさんはあの上位魔族をも倒した女性。 これでこの地に巣食う盗賊共も終わりだな。
盗賊共が話し込んでいる隙をついて、
ニヤリ、ダッ!
俺が素早く大地を蹴って、俺に襲いかかろうとした盗賊共のうち、油断してよそ見してる3人を剣で倒す。 これで13人の盗賊共がうつ伏せで地面に倒れている。
俺も勇者だ。 盗賊相手にやられはしない。
「くそっ、こ……こいつも結構強いぞ!」
「そんなことより、早く撤退だ!
このままだと奴らもここにやって来て、俺たちは全滅だぞ!」
「うっ!?」
それを聞いて、盗賊のリーダー格の男が撤退をするか決めかねてる。 だが、その一瞬の油断が命取りになる。
ズボボボボォッ!
「うぅっ!?」「がぁっ!?」「ぐぅっ!?」「何ぃっ!?」
ドサササッ!
なんと盗賊のリーダー格の男を除く、残った盗賊全員が胸に小さな穴を開けて、その場にうつ伏せで地面に倒れた。 ※(出血はしていない)
「ひぃっ!!?」
ドサッ!
この状況に盗賊のリーダー格の男が一番驚き、思わず尻餅をついた。 まさに一瞬の出来事だった。
まさか、これはマイカの仕業……なのか……?
すぐさま俺は馬車の中からロープを取り出し、そのロープで盗賊のリーダー格の男の両手両足を縛って、彼の身体の自由を奪ってから気絶させた。
これで盗賊共も全滅だな?
俺は自分たちの馬車を遺跡・廃墟の特定の場所に停めて、ハーリル・ルシティーク・エミリアスの三人を馬車から降ろして、マイカさんたちが来るのを待つ。 やがてマイカさんたちを乗せた馬車が、俺たちの待ってる場所までやって来た。
この後でなんとか俺たち一行は、この『邪惚教都』の地で、無事に勇者マイカたち一行と合流できた。
「お待たせ、マトオ」
「お待ちしておりました。 マイカさん」
ようやく勇者マトオと勇者マイカが、この何もない地で合流する?




