115、走る侯爵
●【No.115】●
ここは……とある大陸にある某王国にて。
巨大な壁に囲まれた王国。
大きな街と奥にある王宮と長い階段の上に神殿がある。
街は盛況そうだ。
一般大衆向けの民家・宿屋・酒場・教会・武器屋・道具屋・食堂・"ギルド冒険商"・レストランなどなど、一通りの建物が揃って建ってる。 また道もよく舗装されていて歩きやすそうだ。 そんな道を歩く大勢の人で大変賑わってる。 ここは一般大衆向けの街であり、爵位を持たない者たちが暮らす場所。
その少し奥には、爵位のある貴族が住む豪邸・別荘や高級店などが建ち並ぶ。 そこは貴族が行き交う街であり、爵位のない一般大衆は入ってこない。 少しもの静かで美しい街並みであり、道が綺麗に舗装されていてゴミ・ホコリなどもないイメージだ。 主に男爵・子爵・伯爵・侯爵などがいる。
この王国では、一般大衆と貴族の住む場所が明確に分かれている。 一般大衆が貴族の街にあまり入らず、貴族も一般大衆の街にあまり寄りつかない。 今は特に対立・差別とかはないんだろうけど、もしかしたら昔はあったのかもしれない。
そのさらに奥に王宮がある。 おそらく王族たちが住んでると思われるけど、なにぶん一際大きい建物なので、王国の入口からでも、よく見える。 そして…勿論、王様もあの王宮・宮殿にいるものと思われる。 主に公爵・王爵・王族などがいる。
その王宮の後ろには、上に登る長い階段があって、その一番上の最上階に神殿がある。 一体何のために、こんな神殿が建てられているのか? 今ひとつ、よく解っていないけど、昔からこの王国には、あの神殿があった。 そして…あの神殿には、当然ながら誰かいる。
「………」
そんな神殿の前で立っていて、街を眺める者がいる。 黄金の鎧兜を装備して純白のマントを身につける。 頭を覆う兜を被っているので、顔が影でよく見えない。 だから男か女かよく解らない。 その者が無言で静かに後ろを振り向いて、また神殿の中へ戻っていった。 この者は一体何者なのか・・・?
ある日の早朝のこと。
ここは某大陸にあるライドベル王国であり、ここはその王都になる。
王国の入口で豪華な馬車が停まり、その馬車から一人の女性が降りてきた。
タッ、タッ、タッ、タッ!
入口を抜けて王国に入る女性。
「………」
入口にも門番はいるけれど、その女性が門番に向かって手を振ると、門番も会釈する。 顔役なのか、そのまま素通りする。 ……誰も引き止めない。 彼女が街の奥へと走っていく。 通り過ぎる人たちに向かって手を振ってニコリと微笑む。
その女性とは、長い黒髪にピンク色のリボンをつけて、ピンク色のロングドレスを着ていて、赤いハイヒールを履いてる。 両手でスカートを持って走ってる。
タッ、タッ、タッ、タッ!
「おはようマリアン様」
「おはようございます」
「おはようマリアン様」
「おはようございます」
「おはようマリアン様」
「おはようございます」
その行く先々で、走る彼女に向かって挨拶をする人々。 彼女もまた手を振ってニコリと微笑みながら挨拶する……けど、走りながらである。 そんなに何を急いでいるのか? 走りにくいはずのハイヒールを履いて走っていく。
彼女はマリアン侯爵といい貴族である。 見た目が若いけど、年齢は不詳。 身長は女性の平均身長よりも少し高め。 腰まで伸びた長く綺麗な黒髪をピンク色のリボンでまとめている。 紫色の瞳に薄紅色の口紅。 ドレスの上からでもわかるほどの胸の大きさと、ドレスの上からでもわかるほどのウエストの括れがある。 彼女は令嬢ではない。 両親が侯爵ではなく、彼女自身が侯爵なのである。 そして現在…彼女の両親は不在であり、不明である。
「おはようマリアン様」
「おはようございます」
「おはようマリアン様」
「おはようございます」
「おはようマリアン様」
「おはようございます」
タッ、タッ、タッ、タッ!
街のみんなが彼女に声をかけ挨拶する。 彼女もまた手を振ってニコリと微笑んで挨拶していて、長い黒髪をなびかせながら走っていく。 こうして一般大衆向けの街を駆け抜けた。
やがて一般大衆向けの街を抜けると、今度は貴族の街へと入る。 ここでも顔役なのか、まるでいつものように素通りして入る。
貴族の街に入っても道を走って駆け抜ける。 走ってる貴族はほとんどいないが、歩いてる貴族の間を縫うように避けて走る。 意外に慣れた様子で避けて走るので、もしかして毎日やってるのか?
タッ、タッ、タッ、タッ!
「おはようございます侯爵様」
「おはようございます」
「おはようございますマリアン侯爵」
「おはようございます」
「おはようございますマリアン様」
「おはようございます」
ここでも走ってる彼女に挨拶する貴族たち。 彼女はここでも知名度が高いのか? 彼女もさっきと同様に手を振ってニコリと微笑みながら挨拶する。 それにしても彼女は意外に速く走る人だ。
ここでも特に咎める様子もなく、彼女が軽快に街の奥まで走る。 貴族の街で走ってるのは、彼女ぐらいだ。 やがて王宮・宮殿が近くまで見えてきた。 彼女は王宮にでも用があるのか? 意外にも速く走って王宮の近くまで来ていた。 ロングドレス&ハイヒールで、この走りはさすがに凄い。 本当に何者なんだ彼女は・・・?
「おはようございます侯爵様」
「おはようございます」
「おはようございますマリアン侯爵」
「おはようございます」
「おはようございますマリアン様」
「おはようございます」
タッ、タッ、タッ、タッ!
貴族のみんなが彼女に声をかけ挨拶する。 彼女もまた手を振ってニコリと微笑み挨拶しながら、長い黒髪をなびかせて走り去る。 こうして貴族の街も駆け抜けていく。
遂に王宮・宮殿に到着した。
「これは侯爵様」
「お疲れ様です」
入口にいる門番・衛兵が彼女に敬礼する。 彼女も門番・衛兵に労いの敬礼をするが、なんと宮殿には入らず、横道に逸れて右側へ向かって走る。
「………」
タッ、タッ、タッ、タッ!
宮殿の周囲の裏道の右側を走るマリアン侯爵。 普通、こんな所を通れば咎められるところだが、そういうことは一切見られない。 門番・衛兵も彼女が通り過ぎるのを横目で見ながら敬礼を続けていた。 彼女は王宮には入らず、王宮横の脇道を通って、このまま神殿のある階段の所まで走る。
「見えてきたわね」
やがて神殿に通じる階段が見えてきた。 階段の目の前に到着すると、ようやく彼女も止まる。 見た目が大きく長い階段であり、さすがにロングドレスにハイヒールの姿の身で登りきることはできない。 けど…大きく長い階段のすぐ右側にも小さく細い階段があって、そこに純白のフード・ローブ・マントを着て杖を持った男が立ってる。
「お待ちしておりましたマリアン様」
「いつものお願いね」
「はっ、かしこまりました」
ゴゴッ、ウィィィーーーン!
そこで彼女が、その小さく細い階段の一番下の段に乗ると、石でできた階段が突然動き出し、自動的に彼女を上へと運んでくれる。 これはもしかして…『エスカレーター』なのか? 石の階段が…まるで『エスカレーター』のように動き出して、彼女は立ったまま、階段の一番上まで自動的に移動する。 構造は不明だが、おそらく動力は魔力なのだろう。 あの魔法使いが動かしてると思われる。 だから…あの純白のフード・ローブ・マントを着て杖を持った男が立って待ってたのだ。
そして彼女が階段の一番上に到着すると、ようやく神殿が見えてきた。 その神殿に近づいてみると、
そこには『アプロテ神殿』と書かれてた。




