109、王様に報告するわよB
●【No.109】●
勇者マイカたち『ブラックファントム』が無事にアリスノヴァイン王国に到着した。 もう既に夜が明けていた。 昨夜は夜遅くまでドラゴンの背中に乗って、あの "バイオメドリグス" の国まで行ってから、とんぼ返りして、なんとか夜明けとともにアリスノヴァイン王国に到着した形となる。
アリスノヴァイン王国の王都・城下町 "プリデミア" の王宮の窓を内側から使用人のメイドの女性が開けてくれて、私たちがそこから侵入する。 アロトリスのドラゴンが私たちを運び終えると、天高く飛翔して、また何処かへ飛び去っていった。 それと巨大カマキリモンスター【デスキラー・シャ】もアリスノヴァイン王国のはるか上空で待機する。
「お疲れ様でした。 マイカ様」
「ありがとう」
その使用人のメイドの女性が深々とお辞儀して、私たちの労を労うけど、私はそのまま彼女に話しかける。
「王様とお姉様はもう起きてる?」
「はい、今は執務室におります」
「今から行けるかしら?」
「はい、大丈夫です」
「それならマトオたちも王様の執務室に来るように言ってもらえるかしら?」
「はい、かしこまりました」
「お願いね」
そう言うと使用人のメイドの女性がまた深々とお辞儀して、クルリと後ろを向いて歩いていった。 私たちはそのまま王様のいる執務室まで歩く。
何も王様がずぅーっと一日中『玉座の間』にいるわけではない。 朝起きたら、まず自分の執務室で仕事をしている。 少年王なので姉のヤナイ姫が弟をバックアップする。 当然だけど、普通一般人が王様の執務室に行くことはできない。 しかし、この私たちはもう既に何回もこの国を救い、実績・功績もある。 オマケに爵位もあって、一応は貴族でもある。 さっきのメイドも王様がわざわざ私たちに付けてくれた使用人なの。 この国において、私たちは一定の地位を確立してるといって過言ではない。 もっとも王様も私のことを二人目のお姉ちゃんだと思ってるフシはあるけれど……?
私たちが王様のいる執務室に到着した。 早速だけど、執務室のドアを三回ノックする。
コン、コン、コン!
「はーい、どうぞぉーー!」
「失礼します」
ガチャリ!
部屋の奥から声がしてから、私たちが執務室のドアを開ける。 王様の許可を得たことによって、執務室への入室が許された。 いかにこの私でも王様の執務室では、王様の許可なくして入室は許されない。 私たちが執務室に入っていった。
「おはよう王様」
「「「おはようございます王様」」」
「おはよう」
「おはようございます」
「いらっしゃいお姉ちゃん」
「ようこそマイカさん」
「ただいま戻ったわ」
「お疲れ様マイカさん」
「それで一体どうしたの?」
「ええ、その前にマトオたちが来るから待ってもらえるかしら?」
「うん、いいよ」
「はい、判りました」
私たちが執務室に入ると、部屋の奥の方にある机の椅子に座る王様と、机の横にある椅子に座るヤナイ姫の姿があった。 私たちがドアから左側にあるソファーに座り、王様たちと朝の挨拶をする。 仮にも王国の王様とタメ口で談笑するなど、世界広しといえども、勇者マイカとヴァグドーぐらいしかいないだろう。
するとそこに―――
コン、コン、コン!
ドアを三回ノックする音が聞こえた。 おそらくマトオたちが来たのだろう。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
「来たわねマトオ」
「お待たせしましたマイカさん」
「おはようございます王様」
「おはようございますヤナイ姫」
「おはようございます王様・ヤナイ姫」
「おはよう」
「おはようございます皆さん」
「おはようマトオ」
「おはようございますマイカさん」
ガチャリとドアが開いて、マトオたちが執務室に入ってきた。 そのままドアから右側にあるソファーに座る。 これで全員揃ったようね。 朝の挨拶もそこそこにして、これから本題に入る。
「それでは話すわよ?」
「うん」
「はい」
「「「……」」」
「「「「はい」」」」
私が昨夜に起きた "バイオメドリグス" の国での異変を語り出す。 まず始めに "バイオメドリグス" の国の "西の森" に出現した《巨紅龍》というドラゴンと "バイオメドリグス" の国にいた [黒兵]との戦いについてだが、これは単なる陽動であり、実は大魔王イザベリュータが裏でカラスクイーンアテナの拉致・誘拐をしていて、カラスクイーンアテナ打倒に失敗したポグルスが石化して大魔王イザベリュータに破壊されたことを話す。 実際に見たこと聞いたことを端的に説明する。
「「えっ!!?」」
「「「何っ!!?」」」
「「「……」」」
さすがの王様・お姉様やマトオたちも私の説明に驚く。 シャニルたちも実際に私と一緒に見聞きしたけれど、未だに腑に落ちない様子。 正直いって、私自身もまだ納得してない部分がある。
「そ……そんなことがぁ……?」
「……大魔王イザベリュータ……」
「……カラスクイーンアテナが拉致・誘拐……?」
「……ということは…カラスクイーンアテナは…もうあの国にいないんですか……?」
「ええ、そういうことよ。 しかも…この大陸にもいないことになるわね。 大魔王イザベリュータは別の大陸にいる大魔王だからね。」
「へっ!?」
「へぇ~~」
「その大魔王って、一体何人いるの?」
「アオからの情報だと、大魔王は全部で四人よ。 それぞれが別の大陸にいるらしいわ。」
「………」
「大魔王が四人も……?」
「信じられない……?」
「そっ、そんなことがぁ……?」
「「「……」」」
これはミドリとアオからの情報である。 大魔王エリュドルス・大魔王イザベリュータ・大魔王ゼン・大魔王デスゴラグションの四人の大魔王が、それぞれ四つの大陸に点在していて、お互いに牽制しながら覇を競うらしいけど、一体いつから大魔王が四人もいるのかは、未だに解っていない。 比較的穏健派のエリュドルス・イザベリュータ・ゼンの三人に比べて、強硬派で知られるデスゴラグション。 そもそも大魔王に穏健派とか強硬派とかあるのか? 大魔王が四人もいれば、それぞれ性格も異なると思うけど―――そもそも強硬派って、どういう意味?
「なるほどねぇ~~」
「何で大魔王イザベリュータがカラスクイーンアテナを拉致・誘拐したの?」
「カラスクイーンアテナが悪魔神復活を目論む信者であり、イザベリュータが悪魔神復活を阻止する一派だからよ。」
「「「……」」」
「結構複雑なんですね?」
「まぁ…そうですね…」
「でも結構理に適ってるわよ。 カラスクイーンアテナは悪魔神の熱狂的盲信者であり、イザベリュータにしてみれば、魔族の王たる自分たちよりも、さらに強い奴なんかが出てきたら、そりゃあ…もうやってられないわよ。 私でもそう思うもの」
「た……確かに……」
「まぁ……そうだけど……」
「……凄い構図ね……」
「だから大魔王がカラスクイーンアテナを誘拐したのか? 悪魔神復活を阻止するために……」
「そうらしいわね」
「へぇ~~」
敵の敵は味方とも言うけれど、悪魔神復活阻止という観点から、私たちと大魔王たちとでは、意見・目的は一致している。 だからこそ大魔王たちもあまり私たちには深く関わらないようにしている。 それでも…まだ疑問がひとつだけ残る。
・・・・・・・・
それなら何故、石化して動けないはずのポグルスをわざわざ破壊する必要があったのか? そこが不思議でならない。