105、何があったのか、説明求む
●【No.105】●
ここ "バイオメドリグス" の国の "西の森" にて。
あの《巨紅龍》・《ミスカラスレディ》・《ミスターカラスポーン》・《カラスナイトクリムゾン》・[カラスクイーンアテナ]・[プリンシパリティ]・《巨蒼龍》の姿が消えた。 さらに なんとポグルスの身体が石化した。 それを見ていた『聖女』カロテラも姿を消した。
今、この森近辺にいるのは、勇者マイカたち一行&上位魔族トウ&ヴァグドゥルス&[黒兵]たちだけである。 その[黒兵]はドラゴン消失に驚愕するものの、またすぐに死体の運搬や死傷者の確認・手当てに生存者の確認などをして撤退準備をする。 幹部連中が消えたというのに、ひどく冷静だ。 またあのカラスクイーンアテナを倒すことが目的だったポグルスが、倒す前に何者かに連れ去られてしまい、彼個人の任務失敗と、その代償として、彼の石化した姿が無造作に置かれてた。 彼はまだ生きているのか、それとも死んでいるのか?
結局は、私たちが《巨紅龍》と戦うことができず、ポグルスの石化を許してしまった。 なんとか私やヴァグドゥルスや上位魔族トウが石化したポグルスを運び出そうとするが、そこでさらに追い打ちをかける。 それは無惨なものだった。
ビビッ!
「「「「!?」」」」
ズドッ! パァリィィィーーーーンンン!
なんと……天上から一筋の赤紫色のレーザービーム (黄金の稲妻付) が突然降ってきて、それが石化したポグルスの胸部を素早く貫通。 ポグルスの身体が無惨にも呆気なく砕け散った。 これでポグルスは文字通りの再起不能(生死不明)となり、砕け散った石の破片も跡形もなく消滅した。 これはさすがに予想外の出来事だった。
「「「えっ!?」」」
「「何っ!?」」
「くっ!」
一体何が起こったのか理解できなかった。 だが…私だけが一瞬早く上空の方を見上げた。 すると、そこには巨大な右手だけが上空高く宙に浮いており、その巨大な右手の人差し指で、おそらく赤紫色のレーザービーム (黄金の稲妻付) を放ったと思われる。 その巨大な右手が石化したポグルスを破壊すると、またすぐに消えた。
「嘘っ!?」
「なんということなの?」
「まさか…ポグルスまで…?」
「これは一体……?」
「どういうことなの?」
「バカな……何故……?」
「そんなバカな……?」
この一連の流れ……。
謀ったとしかいいようがない。
そう、何者かの謀略により、このような事態になった……としか考えられない。 それがどういう目的で誰がやったものなのか、それを調べて見つけなければ…おそらくカラスクイーンアテナをはじめとした仲間・部下たちを救出することはできないだろう。 しかし、そもそも彼女たちを助ける必要があるのか?
あの《巨紅龍》が消えたことで、交戦していた [黒兵]の半数を失うものの街での被害が皆無だった為、辛うじてだが "バイオメドリグス" の国は守られた。 ここに来て、ようやくホッと一安心して撤退した。
「とりあえず場所を移動しようか」
「ええ、わかったわ」
「……」
私はヴァグドゥルスの提案に賛同して、私たちはあの例の "森の宿屋" まで移動することにした。 こんな所にいつまでもいる訳にはいかないからね。 まぁ…ポグルスの件もあるけれど、とりあえず朝になる前に、ここから移動しないといけないわね。
━・ー●ー・━
ここ "バイオメドリグス" の国の "森の宿屋" にて。
だいぶ夜も明けてきて、私たちやトウは宿泊部屋の一室を借りて、なんか知ってそうなヴァグドゥルスと話し合った。 結局のところ、あの《巨紅龍》は逃がしたけれど、事の真相ぐらいは究明しないと、帰るに帰れないわよ。
「あの《巨紅龍》は一体何だったの?」
「どういうことか説明して」
「あの《巨紅龍》は、明らかに単なる時間稼ぎだった。 時間が経つにつれ、激しさも勢いも衰え、みるみるうちにおとなしくなった。 そして消えた」
「時間稼ぎって、カラスクイーンアテナ誘拐・拉致の為の?」
「ああ、そうだ」
「……」
「つまり、アレとは別に別動隊がいて、ソイツらがカラスクイーンアテナをさらったってこと?」
「ああ、そうだ。 そして連動していた《ミスカラスレディ》・《ミスターカラスポーン》・《カラスナイトクリムゾン》も一緒になって消えた。」
「……」
「きっと……遂にカラスクイーンアテナの居場所を見つけたんだ」
「でも…一体誰が……?」
「カラスクイーンアテナは色んな奴らから狙われていた。 おそらくソイツらの誰か―――だけど、心当たりがある。」
「あら、ホント?」
「一体誰なんだ?」
「おそらく女神タナトスか大魔王イザベリュータだな。」
「えっ、女神タナトスが?」
「へぇ~、あの女神が……」
「ちょっと待て! 大魔王イザベリュータって、別の大陸からわざわざカラスクイーンアテナを拉致ったのか?」
「おそらく部下に任せたと思う。 いくらなんでも大魔王自らがわざわざ別の大陸まで行くことはできない。 大魔王間の取り決めでお互いに不可侵なはずだからな。」
「でも…なんでイザベリュータがカラスクイーンアテナを?」
「カラスクイーンアテナとイザベリュータは敵対していた。 イザベリュータは悪魔神復活阻止派で、カラスクイーンアテナは悪魔神復活派だったから、イザベリュータはカラスクイーンアテナが邪魔だった。 否、喉から手が出るほど欲しかった。」
「「「……」」」
「そして女神タナトスと大魔王イザベリュータは裏で繋がっていると見ている。 なにせタナトスも悪魔神復活阻止派の一人だからな。」
「「「……」」」
「タナトスがカラスクイーンアテナの居場所を突き止め、イザベリュータの部下にカラスクイーンアテナの誘拐・拉致を任せた。 いくらなんでも女神がカラスクイーンアテナを誘拐・拉致するワケにはいかないからな。」
「な…なんと…!」
「それはわかったわ。 でも…なんでポグルスまで?」
「ポグルスの石化は女神の代償。 そしてマイカが見たという巨大な右手は大魔王の差し金。 おそらく大魔王はポグルスのことを邪魔に思ってた。 それだと辻褄が合う。」
「「「……」」」
「ポグルスが邪魔になった?」
「しかし、女神の指令なのでは…?」
「ああ、そうだ。 女神の中にも色んな奴らがいるらしい。 しかも、あまり意思疎通もできてないらしい。 今回は任務に失敗したから代償として石化したみたいだ。 その隙をついて、大魔王が右手を使って石化したポグルスを破壊したことになる。」
「なっ!?」
「なんと!?」
「おそらくチャンスだったんだろう? ポグルスを倒す―――」
「……」
「でも、それなら何故…マイカさんには、何もしなかったのですか?」
「私は邪魔じゃないの?」
「おそらく今のところ排除する必要がないからだ。 あのカラスクイーンアテナを二度も見逃したしね。 今は女神も大魔王もマイカを無害だと思ってる。 それに下手に手を出して敵対されると厄介だしね。 アレだよ "触らぬ神に祟りなし" ってヤツさ。」
「「「……」」」
「私って……厄介なの?」
「なるほど、確かに……」
「―――問題はここからさ」
そう、本当の問題はここからなのよねぇ。
夜が開ける中…私たちの話はまだまだ続くみたいね。